午前2時に起き、授業の資料を作り始める。夜明け前、近くのコンビニでコピーして午前7時に家を出る。放課後は部活動に職員会議。午後9時すぎに帰宅し、夕食と風呂を済ませ、家族と言葉を交わす間もなく、午後11時、倒れるように布団に入る。
岐阜県内の市立中の女性教員(53)は07年3月、そんな生活に終止符を打った。定年まで残り8年。心が折れてしまった。
26年間の小学校勤務の後、06年4月に中学校に赴任した。1年生を持ったが、授業中の私語は当たり前。席を立ちノートの切れ端を投げ合って遊び出す。
女子生徒2人を呼び出した。「頭ごなしに怒っても効果はない」と、目を見つめ諭すように話しかけた。2人は顔を見合わせ、クスクス笑い始めた。「どうしたの」と尋ねても返事はない。何を言ってもこの子たちの心には響かない……。
ご飯とみそ汁の味を感じなくなったのはそのころ。病院では風邪と言われたが、帰り道、涙がこみ上げてきた。「ここまで働く意味があるのか」。帰宅して家族に告げた。「もう辞めてもいいよね」
ベテラン教員が定年を前に学校を去っている。文部科学省の調査では06年度、50代の離職者が小中合計で約8360人と、定年の60歳の離職者(7383人)を上回っている。
東京都教職員互助会などの調査によると、教員が強いストレスを感じる原因のトップは「仕事の量」で約6割が挙げた。サラリーマンの約2倍だ。教員評価の自己申告書や授業改善プランなど、事務作業が年々増える。無意味な作業も目立ち、「字の大きさやフォントなどを何度も書き直させるのはやめて」(都教職員組合が小中教員に行ったアンケート)など悲鳴が上がる。学習指導要領が変わり、09年度から授業時間も増える。
毎日新聞 2009年1月28日 東京朝刊