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社説:温暖化政策 新競争からはじかれる前に

 地球温暖化防止をめぐり国家間の新たな競争が始まろうとしている。

 米国では、オバマ大統領が早速、温暖化対策に消極的だったブッシュ時代との決別を鮮明にした。自動車排ガス中の温室効果ガスを3割削減するというカリフォルニア州の独自規制を容認する姿勢を表明し、燃費規制も全米規模で厳しくするという。

 環境保護局(EPA)が最終決定すれば、カリフォルニア州の規制実施を阻止していた前政権の政策が覆される。他の十数州も追随するとみられ、全米標準となる可能性がある。

 歴史的な販売急減により国内の自動車産業が危機に直面している時、その産業にコスト増を強いる規制強化の実行は政治的に容易ではない。にもかかわらず、就任間もないオバマ大統領が新方針を打ち出したことは、環境やエネルギー政策に本気で取り組む意思を内外に表明したことに他ならない。ことばだけではなく、ただちに実行に動いた新政権を評価したい。

 「米国が温暖化問題にいやいやながら取り組む時代は終わった」。オバマ大統領はそう宣言した。排ガス規制の強化は、温暖化防止を目指す地球規模の取り組みで米国が主導権を握ったり、他国に変革を促したりするための下準備でもある。これまで、ブッシュ政権の出方を見て行動してきた日本への影響も大きい。

 欧州でも新しい取り組みが動き出した。太陽光や風力といった自然エネルギーの利用を促進する「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)」の設立だ。再生可能エネルギーに特化した初の国際機関で、欧州諸国や途上国、産油国も含め75カ国が条約に署名、加盟した。仏、伊、スペインなども署名し、新しい流れが確実に生まれた。

 環境問題に積極的な独メルケル政権のイニシアチブによるものだ。予想を上回る加盟となった背景には、米国で新政権が誕生する前に世界で根回しを続けてきた独政府の行動力がある。

 IRENA設立の動きは1年以上前からあった。ところが日本は加盟を見送り、オブザーバーとして参加するにとどまった。先進国で構成する国際エネルギー機関(IEA)と競合する恐れや、米英などが当面は加盟を見送る姿勢だったことが影響したようだが、他国の出方を待っているだけでは世界の流れから取り残される。

 日本は省エネ大国、環境技術国を自負してきた。確かに他国がうらやむ技術も持ち合わせている。しかし、それを積極的に売り込んだり、国際的なルールや技術普及の枠組み作りで主導したりできなければ、せっかくの技術力や潜在力を生かせない。

 環境とエネルギーをめぐる新競争の渦からはじき出されないよう、日本は「待ち」の姿勢に別れを告げるべきだ。

毎日新聞 2009年1月28日 東京朝刊

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