就任間もないオバマ米大統領が気候変動や省エネルギーをテーマに演説し、「地球温暖化をこのまま放置すれば、激しい紛争や大嵐、海岸線の後退など後戻りできない破局を招きかねない」と述べ、京都議定書から離脱したブッシュ前政権との違いを強調した。環境・エネルギー政策でも、脱ブッシュ路線を鮮明に打ち出したといえる。
具体策として、ブッシュ前政権が拒否したカリフォルニア州独自の自動車排ガス規制の容認や、外国産原油への依存度減少、低燃費の良質な車の生産増強などを挙げた。
オバマ政権は発足前から、環境関連分野への重点的なてこ入れで経済成長と雇用創出を目指す「グリーン・ニューディール」構想を掲げている。今回の演説はその一環である。これまで示した太陽光や風力など代替エネルギーの生産拡大方針と合わせ、地球温暖化対策で世界をリードする強い姿勢を明確にしたとみてよいだろう。
演説で最も注目されるのは、カリフォルニア州の独自規制問題だ。二〇一六年までに新車の温室効果ガス排出量を30%削減することを義務付けたが、ブッシュ政権は許可しなかった。
その際、オバマ大統領は「公益よりも大企業の利益を優先させる(ブッシュ)政権の姿勢を再び示した」と手厳しく批判していた。オバマ大統領が容認したのは当然の流れといえるが、影響は大きい。
カリフォルニア州の独自規制には、他の十三州が既に賛同しているからだ。さらに少なくとも四つの州が同調する見通しとされる。近い将来、この規制が米国全体の基準に発展する可能性が高い。
そうなれば、日米を中心に米国市場で競い合う世界の自動車産業界は、排ガス規制に対応した技術開発力がこれまで以上に問われよう。日本は米国のメーカーに比べ対応技術は優れているが、規制強化でより高い競争力が求められる。
ゼネラル・モーターズ(GM)など米ビッグスリー(自動車大手三社)は今、経営危機に陥っている。燃費が良くない大型車中心の生産がネックになっている。新たな排ガス規制が重なると、経営環境は一段と厳しさを増そう。
自国の主要産業に試練を課すようなオバマ大統領の選択は、大胆としか言いようがない。ビッグスリーの抜本改革を狙っているのだろう。オバマ大統領が目指す「変革」の迫力を痛感させられる。
二〇〇八年度第二次補正予算が二十七日、やっと成立した。盛り込まれた総額二兆円の定額給付金に反対する民主党など野党が優位に立つ参院と衆院で議決が異なり、前日に続いて両院協議会が開かれ、不調に終わった。この結果、憲法六〇条の規定に基づき政府原案を可決した衆院の議決が優先された。
前日夜の両院協混乱を受け、河野洋平衆院議長と江田五月参院議長が二十七日中の決着を両院協代表者に求めた。民主党議員が議長を務めた前日と違い、自民党議員が議長だったことも決着に影響したろう。
だが、民主党は給付金を容認したわけではなく、与野党対立は続こう。懸念されるのが、補正に盛り込まれた景気対策の実施である。予算成立後も財源の裏付けとなる関連法成立まで原則として実行できない項目が、給付金以外にも数多くある。
総額四兆八千四百八十億円の二次補正では「霞が関の埋蔵金」といわれる財政投融資特別会計の積立金から四兆一千五百八十億円を捻出(ねんしゅつ)する。しかし、積立金を一般会計で使うための関連法案は野党の反対で参院採決が先送りされたままだ。
このため、給付金のほか妊婦健診の無料化、地域活性化のための自治体への交付金配分などがすぐには行えない。中小企業の資金繰り支援拡充もだ。
建設国債で費用を賄う学校耐震化などの公共事業は実施が可能だ。一方、特別会計で対応する離職者の住宅支援といった雇用対策も実施はできるが、一部に限られてしまう。
与野党ともに景気対策の早期実施を訴えてはいるが、給付金をめぐる対立が尾を引き対策が後手に回ったのでは経済を上向かせる効果が薄くなる。景気の現状を踏まえた与野党の責任ある対応が求められよう。
(2009年1月28日掲載)