ミニチュア文化・netsuke [前編] | 2797|共感0
41177| JAPANrindoh | 2005.07.07 01:17:58
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ミニチュア文化・根付 (根付 netsuke) [前編]

 
根付 (根付 netsuke) とは,江戸時代に印籠 (印籠 inroh)巾着 (巾着 kinchaku),煙草入れなどの提げ物を腰の帯にぶらさげて携帯するために,紐の先に通して使用する滑り止め (stopper) として作られ,芸術品の域まで発達した小さな装飾彫刻のことです。
提げ物の先端にあたかも“根っこ”のように結ばれ,着物の帯の上に引っかけて提げられたことから,“根付”と呼ばれました。文献上で最初に“根付”という語が現れるのは,寛文11年 (1671) の『寶藏』が最初だと言われています。
 
上の写真を見ると,丸い根付が帯の上に引っかけられて,煙草入れと煙管入れが帯の下でぶら下がっています。これが根付です。
帯の上の目立つところに根付は着けられました。そのため,彫刻に贅を尽くした装飾品の一つとして,江戸時代の着物文化と共に根付は発達しました

根付は2次元の絵画とは異なり,ミニチュア彫刻であるため,6面(正面,背面,両側面,上面,底面)のどこからでも楽しむことのできる彫刻であり,他の大型の彫刻と異なるスタンスをもっています。
ケータイストラップと同じように,他人の視線にさらされることを十分意識して身に着けます。
よって,着物の帯の上から紐を通してぶら下げたときに,他人の眼からどのように見えるかを配慮しながら彫る意匠に,
その妙があります。そのため,紐通しの穴の位置や形状にも工夫が凝らされました。
また,手持ちぶさたの時には,おそらく掌に転がして楽しんでいたものと思われます。
触って,転がして,撫でたときの“手触り”の官能も,根付の鑑賞方法の一つと言えます。

根付は自由な創意,工夫,表現の多種多様性を持ち,江戸庶民の趣向と機知が凝縮されています。
古根付 (ko-netsuke) と呼ばれる江戸時代の古い根付は,大体17〜18世紀頃に初期の根付が形作られ,
18世紀後半から19世紀前半の約1世紀に渡り発達を遂げました。
文化・文政時代 (1804年-1830年) から江戸時代の末期の時代が根付の最盛期と言えます。
江戸 (Edo) や京都 (Kyohto),大阪 (Ohsaka),名古屋 (Nagoya),伊勢 (Ise),奈良 (Nara),丹波 Tamba),飛騨 (Hida),岩見 (Iwami) といった地方において,それぞれの流派 (School) が形成され,材質や意匠,技法において独自の特徴を持った根付が数多く生産されました。






■ 形状による分類



形彫根付 (katahori netsuke)   友忠 (Tomotada) 「雌牛」 6cm 18世紀後半〜19世紀初頭 京都
根付の中で最もポピュラーな形状で大部分の根付がこれになる。動物や人物などを題材にして立体的に六面体全てを彫刻。
どこから眺めても楽しむことができる根付。通常,紐通し穴は底部に2カ所開けられているが,意匠の中の手足の交差を巧く利用して紐通しにしているものもある。


 
饅頭根付 (manju netsuke)   孝眠 「張良と黄石公」 直径51mm  幕末・明治
お菓子の饅頭のような平べったい円形の根付。表面に豪華な彫刻を施して紐を中央部に通す構造となる。
ろくろで回して円形に仕上げるため,大量生産が可能であった。形彫根付に次いで多くの根付が作られた。
上の構図は,張良が水中の大龍に乗り,橋下から橋上の乗馬の黄石公に沓を捧げるところ。


 
柳左根付 (ryusa netsuke)   無銘 「羅城門の鬼腕」 海象牙 (セイウチ牙) 4.7cm 19世紀
形状は饅頭根付だが,中を透かし彫りにして中空構造とした根付。花鳥などを細かく透かし彫りにしたものが多い。
18世紀後期の江戸時代に柳左という人がこの意匠を創始したことからこの名前が付いていると言われる。



鏡蓋根付 (kagamibuta netsuke)
象牙で皿上の台を作り,上の金属の蓋をした根付。銅,赤銅,銀などの彫金細工のプレートを嵌め込んだもの。
台は,象牙,黒檀,紫檀などで作られる。金属プレートが手鏡に似ていることから命名された。



差根付 (sashi netsuke)
帯の下をくぐらせるのではなく,帯に差して提げ物をぶら下げる根付。長さは10cm 〜15cm 程度となる。
刀を腰に差して持ち運ぶ姿を想像すればよい。題材も「手長足長」や「魚」などの細長い題材が主となる。


 
長根付 (naga netsuke)
形は差し根付に似ているが,形彫根付と同じように帯にくぐらせて使用する。そのため紐通し穴が背面中央部に開けられている。


 
面根付 (men netsuke)
般若,能面,おかめ,鬼,七福神などの仮面を縮小して根付に仕立てたもの。
能面師が副業で面根付を作り始めたと言われる。




その他
石,木片,珊瑚などの自然物をそのまま用いたものや,中国から伝わった印鈕を転用したもの,
箱根付,そろばん根付,からくり根付などの根付がある。





■ 最大特徴: 紐通し穴

 
根付の最大の特徴は,紐通し穴 (Himotoshi-Hole) の存在です。
根付には,必ず提物をぶら下げるための紐を通す穴が空いています。
逆に,穴の空いていない根付は,置物として厳格に分類され,根付とは区別されます。
手に取ったものが根付であるかどうかは,まず紐通し穴の有無で区別できます。
わずか数ミリの穴ですが,穴の形状を見ただけでその根付師を当てることができたり,
穴の内壁を見れば材質の真贋が判明する場合があります。
つまり紐通し穴は非常に重要で,根付鑑賞においてはとても意味のある存在であります。




煙突型   無銘 「神農」 4.3cm 17世紀 京都・大阪
18世紀以前の古根付に見られるタイプ。底面から背中に突き抜け,穴の径は大きめで,二つの穴はほぼ同じ大きさ。
根付自体が大ぶりであったのと,いくつもの煙管筒や巾着などを同時に一つの根付でぶらさげていたため。



幕末・明治型   光正 「鯛車で遊ぶ童」 3.5cm 明治・大正 東京
小型の紐通しとなるのが特徴。背中又は底面のどちらかに2穴となるタイプが多い。
彫刻技術や印籠紐の発達,また根付の実用性が薄れたためと考えられる。


 
意匠構造利用型   正一 「玉獅子」 3.4cm 19世紀中期 大阪 (名古屋)
根付には紐通しが明示的に開いておらず,意匠の一部を利用して紐を通して使用するタイプがある。
例えば,動物の手足や植物の茎などのデザインの一部分を自然のまま上手に利用して,紐を通して結べる構造である。
上の「玉獅子」は左手,左足,玉の3点で紐が通る穴が巧みに構成されている。実際の使用痕がある。






与えられた条件の中で自由に応用・発展させること,そんな国民性が昔から日本人にあると思われますね。


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peachboy|07-07 01:25
うーん。素晴らしい。rindohさん、やったね。これを見て凄いと感じるか、矮小と感じるか、文化の分かる民度差が出るね。後編が待たれる。
rindoh|07-07 01:30
peachboy> こんばんは。造船人には根付の芸術性自体は理解できないでしょうね。大英博物館に常設コレクションがあることで初めて妬む、みたいな。(w
rindoh|07-07 01:34
朝鮮時代の街角写真集は管理人のお気に召さないらしい。ε-(=`ω´=)
pleasure108|07-07 01:46
根付って熱狂的なマニアが多いらしいですね。 一級品となると1千万円を超えるとか。
rindoh|07-07 01:57
pleasure108> こんばんは。海外での人気が逆輸入された結果ですね。現代根付もなかなか。>>> http://www.jti.co.jp/Culture/museum/tokubetu/eventMay20/
mukaetutu|07-07 02:01
すげぇ・・ 海外に大量に流出しているのモッタイナイモッタイナイ・・ 
mukaetutu|07-07 02:03
からくり根付ってこういうのですね。首をふると舌が出るそう。http://www.art-sugimoto.jp/images/jpg/9/9-6e.jpg
rindoh|07-07 02:09
mukaetutu> こんばんは。上の鉄砲型の根付もからくり根付です。火蓋が開閉し,引金を引くと撃鉄が落ちるそうです。弾は撃てないようですが。(w
rindoh|07-07 02:11
Topの駅弁ストラップも、いうなれば現代のからくり根付。(w
mukaetutu|07-07 02:13
こんばんは。なるほど・・ こういうミニチュアで稼動する物、日本人は昔も今も大好きなんですねー。ありがとうございます。
pleasure108|07-07 02:13
mukaetutuさん>浮世絵と同じように当時の人々は芸術品とではなく、日常品の一つと考えていたんでしょうかねぇ… でも海外の人々に愛されて居るってもの、それはそれでいいかなぁっと思ったり。
ttolssi|07-07 02:14
立派ですね.. 多様で面白い文化という感じがしますね..
mukaetutu|07-07 02:17
pleasure108>そうですね・・ あまりに身近にありすぎて、その価値が新鮮ではなかったのかなぁ・・ イギリスでは隔年でかなりポピュラーなauctionの本(おおまかな相場の情報)が出ているんですけど、そこには根付もあります。大事にされてればいいですね。
rindoh|07-07 02:28
実用品でしたからね。しかし、実用品としての枠組みの中での芸術の追求に、日本刀に通じる日本文化の心を感じます。。。
rindoh|07-07 02:29
浮世絵も陶磁器の包装紙として使われたこともあったし。ちょっと違うか。(w
kuroyagi|07-07 02:32
ウリの地元でも、現代根付の展示会があったので調べてみたら、動画があったニダ。一応貼り付けておくニダ。 http://www.city.matsumoto.nagano.jp/daisuki/hoso/2003/11/2003112101/
ttolssi|07-07 02:37
日常生活の中で自然に成り立った芸術が何より価値のあるのです..
rindoh|07-07 02:39
kuroyagi> おー、すばらしい!高円宮は根付コレクターとして有名でしたからね。。茶釜?のからくり根付がすごい・・・
pleasure108|07-07 02:39
rindohさん>日常品の中にデザインを取り入れ楽しんだって感じですね。 江戸の庶民って、お洒落ですから。 今の携帯電話を、数百年後の人々が新鮮な目で見る…微妙に違うかぁw
rindoh|07-07 02:40
ttolssi> 実用に根ざして発展した芸術は、迫力がありますね。
rindoh|07-07 02:42
pleasure108> そうですねえ。あくまで実用品でありながら、その機能を損なわず美的要素を盛り込んで楽しんだ・・・この両立はすごいですよね。
rindoh|07-07 02:47
日本刀も最高品質の切れ味と耐久性を保持しながら、太刀姿や刃文、地金の美しさを両立させ、加えて鍔や三所物、鞘などの拵えにも芸術的要素を取り込む・・・これぞ日本の文化。。。
guevara|07-07 05:14
いいですねえ、根付。現実を忌避して、妄想の栄光に浸る朝鮮民の方々の立ち入る世界ではありませんね。酔っ払って帰宅して寝てしまい、今頃書き込んでおります。出遅れました(笑)
sakaisaurabi|07-07 08:45
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