「息子を救ってあげられなかった」--福岡市西区で19日朝に飛び降り自殺した中1男子生徒の両親は、自責の念にさいなまれている。生徒は昨年6月にも担任から体罰を受けた後、車に飛び込もうとしていた。「前の週から学校に行きたがらなかった。メッセージを発していたのに……」。だが、担任から最近も体罰があったことを知らされたのは、息を引き取った病院の廊下だった。【朴鐘珠】
生徒は会社員の父(44)と高校講師の母(39)、小学生の弟の4人家族。下がった目尻が母親似だった。剣道部員で成績も上位だが、「担任に嫌われているかも」と悩んでいたという。
両親が息子の変調に気づいたのは、自殺4日前の15日だった。先に家を出た母親の携帯電話に、登校前に5回着信があった。留守番電話には鼻をすする音。帰宅後、事情を聴くと「忘れ物は絶対にしちゃだめなんよ」「学校に行きたくなかった」と話した。
学校によると、担任の男性教諭は忘れ物二つで生徒の頭をげんこつでたたくルールを決めていた。その朝、生徒は学校に持っていく連絡帳が見つからず、ようやく探し当てたが遅刻したという。
しかし翌16日、別の忘れ物をして担任に頭をたたかれた。17日には担任が顧問を務める部活を休み、「先生がまたなぐった」とメールで友人に相談しようとしていた。
そして、19日朝。母親は勤務先で息子から10回以上の着信があったのを見て驚く。留守番電話には2度、「う、う、う」と絞り出すような泣き声が残っていた。
泣き声は、自宅1階にいた父親も聞いた。2階の子ども部屋をのぞくと、電話を手に座り込んでいた。「まだおったんか。はよ行かんか」。登校を見届けた後、気になって、息子が見ていたインターネットの閲覧履歴を見ると、「楽な死に方」などを検索した跡があった。
飛び降りの一報が入ったのは、その数十分後。泣きながらつぶやいた「行ってきます」が最後のやり取りになった。父は「ネットの履歴を見た時、すぐに追いかけていれば間に合ったかもしれない」と自分を責める。
一方、母親は昨年6月の体罰で面談をした後も、ずっと学校の様子が気になっていた。しかし「(文句ばかりを言う)モンスターペアレントと思われて、逆に息子への指導が厳しくなるかと思うと、怖くて学校に行けなかった」と悔やむ。
ようやく聞けたのは、自殺当日の病院。「最近、変わったことはなかったですか」。母親の問いに、担任は「先週末、忘れ物が多かったのでげんこつをしました」と明かした。
自殺後、学校には教員の体罰を批判する匿名の投書が届いた。遺影の前で、両親は静かに語る。「真実が明らかになって、追いつめられる子がもう出なくなれば、息子も報われると思います。息子は、他に悩んでいる子を助ける運命だったのかもしれません」
毎日新聞 2009年1月29日 西部朝刊