ソマリア沖の海賊対策で政府は、自衛隊法に基づく海上警備行動によって海上自衛隊を派遣する方針だ。近日中に浜田靖一防衛相が派遣準備を指示する。政府・与党は、海賊対策で自衛隊を海外派遣する新法案を3月にも国会提出する方針で、それまでの「つなぎ措置」である。
警察行動である海賊対策は本来、海上保安庁の任務だが、海賊がロケット砲などで重武装しているために海保の対応が困難ということであれば、海自派遣は有効な方策の一つである。
海警行動を定めた自衛隊法82条は、地理的な制約を明記していないとはいえ、日本周辺海域を想定したものだ。しかも、具体的に発生した事件の対応でなく、海賊の予防措置である護衛目的で海自を派遣するのは想定外のことだろう。
海自が日本関連の商船を護衛すれば、海賊に対する抑止効果となることは間違いない。しかし、そのことと海警行動が妥当かどうかは別問題だ。海賊対策で自衛隊を海外派遣するなら、やはり国会審議を経た新法制定が筋である。海警行動による派遣は、あくまで今回に限った特例措置であるべきだ。今後の自衛隊の無原則な海外派遣の先例になってはいけない。
海警行動による派遣に関する政府・与党内の議論で最大のテーマは武器使用基準だった。海警行動では警察官職務執行法を準用するため、武器使用は正当防衛・緊急避難に限られ、犯罪者の逃亡を防ぐための船体射撃は日本の領海に限られる。議論では、内閣官房が警告・威嚇射撃だけでなく船体射撃もできるケースもあると主張し、防衛省が難色を示す場面もあった。防衛省にしてみれば、使用基準の緩和を新法で明確にしてほしいということなのだろう。結局、具体的な基準は、防衛省などが非公開の部隊行動基準(ROE)で定めることになった。
武器使用基準は、緩和の是非を含めて、国会の議論を経て決めるのが当然である。海警行動にした結果、政府と現場の判断で事実上の基準拡大の余地を残すことになったと言える。
また、海警行動では外国船の護衛や救援はできないという難点もある。こうした問題点を抱えたままの海警行動発令は、海軍を派遣した中国や、派遣を検討している韓国を意識して「まず派遣ありき」の政治判断を優先し、課題を先送りした「見切り発車」と言われても仕方ない。
政府・与党は発令後に国会報告ですませる方針だが、少なくとも報告を受けた審議を行うなど、より深い国会の関与を検討すべきである。
海賊対策は軍事ばかりではない。マラッカ海峡の海賊封じ込めの実績や、内戦によって無政府状態が続くソマリアへの国際支援活動など、総合的な検討が必要である。新法を含めた十分な国会審議を期待する。
毎日新聞 2009年1月28日 東京朝刊