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2008年6月12日 (木)

Chronic hepatitis

        慢性肝炎診療ガイドラインの活用

                     

はじめに

 慢性肝炎は文字通り肝臓の慢性の炎症であるが、持続期間6か月以上と定義され、事実上肝炎ウイルスによるものを指している。B型肝炎ウイルス(HBV)は日本人の1.5―3.0%に感染し、C型肝炎ウイルス(HCV)は1-2%に感染しており(1)、肝臓がんのほとんどの原因となっていることから、内科専門医がこの診断治療に精通することが必要である。 

日本肝臓学会はB型肝炎ガイドラインとC型肝炎ガイドラインを相次いで発表した。治療薬の進歩が著しいのでまだ完成版とは称されていないが、一応現状の最良の標準的治療法を説明している。B型肝炎においては治療薬としての核酸アナログの多様化、C型肝炎においてはインターフェロン治療の定番化とバリエーションの多様化に伴うものである。

 B型肝炎ウイルスはウイルス遺伝子が宿主遺伝子に組み込まれる点で特異であり、それゆえ治療の困難性を示している。以前のようにHBs抗体ができたからといって感染が終了したわけではなく、once hepatitis B infected permanently  infected という状況を現出している。すなわち、HBs抗体が生産されていても、免疫抑制剤などの投与を契機に肝炎が発症することがありうるのである(2)。

 一方C型肝炎は成人感染の慢性化率が高いが、1991年にインターフェロンが根治療法として登場し、今やサブタイプの壁を乗りこえて長期療法やリバビリンとの併用療法が治癒率を7割まで高めている。このような現状で内科医に対し、診療ガイドラインを概説してその問題点を述べることは意味があると考える。

1.B型肝炎の自然史

 B型肝炎ウイルスは出生時に母体から感染することが多く、その結果免疫が完成していない新生児は感染が慢性化し、いわゆるキャリア状態が成立する。その後の経過は免疫寛容期、肝炎期、無症候性キャリア期に分けられる。幼少の免疫寛容期は免疫が発達しておらず、ウイルスの増殖はさかんだが、肝細胞が免疫細胞に攻撃されないため、肝機能は正常を保つ。免疫寛容期は1020代まで続き、8-9割ではHBe抗原の抗体化(sero-conversion)に伴って肝炎を発症し、自然に治癒してウイルス量も10e4以下となり安定期を迎える。しかし、なかにはsero-conversion後も肝炎が継続する例がある(1)。

 組織学的には小葉の壊死の程度で活動性(A)を、門脈域の炎症状態でステージ(S)をそれぞれA1-33段階, S1-4の4段階で評価する。この基準は犬山シンポジウムで数回改定され、現在のものは2001年に改定されたものである。

2.B型肝炎のスクリーニング

 HBs抗原(EIA法)の検査で十分であるが、既往感染としてはHBc抗体の測定が必要である。献血時にはHBs抗原とHBc抗体が全例検査されている。わが国での陽性率は1985年には3.0%だったが、以降年々低下している。その原因として衛生環境の改善と1986年に開始された母子感染防止対策事業(キャリアの出生児に限って、ワクチンと抗HBs免疫グロブリンを投与)の効果が出ている。年齢別では50歳代でもっとも感染率が高い。しかし、既往感染をいれるとおよそ70%の日本人がHBVに感染したことがあるといえる。

3.B型肝炎の治療法

従来HBe抗原陽性でHBVDNA高値のキャリアにインターフェロンが適応とされたが、当初はわずか4週間の保険治療であり、効果が乏しかった。その後インターフェロン治療が24週間まで認められるようになった。そのほかステロイド離脱療法が行われたが、この治療は免疫機能のリバウンドによる肝細胞破壊の副作用が大きく、専門医の参画が必要であった。現在は核酸アナログによる治療が推奨される。

従来のインターフェロン6か月投与ではHBe抗原陽性例でHBe抗原の陰性化かつALT正常化率は30%である。そこでガイドラインでは35歳未満のHBe抗原陽性例でインターフェロンを第一選択とした。一方HBe抗原陰性例は、進行例を除いて経過観察とした。(表1)

核酸アナログでは最初に実用化されたのがアミブジン(LAM)であるが、この薬は長期投与で70%で耐性におちいるため、アデフォビル(ADV)やエンテカビル(ETV)が実用化された。これらは基本的にHIV治療薬と同じ逆転写酵素阻害剤である。というのは、B型肝炎ウイルスはDNAウイルスでありながら、細胞中でRNAに逆転写される過程をもっているからである。

 ガイドラインでは35歳以上のHBe抗原陽性例でHBVDNA10e7コピー以上ではエンテカビルとインターフェロンの長期間歇療法の選択となり、そのほかの場合はエンテカビルの単独投与とした。

また現在ラミブジン(100mg/d)投与中のB型慢性肝炎例に対しては、ラミブジン投与期間3年未満でHBVDNA 10e2.6コピー/mL以下(低ウイルス群)では直ちにエンテカビル(0.5mg/d)にきりかえる。ラミブジン投与3年以上で低ウイルス群、あるいは高ウイルス群でも耐性変異がないものはラミブジンの継続とする。

一方ラミブジン投与3年未満でHBVDNA 10e2.6コピー/mL以上(高ウイルス群)では変異がなければエンテカビルへの切り替え、あればアデフォビル(10mg/d)の併用とした。

 なお肝機能を落ちつかせる日本独特の、しかしきわめて有効な方法に強力ネオミノファーゲンCの静注があげられる。これは毎日20mLから初めて最大100mL 、肝機能が落ち着いたら週2回とする。この薬のメカニズムは肝細胞の細胞膜を安定化するのであろう。

4.C型肝炎の自然史

 C型肝炎ウイルスはB型と異なり、成人感染でも高率で慢性化するのが特徴である。慢性肝炎を経て肝硬変、そして肝臓がんは規則正しい確率で進行するのが特徴であり、ステージごとに肝硬変への年間移行率が高くなる。感染後20-30年で肝硬変になることが多い。ただし女性には進行せずいわゆる正常キャリアを持続する一群がある。B型とことなり、正常な肝機能や慢性肝炎からいきなり発ガンすることはまれである。したがって、その発ガン機構は肝細胞の破壊再生のくりかえしによる変異によると思われる。

5.C型肝炎のスクリーニング

 HCV抗体価(PA,PHA10e12でほとんど現在の感染を意味するが、低力価ではHCVコア抗原やHCVRNAの測定が必要であり、図1に示すスクリーニングが2003年から老人保健法の節目検診(40歳以降5歳ごと)として採用されている(2)。1992年以後の献血ではHCV抗体(第二世代PAまたはPHA法)の検査が全例に行われている。わが国の陽性率は経年的には徐々に低下しており、年代別では高齢ほど高く、とくに女性で高いのは出産時の大量出血に対する輸血によるものと推定される。

6.C型肝炎の治療

 1991年以来インターフェロン治療が定番であるが、その適応と副作用には注意が必要である。副作用として重症なものに、間質性肺炎、うつ病があり、そのほか初期の発熱、血小板減少、脱毛、甲状腺機能障害、糖尿病などがある。とくに血小板減少は必発であり、定期的チェックが必要である。

 ウイルスの株によって治療抵抗性がことなる。1b型では従来のインターフェロン単体では有効率が低い。高ウイルス群ではPegインターフェロンとリバビリンの48週間併用療法を行う。2型高ウイルス群では24週間の併用療法とする。1型低ウイルス群では従来型またはPegインターフェロンの24週間投与を原則とする。2型低ウイルス群では短期の8週間から24週間とする。(表2)なお、リバビリンの副作用は奇形と貧血である。投与後6か月は妊娠を避けるべきである。

 インターフェロンが有効かどうかは治療開始4週間後にHCVRNAが消失するかどうかで予測できる(3)。インターフェロン治療の一義的目的はウイルスの撲滅であるが、それができなくても、肝臓がん生率を低下させるという効果がある。

 次に肝硬変の治療であるが、1b高ウイルス量以外の代償性肝硬変ではインターフェロンβを第一選択とし、肝臓がんへの進展阻止をめざしている。

なおインターフェロンの再投与や長期少量療法も試験的に行われている。1b高ウイルス群で、INFリバビリン併用療法の非適応例についてIFN単独長期療法のガイドラインができている。(図2)

ちなみに肝機能正常のC型肝炎ウイルスキャリアの治療(ウイルス撲滅目的)については、血小板値で肝臓の繊維化を評価し、血小板数15万/μL以上ではALT31単位以上でインターフェロン治療の適応とし、15万/μL以下では肝生検を行ってF2A2以上の例でインターフェロン療法を行うとしている(4)

一方インターフェロン利場美林併用分ロウの繊維化症例ではALT値を正常上限の1.5倍以下に近づけることを目的に、強力ネオミノファーゲンCやウルソを用いる。なお正常上限としては各施設値を使ってもよいが、理想的には30IU/L以下である。

7.劇症肝炎の治療

 劇症肝炎の原因はA:B:C:そのほかが3:3:1:3:である。そのほかには薬物性と自己免疫性が含まれる。

最近まで劇症肝炎の治療は、血漿交換(SE)ないし血液濾過透析(HDF)が主体であったが、最近は原因によって併用療法を使い分けている。つまり、B型肝炎ではラミブジンおよびインターフェロン、C型肝炎ではインターフェロン投与を行う。またCTで肝臓が萎縮している場合の最終的治療は肝臓移植である。A型では血小板減少を伴うことがあり、また凝固過剰により腎不全をきたすので、抗凝固療法を併用する。

薬物性と自己免疫性にはステロイド大量投与が選択される。

8.将来展望

 肝炎治療の目的は、急性肝炎では劇症肝炎の防止、慢性肝炎では肝硬変や肝臓がんへの進展防止につきる、そのためには諸外国のように母子感染防止だけでなく、新生児期にすべての国民にB型肝炎ワクチンを行い、思春期の性的感染を防ぐことが重要であろう。またC型肝炎の予防教育として、わが国では欧米ほど問題になっていないものの、刺青、薬物注射を避けることが必要である。

B型肝炎治療薬ではラミブジンの耐性獲得防止が問題であろう。またDNAPase阻害剤が研究されている。新たな抗ウイルス薬としてtelbivudinetenofobiremitricitabineclevudineが日本や欧米で治験されている(5)。

C型肝炎治療薬では、HCVの肝細胞エントリー阻害薬、たんぱく質翻訳阻害薬、NS3プロテアーゼ阻害薬、NS5B RNAポリメレース阻害薬が研究開発中である。

文献

1)霜山龍志、関口定美:肝炎ウイルスキャリアの基礎と臨床 北医誌 1991

2)吉沢浩司:肝炎、肝硬変。2003、文光堂、東京

3)日本肝臓学会 慢性肝炎の治療ガイド 2006 文光堂、東京

4)熊田博光:厚生労働省分担研究報告書 pp7-11 2006、厚生労働省、東京

5)加藤直也ほか 抗ウイルス薬の将来 日内会誌 9750-56,2008

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