◆続発する振り込め詐欺。なぜだまされてしまうの?
昨年12月、巣鴨信金(東京都豊島区)のある支店の窓口に、70代の高齢の女性が預金400万円を下ろしにやってきた。「おかしい」と感じた職員が理由を尋ねると、「息子が株で失敗してお金が必要になり、息子の代理の人が家に取りに来る」と言う。職員が「振り込め詐欺では」と言っても、警察官に来てもらい説得しても、聞く耳を持たない。「息子の携帯電話番号は家に帰らないと分からない」という女性に、職員が家まで同行して息子に連絡を取った。ようやく女性は目が覚めた。
同信金は昨年4月から振り込め詐欺撲滅キャンペーンを展開している。11月までの8カ月間で48件の被害を防いだが、同信金の伊藤芳之・創合企画部副部長は「お客様を説得するのに時間がかかることが多い。説得を聞かずに振り込んでしまう人もいる」と話す。
警視庁が07年末に被害額300万円以上の被害者約400人にアンケートを実施したところ、全員が「振り込め詐欺を知っていた」と回答した。89%の人が現金を振り込んだ後に家族に電話して詐欺に気づいた。
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振り込め詐欺の認知度は高いのに、なぜ被害にあってしまうのか。
17日にあった立教大大学院21世紀社会デザイン研究科の公開シンポジウム「人はこうして騙(だま)される」。悪質商法に詳しい西田公昭・静岡県立大准教授(社会心理学)は「冷静になれば分かるというが、不安や恐怖でパニック寸前になり、冷静になれない状況に追い込まれてしまう」と指摘した。
振り込め詐欺の犯人グループは、家族の名前をかたり、交通事故や借金などの話を持ち出して相手に「あり得ない話ではない」と不安にさせる。次に「このままでは大変なことになる」という恐怖を植え付け、被害者が「どうしたらいいのか」とパニック寸前になったところで「お金を振り込めば救われる」と解決策を出す。西田准教授は「パニック寸前にある人が解決案を示されると、わらをもつかむように乗ってしまう」と説明する。
さらに、人は電話口の声を聞き分けることが難しいようだ。西田准教授が昨年、大学生13人を対象に電話の声をどの程度聞き分けられるか実験した。高校時代の友人に別人が電話をしたが、8人は友人と勘違いした。
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振り込め詐欺にあわないための自衛策はないのか。西田准教授は「無防備なら防ぐのは難しい。確実に本人を確認する方法をマニュアル化して決めておいて」と話す。犯人が知りえないような最近の出来事を話したり、家族同士が頻繁に連絡をとることが大切という。
西田准教授は「だまされないためのトレーニングが必要。テレビを見て、おかしいところはないか探したり、買い物する時も質問してドキドキしないで会話できるようにするといい」と話す。
一方、巣鴨信金では振り込みや出金をする人に、9項目の振り込め詐欺被害防止チェック表=別表=を配布している。伊藤副部長は「一つでも該当したら振り込め詐欺の危険性がある」と話している。【板垣博之】
警察庁によると、08年の振り込め詐欺の認知件数は2万481件で前年比で約14%増えた。
内訳は、▽家族などを名乗って現金を振り込ませる「オレオレ詐欺」7615件▽融資話を持ちかけ、保証金をだまし取る「融資保証金詐欺」5074件▽税金の還付などを装ってATM(現金自動受払機)から現金を振り込ませる「還付金詐欺」4539件▽インターネットや郵便などで架空の料金を請求する「架空請求詐欺」3253件。
被害者の年齢層は手口によって異なる。オレオレ詐欺、還付金詐欺は60歳以上が8割前後を占めたのに対し、融資保証金詐欺は30~50歳代が約7割、架空請求詐欺は40代以下が約8割だった。
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□電話で振り込みを依頼された
□息子さん、娘さん、お孫さんなどからの依頼があった
□最近息子さん、娘さん、お孫さんなどから携帯電話の番号が変わったと連絡があった
□依頼人からの電話連絡だけで本人かどうか確かめていない
□急な入り用で、急いで振り込むよう頼まれた
□携帯電話を持って金融機関のATMに行くようにいわれた
□還付金・医療費補助・年金等を振り込むといわれた
□バイク便・友人・知人が自宅までお金を取りに行くといわれた
□誰にも言わないようにいわれた
(巣鴨信金作成)
毎日新聞 2009年1月29日 東京朝刊