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民主党は本気で政権を担う覚悟があるのか。そう疑いたくなるような議場の光景だった。小沢代表がまたしても衆院の代表質問に立たず、鳩山由紀夫幹事長に代役をゆだねた。
昨年10月の臨時国会では一番手に立った。首相への質問というより民主党の政権構想を説く異例の形だったが、総選挙に向けて対立軸のようなものを浮かび上がらせる効果があった。
しかし今年は、年明けの2次補正に対する代表質問、そしてきのうと2回続けて鳩山氏にまかせきりである。
たしかに代表質問は党首討論とは違い、いつも党首が立つ義務はない。
だが、麻生首相の施政方針演説に対するきのうの代表質問は、遅くとも秋までには必ずある総選挙に向けた2大政党の激突の、いわば号砲の意味合いをもっていたはずだ。
この危機的な世界同時不況に際し、日本のかじ取りをゆだねるにふさわしいリーダーは麻生首相なのか、それとも小沢代表なのか。両党首の真剣勝負を、ぜひ聞いてみたかった。
政府を追及するテーマには事欠かない。喫緊の課題である経済対策や雇用対策、玉虫色の文言修正に終わった消費増税、骨抜きになった道路特定財源の一般財源化……。民主党の政策も紹介しながらの鳩山氏の質問は、それなりに聞き応えがあった。
それでも、一方のエースが自らマウンドに上がろうとしないなら、政権交代への国民の期待は広がるまい。
選挙応援の地方行脚にはあれほど熱心な小沢氏なのに、表舞台の国会論戦にはなぜこんなにも及び腰なのか。
これで総選挙で民主党が勝ち、小沢氏が首相になれば、国会答弁や外交交渉は本当に大丈夫なのか。政策をつくり、実行していくためにも政治指導者の発信力が大事な時代だ。
民主党が二番手の質問者に田中真紀子氏を立てたことにも異議がある。
田中氏は民主党の会派に入ってはいるが、無所属の議員だ。民主党の主張を訴える「顔」とは言いにくい。
小泉元首相が田中氏を外相に就けて外交の混乱を招いたとき、人気目当ての起用を批判したのは民主党だった。今度は、その民主党が同じ轍(てつ)を踏んではいまいか。
総選挙に向けたもう一つの「顔」である最新版のマニフェストづくりが進んでいないことも解せない。
経済危機のあおりで税収は激減し、財政出動は増えている。07年の参院選のマニフェストを大幅に組みかえる必要があるのは明らかだろう。
世論調査で民主党や小沢代表の支持が高まっているのは、麻生自民党のふがいなさという「敵失」によるところが大きい。真正面から政策論争を仕掛ける構えなしに外野席から「早期解散」を叫んでも迫力を欠く。
人道支援物資を積んだ船で北方領土の国後島に向かった日本の訪問団が、上陸を断念して帰港した。ロシア側に出入国カードの提出を求められ、それに応じれば「四島をロシア領と認めることに等しい」と判断してのことだ。
この人道支援事業は、北方領土の主権を主張するロシアとの間で「双方の法的立場を損なわない」との了解のもとで94年から始まった。旅券や査証(ビザ)なしで日本側が四島を訪問できる仕組みだ。
旧ソ連時代、元島民の墓参を実現するという人道的な理由からこうした仕組みがつくられ、徐々にほかの分野にも拡大されてきた。
相互理解を深めるための元島民と四島のロシア人住民の相互訪問や人道支援、学術調査などでも認められるようになり、07年までに延べ8300人が四島を訪問した。
四島周辺の漁業にも同じ発想が生かされ、日本漁船がロシア側の摘発を受けないで操業できる枠組みもできた。さらに、陸地でも日ロの共同経済活動ができないかと検討されてきた。
今回、ロシア側は「国内法が改正された」として、出入国カードという新たな手続きを要求した。これは両国が合意した実施手続きの一方的な変更であり、受け入れるわけにはいかない。
ロシア側は墓参を含めて全面的にビザなし交流をストップさせるつもりなのか、その意図ははっきりしない。だが、四島周辺に安定した隣国関係を築こうというこれまでの取り組みに冷や水を浴びせるものだ。
ロシア側では、領土交渉を担当する外務省と、出入国管理を担当する連邦移民局とのあつれきといった事情も絡んでいる。日ロ両政府は、領土問題で双方の立場を害さないという原則を尊重しつつ、冷静な協議で交流再開の道を探ってほしい。
ロシアのメドベージェフ大統領は最近、麻生首相と電話で話し、極東のサハリンで2月中旬に会談することを提案した。「二国間のすべての問題を話し合いたい」と日ロ関係を前進させる意欲を伝えてきたばかりだ。プーチン首相も今春にも日本を訪問する方向で準備が進んでいる。
資源価格の急落や世界経済の混迷もあって、ロシアは対日関係により積極的になろうとしているのだろう。ロシア側が力を入れている極東・シベリアの開発には日本の資金や技術が必要だし、中国が台頭する中でアジア太平洋地域に存在感を強めたいという思惑もある。
だが、いくら関係改善に意欲を示しても、長年の交流の積み重ねを突き崩すような行動をとっては、日本側のロシアへの不信は深まる。そのことを、ロシアの指導者たちははっきりと認識する必要がある。