「あとで職員室においで」
山口県下関市の県立高校。女性教諭(32)は、階段で携帯電話を見ていた女子生徒の携帯を取り上げた。学校に持ち込めば1週間の没収だ。放課後、生徒は女友達四、五人と共に現れた。
「携帯なかったら彼氏にふられてしまう。終わってしまう」。目に涙がにじんでいる。「没収されたって言えばいいじゃない」。そう説いても、「無理無理ー」と声を振り絞る。「時間見ただけだから許してあげて」。友人も口々に訴える。自分が、女子生徒をいじめる極悪人のように思えてきた。
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仕事の合間にパソコンを開き、登録した十数件のインターネットのホームページ(HP)をチェックする。福岡市内の中学の男性教諭(42)の日課だ。すべて生徒が作ったHP。無料携帯HP作成サイトで学校名を入力して検索、友人の書き込みをたどるなどして探し当てた。日記や掲示板、写真コーナーがあり、一部の子どもは名前をさらしたまま、日常をつづっている。顔がわかるカップルのキス写真もある。「なんて無防備なんだ」。4歳の長男には絶対、携帯を持たせたくないと思う。
生徒指導を担当している。日記や書き込みを読むと生徒のウラの顔がわかる。「たばこ吸った」「バイクに乗った」「授業を抜け出した」。情報を仕入れ、生徒のたまり場とわかれば公園に先回りする。HPを見たとは、絶対に言わない。
学校への持ち込みを禁止しているが、徹底しない。12月の修学旅行で学校は、出発当日に全員のボディーチェックをした。しかし夜、旅館内を見回ると、暗い寝室に青い光が点滅している。別の教諭が問い詰めると、水筒の中やズボンの下に忍ばせていたという。マナーモードにしていたが、メールの着信で光ってしまったらしい。
NTTドコモが設立したモバイル社会研究所の08年「親子アンケート」によると、自分専用の携帯電話をもつ中学生は59%、高校生は95・2%。携帯電話によるトラブル増加で、文部科学省は近く、小中学校への持ち込みを原則禁止する指針を出す。09年から一部先行実施される新学習指導要領では初めて、小中高ともに情報モラル教育の実施を求めた。
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福岡市の男性教諭は、携帯が作る見えないネットワークに右往左往する。
「お宅の男子生徒がうちの学校に来てます」。昨年、市内の別の中学の先生から電話がかかってきた。男子生徒は、携帯サイトで知り合ったその中学の女子生徒と交際。女子生徒は男子生徒の自宅に泊まっていた。女子生徒が先生から注意されたと聞き激怒、「先生は謝ってほしい」と友達8人を引き連れ、その中学に現れたのだ。
男性教諭は車を30分飛ばして駆けつけ、相手校の先生たちに頭を下げた。
「情報が空中を飛び交っている。教師にしてみれば死角です」。男性教諭から報告を受けた校長(52)は嘆く。
「放課後の問題は本来、親の問題。買い与えるのはいいが責任を持ってほしい。食育に情報モラル教育。学校のすることは増えるばかり」=つづく
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毎日新聞 2009年1月29日 東京朝刊