麻生太郎首相の施政方針演説が28日行われた。首相は当面は景気回復に力を注ぎ、11年度までに消費税引き上げに向けた環境整備を目指す考えを示した。
08年度第2次補正予算は何とか成立したが、内閣支持率が20%を切り、09年度予算案の審議も危ぶまれる状況だ。小泉改革路線を転換し「中福祉・中負担」路線にかじを切るシナリオも、その前提とする景気回復や行革実現のプランが説得力を欠く。これでは国民の共感は得られまい。
米国の新政権誕生、経済危機など、激変さなかの演説としては拍子抜けだった。さきの国会の所信表明は民主党への質問を連発した異色で強気な演説だった。しかし、今回は政策を手短に並べたて、気負った表現も影をひそめるなど、政権の守勢を反映した。
その中で目立ったのは「官から民」「小さな政府」など小泉政治のスローガンに疑問を呈し、「中福祉・中負担」の立場から「国民に必要な負担を求める」と説いた点だ。オバマ大統領の就任演説も、国民の責務を強調した。社会保障重視を掲げ、小泉改革路線の転換も重ね合わせることで消費税引き上げを理論武装したかったのだろう。
だが、シナリオはすでに揺らいでいる。与党の慎重論に配慮し、税制改正法案の付則には首相がこだわった11年度実施を明示しなかった。このため演説も「経済状況をよく見極める」と時期は明言できず、当初予定したよりも後退した表現にとどまった。
増税の前提とする景気回復の戦略も示されたとは言い難い。定額給付金も含めすでに打ち出した対策をアピールしたが、「世界で最初に不況から脱出する」との強気と裏腹に、景況は厳しさを増すばかりだ。毎日新聞の世論調査でも、7割近くが消費税引き上げに反対している。
「負担増」への国民の理解の鍵を握るのは、行革への熱意だろう。公務員の天下りについて「押しつけ的あっせんを根絶する」と語ったが、押しつけと認定しなければ認める官僚的言い回しだ。国の地方出先機関の見直しも、焦点である「3万5000人削減」にはふれていない。
今回の演説で求められたのは、国際情勢の変化を見据えた骨太なメッセージだ。首相は経済危機を踏まえた国際新秩序の構築や、オバマ政権発足に伴う日米同盟強化を語るが、具体的イメージ抜きでは内実が伴わない。
結局、国民にビジョンやそれに伴う痛みを説く力が今の政権には欠けているということだろう。「脱小泉」を掲げつつ、郵政解散で得た多数で政権を運営するというのでは、全く矛盾している。衆院選による首相自身への信任がやはり必要だ。民意の裏付けなきスピーチは、うつろに響くばかりである。
毎日新聞 2009年1月29日 東京朝刊