北海道新聞東京支社政治経済部次長
浜中淳
浜中淳
「最後尾はこちらです」――。百貨店にとって今年の初売りとなる1月2日朝。札幌市中央区の丸井今井札幌本店前には開店前から4500人の買い物客が押し寄せ、各フロアに用意された福袋があっという間に売り切れた。
もっとも、そんな正月らしい華やいだムードも一瞬のことだった。この日の同店の売り上げは昨年に比べ1割前後もの落ち込み。「食品は好調だったが、セールの婦人衣料はさっぱりだった」(同店)。
丸井今井は1872(明治5)年創業。北海道民は親しみを込めて「丸井さん」と呼ぶ。「道民の心象風景の一つ」(北海道経済連合会の南山英雄前会長)とまで言われるが、このところの業績は厳しい。2008年1月期は43億円の最終赤字。同年7月期(決算期変更による6カ月変則決算)は、本業の儲けを示す営業損益が5億円の赤字に転落した。
地元と乖離した伊勢丹流の改革
「こう言っちゃ失礼になるが、伊勢丹流が地方では通用しないことが北海道でも証明されたということかな」。ある地元信用金庫の幹部は丸井今井低迷の理由をそう指摘する。
今から4年前、大丸の札幌進出による顧客流出や減損会計導入に伴う損失拡大に悩まされていた丸井今井は、北海道銀行をはじめとする主要金融機関や、官民出資の北海道企業再生ファンドなどの支援を得て抜本再建に着手した。
採算部門と不採算部門を分ける会社分割を行い、小樽、苫小牧、釧路各店の閉鎖や人員削減を断行。新たに札幌、旭川、函館、室蘭の4店体制で再建を目指した。
この再出発に合わせ、「再生の切り札」と位置づけられたのが伊勢丹との業務提携だった。丸井今井は伊勢丹主宰の共同仕入れグループ「全日本デパートメントストアーズ開発機構(ADO)」の有力メンバーで、もともと深い関係にあった。そこで伊勢丹の力を借り、5年後(10年度)の売上高を10%増の900億円超に引き上げ、同年に上場を果たすシナリオを描いたのだ。
だが、その実現はもはや絶望的だ。08年2〜7月の売上高は前年同期比6%減の369億円。年間売上高は目標に近づくどころか、初めて800億円を割り込む可能性が高い。
最大の誤算は、伊勢丹のノウハウをふんだんに投入した札幌本店の改装効果がまったく表れないことだ。
紳士フロア「マルイメンズ」、道産食品のセレクトショップ「きたキッチン」、洋菓子や洋総菜のテナントを増やしたデパ地下「マルイフーズ」、バナナ・リパブリックやラルフ・ローレンなどの人気ショップを集めた「大通別館」……。07年以降、約50億円を投じ、新しい売り場を次々誕生させたが、08年7月期の札幌本店の売上高は前年同期比5・5%も落ち込んだ。
地元の業界関係者の間では「伊勢丹流のMD(商品政策)がマッチしていない」との指摘が絶えない。
たとえば07年2月に改装オープンしたマルイメンズは、「丸井今井単独ではハードルが高かったブランドでも、うちが前面に出て交渉し、いいものを持っていく」(伊勢丹幹部)との意気込みを示すように、ルイジ・ボレッリ(ドレスシャツ)やボルサリーノ(帽子)など、イタリア製の高級衣料が全面展開され、まさに新宿店メンズ館が移植されたような売り場に生まれ変わった。
だが、業界随一のバイイング力で最高級品をかき集めた伊勢丹新宿店は、東京ですら「異質」な存在だ。ましてや、製造業の基盤が弱く、07年秋まで続いた景気拡大の恩恵さえ十分得られなかった北海道にそのまま応用できる手法ではなかった。
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