医療介護CBニュース -キャリアブレインが送る最新の医療・介護ニュース-

医師の転職ならCBネット |  医療介護CBニュース

話題・特集


国立病院改革の端緒か−麻酔科医が連携し、がんセンター手術部を再建(上)

 麻酔科医不足が取りざたされていた国立がんセンター中央病院に、麻酔部門の責任者として元横浜市立大麻酔科准教授の宮下徹也氏が就任して4か月が過ぎた。横浜市大で起こった患者取り違え事故後に手術部門を立て直したキャリアを持つ宮下氏の就任により、麻酔部門の立て直しが徐々に進み、土屋了介院長も「ほぼ昨年と同じ手術件数に戻りつつある」と、喜びの表情を見せる。しかし、国立がんセンターには、麻酔部門の問題だけにとどまらないさまざまな組織的な問題が見え隠れしている。今回の麻酔部門の改善が、国立がんセンター全体の改善の端緒となり得るだろうか―。(熊田梨恵)

【関連記事】
麻酔科医育成で国立病院が初の連携
国立がんセンター、麻酔の責任者が就任
日本の臨床開発を底上げし、世界のがんセンターに
「麻酔科医に歯科医を活用」は慎重に
周産期医療で麻酔科医の“派遣部隊”を―厚労相

 現在の国立がんセンターの手術件数は週平均で16.4件。約5000件の年間実績を上げていた昨年と、ほぼ同じペースにまで戻ってきている。土屋院長は「宮下医師が麻酔科医の働き方を良くしてくれた。非常勤の医師も応援に来てくれているおかげで、ほとんど昨年と同じ件数に戻りつつある」と笑顔を見せる。

 日本で最大級のがん治療施設である国立がんセンターの麻酔科医不足をめぐっては、常勤の麻酔科医10人のうち半数の5人が昨年末から今年3月にかけて相次いで退職。麻酔科医不足が報道でも大きく取り上げられ、昨年まで5000件弱だった手術件数も、今年は3500件弱にまで減少するとみられていた。土屋院長は日本麻酔科学会に協力を依頼し、10月1日に麻酔部門の責任者として宮下氏が就任。同院は手術部門の立て直しに乗り出した。
 宮下氏は、1999年に横浜市立大附属病院で起こった患者取り違え事故後、当時の山田芳嗣教授(現東大大学院麻酔学教授)らと共に院内の立て直しを担った中心人物だ。麻酔科医の働き方を改善するため、医局にジョブシェアリングなど医師が働きやすくなる仕組みを導入し、年に約30人が入局するほどの人気医局に育て上げた。周囲からの信望も厚い宮下氏の就任は、院内外からの注目を集めた。

■責任の所在を整理して麻酔部門を整備
 土屋院長は当時の麻酔部門の状態について、「国の機関でもあり、柔軟な人材交流がなく、古い体制がそのまま残っていた。一昔前の麻酔科の体制で働きにくかったと思う」と語る。また、不足していた麻酔科医の充足が優先してしまい、手術部門の体制整備がなおざりになっていた側面も否めないとする。

 宮下氏は仕事初日から、現状把握のために麻酔科医や臨床工学技士らからヒアリングを始め、15室ある手術室の麻酔器やモニターなどをすべてチェックし、問題点を洗い出した。当時のがんセンター内に麻酔科医は宮下氏を含めて5人、レジデントは4人。1人が外来を担当し、2人がそれぞれ手術麻酔を掛け、残る2人がそれぞれレジデントを2人ずつ担当。6列の手術体制を取っていた。しかし、これまではレジデント指導に就く麻酔科医が毎回違っていたため、指導方法が異なってレジデントが困っていたという。このほか、年配の麻酔科医にとっては夜遅くまでの手術は体力的につらかったり、もともと緩和ケアを希望して同院に来た麻酔科医が、人出不足のためにやむを得ず手術麻酔に従事していたりするなど、さまざまな問題があった。宮下氏は当時の状況について、「それぞれのスタッフがばらばらの感性や考え方で動いていたし、やり方が違っていたので、麻酔科医も看護師もそれぞれに不満を抱えている状況だった。だから、どうすれば皆が働きやすくなるかを一番に考えた」と振り返る。




 宮下氏は、この状況を改善するために自らレジデント4人を担当。手術部門の責任者として、他部門からの意見を受け付ける“窓口”を一括して担った。週に4回は自分が最後まで残って手術を見て、他の医師には早く帰ってもらうようにした。緩和ケアを希望していた医師については、週2回の手術麻酔を1回に減らし、オンコールからも外した。手術体制はレジデントの指導医が宮下氏1人になったので7列に増え、手術件数の増加につながった。日中はレジデントの指導で食事も取れず、夜に手術が終わると書類整理や今後の体制整備のために時間を費やした。連日深夜まで働き、2か月で体重が5キロ減った。



 宮下氏が就任して1か月がたった昨年11月、同院の脳神経外科の宮北康二医師は、宮下氏について次のように話していた。「現時点で麻酔科や手術運営が変わったとは言い難いと思うし、今後どうなるかさえ本当のところは分からない。ただ、宮下部長のやる気や気概は誰もが感じるところ。これからいろいろなことが確実に変わっていくだろうし、組織の組み立てについて、われわれ外科医は大きな期待を寄せている。素晴らしい麻酔科部長が就任されたので、これから良くなっていくと確信している。手術には看護師や臨床工学士などさまざまなスタッフがかかわっているため、麻酔科だけが良くなっても駄目で、組織全体として良くならないといけない。周辺の医師や看護師、コメディカル、病院幹部などを含めて病院全体で支援体制を整えていかなければならないと思う」。

■国立病院の連携による麻酔科医育成
 このほか、宮下氏が注目したのが麻酔科医の「教育」だ。「人を集めるための最大の武器は教育。がんセンターの手術麻酔は単調なので、麻酔科医にとっては魅力が薄い。だから、誰もが来たくなるような研修プログラムを作ろうと思った」。これまで、麻酔科医の教育プログラムを横浜市立大で考えたり、米国留学の際にも教育体制を見てきたりした宮下氏は、その経験を生かして教育プログラムを考案。国立循環器病センターや国立国際医療センター、国立成育医療センターなどと連携して、がんセンターの研修医が心臓や救急、小児の麻酔を経験できる研修プログラムを考え出した。この研修は、国立病院が連携して医師を育てるという初の試みで、2010年度の開始が目標だ。国立循環器病センターの友池仁暢院長は「麻酔科医がぎりぎりの人数で動いている中、皆が協力していくことが必要。一つのいい方向だと思う」と話している。

■がんセンターの周術期体制整備へ
 さらに、昨年10月には秋から「周術期管理センター」を設置している岡山大医学部の麻酔科を視察。同センターでは呼吸器外科の患者を対象に、手術前の検査から手術後のリハビリなどまで、周術期を担当麻酔科医と専属の看護師が一括して見る体制を取っている。周術期チームを組むことで、麻酔科医が麻酔医療に専念し、医療のレベルアップを図っている先進的な病院だ。同大の森田潔教授は宮下氏と話した時を振り返り、「非常にエネルギッシュで素晴らしい、前に進んでいくタイプの方。彼ならこうした仕組みを整えていくには適任ではないかと思う。がんセンターは全国的にも注目を集める組織。そのような所でぜひこうした取り組みをやってもらえれば」と語る。
 また、かつて岡山大の麻酔科は、麻酔科医不足に悩む国立がんセンターに応援の医師を派遣したことがあった。しかし、当時の国立がんセンターの麻酔部門はまだ多くの問題を抱えていたので、派遣された麻酔科医が居づらくなって早々に退職してしまった。土屋院長はこれについて「大変申し訳ないことをしてしまった」と話しており、お互いに気まずさが残っていたという経緯がある。しかし、今回の宮下氏の就任によって、森田教授も「宮下医師がいるなら応援を考えることもできる」と積極的な姿勢で、双方の関係改善にもつながっている。

 土屋院長は宮下氏について、「真の臨床家だ。どんなことが起こっても泰然自若として対応し、人の話をきちんと聞くことによって組織を改善していこうという姿勢なので、周囲からも信頼されている。レジデントも彼が来たことを喜んでいる」と語り、着実に麻酔部門の改善につながっていると笑顔を見せる。
 土屋院長や宮下氏らがんセンタースタッフは、今後も手術部門の体制整備にとどまらず、積極的に周術期の体制を整えていく考えだ。

 こうして、表向きはがんセンター手術部門の改善が進んでいるようにも見える。

(続く)


【国立病院改革の端緒か−麻酔科医が連携し、がんセンター手術部を再建(下)】
https://www.cabrain.net/news/article/newsId/20314.html



更新:2009/01/28 14:25   キャリアブレイン

この記事をスクラップブックに貼る


注目の情報

PR

新機能のお知らせ

ログイン-会員登録がお済みの方はこちら-

CBニュース会員登録メリット

気になるワードの記事お知らせ機能やスクラップブックなど会員限定サービスが使えます。

一緒に登録!CBネットで希望通りの転職を

プロがあなたの転職をサポートする転職支援サービスや専用ツールで病院からスカウトされる機能を使って転職を成功させませんか?

キャリアブレインの転職支援サービスが選ばれる理由

【第46回】長谷川博史さん(日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス代表) かつては死に直結するイメージを持たれていたエイズだが、近年、医療の進歩でHIV陽性者の予後は長期化しており、長期の服薬や高齢化によるさまざまな健康問題などが生じている。こうした中、日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププ ...

記事全文を読む

 島根県では現在、県内の医療機関で勤務する即戦力の医師を大々的に募集している。医師確保を担当する健康福祉部医療対策課医師確保対策室が重視しているのは、地域事情などに関してできるだけ詳しく情報提供すること。実際に生活することになる地域についてよく知ってもらった上で、長く勤務してもらうのが狙いだ。同室で ...

記事全文を読む

WEEKLY

DAILY

新型インフルエンザ感染対策

今回は、感染リスクが高い医療関係者のための、「N95マスク」の選び方と正しい使い方をご紹介します。

>>医療番組はこちら


会社概要 |  プライバシーポリシー |  著作権について |  メルマガ登録・解除 |  スタッフ募集 |  広告に関するお問い合わせ