マイスター制度で有名なドイツには「遍歴職人」という制度が十四世紀後半に始まったそうだ。「職人ことばの『技と粋』」(小関智弘著、東京書籍)に出ている。
遍歴職人は、マイスターのもとで三年間修業した後、各地の親方を渡り歩くことが課せられた。知識と技を磨き、人間の幅を広げるためだ。病気や近親者の葬儀以外は、故郷から五十キロ以内に帰れず、三年間の遍歴を続けた。
日本でも古くから渡り職人は存在した。評判の親方を訪ね歩く。置いてもらえないこともある。親方が断る場合は、一宿一飯の世話をして、わらじ銭を包んで送り出す習慣があったが、渡り職人には辛苦がついて回った。
国会で問題になっている渡りは、官僚OBが退職金をもらいながら公益法人などを渡り歩くのだから、身勝手過ぎる。全面禁止は当然だと思うが、麻生政権は煮え切らない。
「渡り官僚」を認めるなら、若手中心に現場の知識と人格を磨く制度にしてほしい。政府の「厚生労働行政の在り方に関する懇談会」が昨年暮れの中間報告で、厚労省の全職員にハローワークなどで現場業務を経験させることを提案した。理解できる。
国際化の進展が著しい。官僚が国際機関などで武者修行するのも意味があろう。甘い渡りから厳しい渡りへ、変革が大切だ。