実践ビジネススクール
2009年 1月 27日

「100年に1度の危機」をチャンスに変えるシナリオ

危機の本質は投機行動の破綻と捉えると、日本へ有利に世界が展開する

外的ショックには日本経済はこれまで一貫してかなり強かったのである。

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■外国発のショックに日本はなぜ強いのか

21世紀に入ると、20世紀の最後の10年に「唯一の覇権国」「アメリカ型経済」を謳歌したアメリカに変調が表れた。01年の同時多発テロはアメリカ型グローバリゼーションに対するイスラム世界からの巨大な警告であったろうし、同じ年のITバブルの崩壊はアメリカ資本市場への警告であったのだろう。その2つの危機をアメリカは金融のかじ取りで乗り切ったが、それはすでに存在している構造的ゆがみ(アメリカの経常収支大幅赤字、財政収支の赤字、そして経済全体の負債経済化)への対症療法とはなったが、かえってゆがみを大きくしたようである。

そのゆがみがはじけた巨大な地殻変動が、証券化商品市場の一斉崩落という巨大な金融危機であり、08年9月のリーマンショックを引き起こした。

こうしたいくつもの危機の中で、私の感覚では第一次オイルショックと円高ショックは、リーマンショックと同等かそれ以上のインパクトを日本経済にはもっていたように思う。原油価格が4倍、円が倍に切り上がる、それが実物経済を直撃したのである。アジア通貨危機はバブル崩壊の後始末を日本に迫ったという意味で、やはり大きな危機だった。

こうした危機の後、日本経済は驚くほどの強靭さを示したといってよい。たしかに危機の直後には経済成長率が1年だけマイナスになることが4度あった。しかし、それでも最も大きな落ち込みはアジア通貨危機の後のマイナス1.5%。バブルの崩壊の後の07年度までの平均成長率は1.3%で「失われた15年」といわれながらもゆるやかな経済成長を続けてきた。このバブル崩壊がそのときのGDPの2倍にも達する資産価値の喪失(キャピタルロス)という巨大さだったことを考えると、驚くべき強靭さである。

バブルの崩壊は日本自身が自分だけでつくりだしたような危機である。しかし、他の危機はすべて日本の外に根本原因がある。あるいはせんじ詰めれば「アメリカ発」の危機ばかり、といえなくもない。そうした外的ショックには日本経済はこれまで一貫してかなり強かったのである。

日本発の危機では、いわば「しゅんとなって」一向に元気が出ない日本経済は、外国発のショックに対してけなげに戦う。オイルショックという日本沈没の危機ですら、チャンスに変えていった。その歴史的傾向が今回のリーマンショックでも見られるなら、今回の危機が日本にとっては「100年に1度」というようなひどさにはならないだろう。

そのうえ、今回の危機の本質がどこにあると考えるかによって、この危機が日本に与える中長期的影響の大きさの目分量は違ってくる。

今回の危機の本質を住宅バブルがアメリカやヨーロッパで破裂した、と捉えてしまうと、それがもたらすアメリカおよび世界の金融システムの揺れの大きさとその後の余震は日本のバブル崩壊を想起させるだろう。そうなれば、長い世界同時不況の予想へとつながり、世界の需要収縮の影響を日本経済もかなり受けることになる。

しかし今回の危機の本質を、巨大で複雑な投機行動の破綻、と捉えるならば、それへの対策として投機の抑制と金融規律の回復が予想される。それは、世界的に見れば、金融に依存する国の相対的地位が落ち、実体経済が伸びる国、しっかりしている国の相対的な地位が上がることにつながるだろう。そうなれば、日本にとっては有利なシナリオで世界が展開することになる。もちろん、短期的な需要収縮の影響はきつい。だが、中長期では日本にとってはチャンスとなるのである。

通貨価値は一国の強さの表現でもある。今われわれが経験している急激な円高は、この第2のシナリオの「投機的表現」ではなかろうか。

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プロフィール

伊丹 敬之

東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授

いたみ・ひろゆき●1945年、愛知県生まれ。一橋大学商学部卒業、カーネギーメロン大学経営大学院Ph.D。一橋大学大学院商学研究科教授を経て、2008年4月より、東京理科大学専門職大学院総合科学技術経営研究科教授。著書に『経営を見る眼』『経営戦略の論理』『日本型コーポレートガバナンス』などがある。

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