庵治石といえば、光沢の美しさと優れた耐久性が持ち味。国際的彫刻家の流政之さんが庵治石に魅せられ、瀬戸内海を望む高松市庵治町を制作拠点にして半世紀になる。
北陸を放浪中、亡き子の供養のために母親が地蔵を建てる姿に感銘を受けたのが石彫を志すきっかけに。石の切断面を生かし、磨いた面と対比させる“割れ肌”の技法を生み出す。
米国で名声を得た流さんの評価を決定づけたのが、ニューヨークの世界貿易センター広場に設置された二百五十トンもの大作「雲の砦(とりで)」。米中枢同時テロの際も無傷で残ったが、救助作業のためやむなく撤去された。
高松市美術館で流さんの創造の軌跡をたどる大規模個展を見た。黒御影石、ブロンズなどによる生命感豊かな造形作品百点余が並び、壮観だ。直線と曲線、鋭さと優しさ、陰と陽といった対極にある要素が融合し、思わず手で触りたくなる。
深く心に響くのは、胸に風穴が開いた人型彫刻「サキモリ」シリーズ。ゼロ戦パイロットでもあった流さん。戦場に消えた兵士たちへのレクイエムなのだろうか。
八十五歳の今も創作意欲は旺盛。「地方でもこれだけやれるんだ」。“地方の用心棒”を自称する流さんらしい反骨精神が息づく今回の個展。アートで地域を元気づけようとする心意気が痛快だ。