◎台湾からの誘客 今年が正念場ととらえたい
昨年一年間に兼六園を訪れた台湾からの観光客は、前年よりも14%増え、九万人を超
えた。日本政府観光局(JNTO)によると、全国では前年比0・4%増(推計値)に過ぎなかったのだから、大健闘したと言ってよいのだろうが、このところの世界的な景気後退の波は台湾にも及んでおり、円高台湾ドル安も急速に進んだ。あれだけおう盛だった台湾の海外旅行需要も、最近はさすがに落ち込み気味という。
石川だけが、いつまでもこうした「逆風」と無縁でいられるわけがなく、兼六園の月別
入り込みを見ても、昨年下半期は前年を下回る月が続いた。小松―台北便就航に合わせて大々的に実施されたキャンペーンの効果もそろそろ薄れよう。今年が台湾からの誘客の正念場であるととらえたい。
県は昨年、県内の外国人宿泊者数を、一四年末までに〇三年の十倍、年間五十万人に引
き上げるという計画を立てた。台湾からの誘客拡大はその柱の一つだ。大きな目標を打ち出した途端に世界中が未曾有の不況に陥ったのは、不運としか言いようがないが、だからといって縮こまってばかりでは達成はおぼつかない。
今年も、富山や福井、さらに岐阜、長野などとも力を合わせ、誘客の取り組みを息切れ
せずに続けてもらいたい。最近、県が誘致したスキーツアーが好調で、参加者数が定員を上回るペースで推移しているように、不況でも、工夫次第で観光客をひきつけることができるはずである。
情報の発信にあたっては、現地のメディアやガイドブックなども大いに活用したい。昨
年は石川を舞台にしたテレビドラマ「花の恋」が台湾で放映されたが、その第二弾を狙ってみるのも面白い。
県内では、台湾で烏山頭(うさんとう)ダム建設に尽力した八田與一(よいち)技師の
アニメ映画「パッテンライ!!」の公開などを機に、台湾との交流への関心が確実に強まっている。同技師生誕祭で、後輩に当たる金沢市花園小児童が同技師の偉業をたたえる歌を合唱することが決まったのも、その一例と言えよう。観光誘客に加え、双方向の交流もさらに盛り上げていきたい。
◎出入国カード要求 ロシアの狙いに要注意
北方四島のロシア住民への人道支援物資供与事業のため国後島に上陸しようとした日本
の外務省職員らがロシア当局から出入国カード(出入国申請書)の提出を求められ、従えば四島をロシア領土として認めることになると引き返し、政府が外交ルートを通じて遺憾の意を表明したのは当然であり、ロシアの狙いに注意を払う必要がある。
日本の国民と四島のロシア人が旅券や査証なしで相互訪問する、いわゆる「ビザなし交
流」は二〇〇六年から出入国カードもなしに続いてきた。加えてロシア側の申し入れで二月中旬にもサハリンで日ロ首脳会談を行う調整が進められている最中に、ロシアがなぜ両国関係を冷却させるような態度に出たのか。日本政府の抗議に対して、ロシア外務省は「実務上の必要に基づく法の要請」とし、この問題で日ロ関係が冷却しても「ロシアは責任を負わない」との声明を発表した。
ロシアは援助団の出発に先立ち、〇六年の国内法改正で出入国カードの提出が必要にな
ったと知らせてきたそうだが、〇六年後の援助物資供与の訪問はカードなしで、今回、唐突に対象にしてきたのである。一方的なため、援助の供与を通して四島のロシア人と日本国民が融和することに冷水を浴びせる狙いや、首脳会談で領土問題が出るのを想定し、駆け引きに使う手段として新たなカードを持ち出してきたように見える。
北方四島を管轄するサハリン州のホロシャビン知事は日本に冷淡だった前知事と違い、
日本の経済援助や技術援助を求めている。サハリン州は天然ガスなど豊富なエネルギー資源を抱えながら、人口減少に苦しみ、プーチン大統領時代に採択された「クリール(千島)諸島社会経済発展計画」も遅滞しているためだ。
戦略的に用いてきた原油などの資源価格の下落で、ロシアが赤字財政に追い込まれてい
るため、日本からさらなる経済協力を引き出すための交渉に使うカードとも考えられる。いずれにせよ、外務省はロシアの意図を把握しなければならない。