労働新聞 2004年4月5日号 3面

やめよ北朝鮮敵視
鳥取・境港
北朝鮮敵視に
漁業関係者が危機感
地域に打撃の経済制裁やめよ

 小泉政権は米国による朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の政権転覆策動に追随し、敵視と排外主義を強めている。わが国単独で経済制裁を可能にする外為法の改悪に続き、北朝鮮船籍を対象とする「特定外国船舶入港禁止法案」や、在日朝鮮人に対する「再入国不許可法案」も準備され、東アジアの緊張をあおっている。対米追随の敵視政策をやめ、日本と北朝鮮の間の諸懸案は、国交正常化とともに話し合いで解決されるべきである。また、経済制裁の発動は、北朝鮮国民の生活に大きな被害を与えるのはもちろん、北朝鮮と歴史的に貿易、友好関係を築いてきた国内諸階層の暮らしと営業にも打撃を与えるもので、断じて許されない。鳥取県境港市は、北朝鮮の元山市との定期航路が開設され、水産物を中心とする経済関係を発展させてきた歴史をもっている。また、わが国で唯一、北朝鮮の都市との友好都市提携を維持している自治体でもある。境港市の水産業者に、経済制裁が行われた場合の影響などについて聞いた。なお、右翼などによる攻撃に配慮し、匿名とした。


カニは拉致と関係ない
水産業関係者

 経済制裁が行われれば、主に加工原料として輸入しているベニズワイガニが被害を受ける。

経済制裁で60億円の被害
雇用にも多大な影響

 北朝鮮からのベニズワイガニの輸入は、昨年8960トンで、境港の漁船による水揚量8361トンよりも多い。原料は約20億円、加工すると3倍の規模になるから、貿易中止で約60億円規模の被害が出ることになる。
 地域経済の活性化という観点からいうと、加工業は人手のいる産業で、働く人も多い。雇用という面でも、地域社会に与える影響は大きい。直接利害がある人はもちろん、その周辺の産業の人も、現状には非常に気をもんでいる。

拉致問題と結びつけた
風評被害も大変

 あまりにも影響が大きいので、内々では打撃を受けた時の対策を議論しているが、実際には、拉致問題を言われると大きな運動が展開できない。怖いのは、境港の水産物に「拉致」のレッテルが貼られること。拉致とベニズワイガニは何も関係がなくても、風評被害で売上が減ってしまうことが怖い。消費者はカニを食べなくても生きていける。
 レッテルを貼られることによって「境港のカニなんて食べられるか」となると、貿易中止とは別の新たな打撃を受けることになる。鳥インフルエンザやBSE(牛海綿状脳症)も、直接関係のないところにも被害が及んでおり、他人事ではない。

右翼の攻撃で不安も
話し合いで解決すべき

 そうでなくても、境港市が北朝鮮の元山市と友好都市だからか、右翼が境港市にやって来ては騒いでいる。これによる市民の精神的打撃は大変なものだ。
 やはり、お互いに関係のあることなので、両国が話し合いで平和的に解決するのがいちばんだ。やはり、平和でないといけない。拉致問題だって、本当は話し合いでなければ解決しないのではないだろうか。


表立って反対が言えない
水産加工会社社長

 境港は、昨年は延べ409隻の入港と、北朝鮮籍の船の入港数が全国でいちばん多い。

半分以上は北朝鮮産
経済制裁では大打撃

 水揚げするカニの半分以上が北朝鮮産なので、経済制裁では、加工屋だけでなく業界全体が大きな影響を受ける。境港全体の死活問題になることは間違いない。
 もちろん、国の安全保障にかかわることなので、しかたがないと思っている同業者も多いが、いずれにせよ、この問題では表立って反対が言えない状況がある。

市民は制裁に反対
市長の懸念は当然

 できれば、国会で入港規制法案を通さず、話し合いで解決してほしい。法律が成立したとしても、経済制裁は発動しないでほしいというのは当たり前。黒見・境港市長も「法律が運用されると大きな打撃を受ける」と懸念を示したようだが、これは、市長に限らずだれでも思っていることだ。
 右翼とかに何を言われるか分からないので、絶対匿名にして下さい。


行政も懸念の声

●黒見哲夫・境港市長
「(特定外国船舶入港禁止法が)運用されると、地元の水産振興や国際交流は大きな打撃を受ける」

●片山善博・鳥取県知事
「境港は北朝鮮と貿易があり、地域産業に影響がある」


●担当記者より
 取材の過程で、内心では経済制裁に反対しながら、強まる排外主義を恐れて声を上げられなくなってる関係者の状況を、あらためて実感した。七回も訪朝団を派遣した歴史を持ちながら、「友好都市といっても、メッセージを交換する程度」と、「関わりたくない」という態度ありありの行政担当者。水産業者を紹介してくれた人物も、「私に聞いたとは言わないで」と懸命であった。地域経済を守るという観点からも、排外主義に抗する世論形成の重要性を実感した。
 最後に、取材に応対してくれた境港の人びとは、われわれの趣旨をよく理解してくれ、終始、好意的に対応していただけたことも記しておきたい。(T)


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