◎金融機関の指導力 融資先トップの見極めが重要
財務省が全国財務局長会議で、各地域の景気判断を一斉に引き下げた。なかでも北陸は
大幅な下方修正となり、地元企業の経営環境は製造業を中心に厳しさを増すばかりである。
地域経済の悪化は、北陸の金融機関にとっても正念場だ。金融機関はしばしば「雨が降
ってくると傘を取り上げる」などとやゆされるが、融資先の企業が何とかして生き残れるよう、あの手この手で助け船を出し、世話を焼くのが本来の任務である。ときには経営に助言し、役員人事に口をはさむ必要もある。経営指導を通じて顧客を支援するなかで、特に重要なのは、融資先の企業のトップが経営危機をしのぐだけの力量があるかどうかを見極めることだ。
「会社は代表者の器以上にはならない」という。資金繰りを助け、親身になって経営相
談に乗る一方で、力量不足の経営者には心を鬼にして選手交代を求めるだけの厳しさがいる。地域経済の将来に大きな責任を持つ金融機関にはそれだけの覚悟を求めたい。
具体的な企業名は挙げないが、経営危機に陥った企業に対して、金融機関が甘い対応を
して失敗した例は数多い。バランスシートの数字だけ見ていたら、倒産するはずのない企業がいともあっさりと倒産してしまう。だれも知らない負債が巧妙に隠されていたり、無駄な投資や経費が目に余るケースなどである。
企業トップの能力や資質が高ければ、こんな問題はまず起きない。好況下なら、資質に
多少問題のあるトップがいても支障が出ない場合もあるだろうが、今回のような厳しい不況下では、押し寄せる高波を無事乗り切れるのだろうか。温情に流されると、結果的にその企業と従業員にしっぺ返しが来る。万一、倒産という事態にでもなれば、地域経済にとっても大きな損失である。
百年に一度といわれる経済危機の下、金融機関の存在価値も問われている。破綻しそう
な企業を民事再生に導いたり、債権ファンドに売り渡す、いわば敗戦処理が金融機関の「経営指導」ではない。融資先の弱みや強みを徹底して分析し、的確なアドバイスを送ってもらいたい。
◎施政方針演説 「増税ありき」では響かぬ
麻生太郎首相は施政方針演説で「異常な経済には異例の対応が必要」と語ったが、最も
異例なのは景気回復を最優先すべき時に増税を掲げた点である。日本のリーダーとして深刻な経済情勢への処方せんを明確に打ち出す場であるはずなのに、なぜ増税を強調したのか理解に苦しむ。
麻生首相は消費税率引き上げに対する理解を得るため、国出先機関や公益法人、公務員
制度改革などに取り組む考えを示した。国民に負担を求める大前提となるこれらの改革にしても、一つ一つの道筋はまだ見えず、何より首相自身のやり抜く覚悟が伝わってこない。社会保障のかたちとして繰り返す「中福祉・中負担」も抽象論の域を出ていない。はっきりしているのが増税のメッセージだけなら、不安の種をまくだけで、むしろ迷惑というものだ。
施政方針演説で麻生首相は「大胆な財政出動には責任を明確にしなければならない」と
し、経済好転を条件に「消費税を含む税制抜本改革を行うため、一一年度までに必要な法制上の措置を講じる」と述べた。発言がぶれる中での数少ない一貫した主張ではあるが、これは経済や国民生活に極めて重大な影響を及ぼし、最も丁寧に議論すべき政治テーマである。自らの体面を保つために強引に押し通していいはずがない。
野党は消費税を与党攻撃の格好の材料と位置づけている。通常国会で現実離れした消費
税増税が真正面から議論される展開になれば、消費に水を差すことはあってもプラスにはなり得ないだろう。
麻生首相は「官から民へといったスローガンや、大きな政府か小さな政府かといった発
想だけではあるべき姿は見えない」と述べ、小泉政権以降の構造改革路線を修正する考えも鮮明にした。
過去の改革の功罪を見定める時期にきていることは確かだが、弊害ばかりが強調され、
いつの間にか行政改革や分権改革まで停滞するのではないかという心配もぬぐえない。首相の言葉は、あくまで増税ありきで、改革もそれを実現に持ち込むための環境整備としか聞こえないからである。