「性欲は普通にあるのですが、セックスが怖いのです。まったく経験がないわけではありません」。セックスに嫌悪(けんお)している様子がうかがえるHNさんからのメールですが、実は同じような悩みを抱えている男性は少なくありません。
何がきっかけでこうなったのかについては書かれていませんが、「女性とデートした際に、明らかに相手に期待されていたとしても、ホテルや自宅に誘うなど、セックスを想起させるような事はどうしてもためらわれます」というのです。「相手に対しては魅力を感じているのに、その先に起こるセックスをイメージするだけで恐怖感が全身を走り抜ける」と悩みは深刻です。若いころなんて、とにかくやりたい一心で日々過ごしていた僕にとっては想像もつかない世界を生きているとしか言いようがありません。
相手との性行為が予期されると強い否定的な感情が起き、性行為を回避するほどの恐怖や不安が生じることを性嫌悪症と言います。今までですと、性嫌悪症と言えば女性の病気と考えられており男性の症例は少なかったのですが、最近ではこのような男性からの相談が増えています。あべメンタルクリニック(浦安)の阿部輝夫医師によれば、これは他の国ではみられない日本特有の傾向だというのです、いったい日本の文化や社会の何がこのような不可思議な現象を生み出しているのでしょうか。
ED治療薬としてのバイアグラ、レビトラ、シアリスなどが話題になっていますが、これらの薬剤を使用する場合、性的に興奮することが前提にあるわけで、HNさんのように、関係を持つことに拒否的な態度が強いと効果を期待することはできません。アダルトサイトなどに目を向けさせ、興奮するきっかけを作ったとしても、いざ目の前に女性が現れると身の毛がよだつではいただけません。
僕にとってのバイブルである『セックスレスの精神医学』(ちくま新書)によれば、男性の性嫌悪症の特徴は、ごく一部を除けば獲得型-状況型。獲得型とは最初から性欲がなく女性とのかかわりを嫌悪してはいないものの、若いころには当たり前にあった欲求が何らかの原因で低下していること。また状況型とは、女性であれば誰でも嫌だというわけではなく、妻や恋人といったある特定の女性に限ってダメになることを言います。そのために、治療は想像以上に厄介です。
また、同書では男性の性嫌悪症にはいくつかのタイプがあると解説しています。例えば、男女の関係ではなく母子、兄妹・姉弟など肉親愛になってしまい、セックスが近親姦をイメージさせてしまう。相手の女性をマスコットのようにかわいがるがあまりに性的対象とは考えられなくなる。中には、自分に従順すぎる女性であるがために征服欲がわかない。何らかの理由で嫌いになったことでセックスができなくなった、などを挙げています。このような近過ぎる関係によって起こった性嫌悪症には、セックスセラピーなど専門家による治療がどうしても必要になります。詳細は本書に譲ることにして、男性の性嫌悪症の原因について僕なりに考えてみました。
HNさんのメールにも、「うまくできなくて相手を失望させるから?経験が少ないから?」とあるように、付き合っている相手に格好良く見られたいという欲求が強過ぎるように思われて仕方ありません。アダルトサイトやビデオに影響されてか、たくましく勃起して、イク、イカせるに執着しすぎているのです。だから、勃起しなかったらどうしよう、イカせられなかったらどうしようとなるのです。80年を超える長い人生の中で失敗はつきものです。その失敗を恐れるがあまりに二人の楽しいはずの営みがイヤになってしまうのは何とも残念なことではありませんか。もちろん、セックスという特殊な環境の中でこのような気楽さを保つには、男性だけでなく相手の女性の理解がどうしても必要です。「きょう勃起しなくても明日があるさ」「イッても、イカなくても二人の愛に変わりがあるわけではない」「喜びは次のお楽しみ」などなど。
2009年1月29日