関西テレビKTV NEWS/スーパーニュース アンカー スーパーニュースアンカー
関西テレビKTV NEWS/スーパーニュース アンカー
番組バックナンバー
目次 > 2009年1月26日放送の番組バックナンバー


特集/「過酷な労働と組合脱退工作の実態が映画に…『フツーの仕事がしたい』」
残業代なしで過酷な長時間労働を強いられていたトラック運転手の姿がドキュメンタリー映画になりました。
「フツーの仕事」を手にするために立ち上がった運転手。会社との闘いを生々しく記録した現代の「蟹工船」です。

「一番ひどかったときは、まる一ヶ月、家に帰れなかったから。帰ったのは夕方1時間、2時間くらい」(皆倉さん)
あるトラック運転手の姿が、一本の映画になりました。主人公は、大手セメント会社の孫請けの運送業者で働く皆倉信和さん(37)。トラック業界の長時間労働はフツー、ずっとそう思っていました。
「皆倉さんの2005年3月の乗務日報を見てみると、3時40分発2時46分着、3時発23時11分着、23時25分発5時着、5時50分発4時16分着・・・こんな調子で13日間連続の勤務が続き、月の労働時間は552時間34分だった」(映画ナレーション)

これだけ働いても、月給は30万円。残業代はなし、社会保険も未加入でした。この頃、皆倉さんは、個人でも加入できる労働組合があることを初めて知りました。しかし、組合と会社の交渉の難しさは、想像を超えるものでした。
「組合は辞めるつもりはないです」(皆倉さん)

この映画を製作した土屋トカチ監督は、組合からの依頼で、実際にこの場に立ち会いました。
「主人公の方は顔が茶色というか土色というかですね、疲れきっている表情で、眼もうつろな感じで。震えているような感じで座られていて、とんでもない場面に来ちゃったかなという感じがすごくしましたね」(土屋監督)
土屋さんの脳裏をよぎったのは、7年前の記憶。土屋さん自身も、赤字を理由に映像制作会社を解雇された経験があったのです。同い年の皆倉さんを取材するうちに、いつの間にか自分の姿を重ねるようになり、この闘いを必ず映画にしようと決意しました。
「(カメラを見せながら)組合で団体交渉して、解決金で買ったんです。むちゃくちゃ働くのが普通だと思っていたのは、あ、俺もそうだったなと撮影しながら思いましたね。(社員が)一緒に働いている戦友のような感じになって、上司が働いているから俺も働かなきゃ、残業代なしでもみんな働いている、これが普通なんだと思っちゃうんですよね。とっても恐ろしい話ですよね」(土屋監督)

ストライキにまで発展した会社との交渉。会社側は、皆倉さんの母親の葬儀にまで押しかけて、組合脱退を強要しました。
「場をわきまえて下さいよ」「暴力はやめろ」(組合)
「この場がどうなるかわかるでしょう」(ヤクザ風の男)
闘いのさなか、皆倉さんは病に倒れました。集中治療室を出たのは、3週間後のことでした。
「痛くはないです。栄養のチューブだけ入ってる、腸に直接行ってるみたいです。運ばなきゃ金にならなかったんで、休んでることもできないし。休むとそれだけ実入りが少なくなるし。フツーの仕事がしたいですね、フツーに」(入院中の皆倉さん)

先週、大阪では、この映画をテーマにシンポジウムが開かれました。
「殴られた時にヤクザやと思ってた人はほとんど(派遣の)運転手だったんです。それが一番恐ろしかった。殴りに来た彼らも何しに来てるか全然わかってないんです」(土屋監督)
弱い立場の労働者にシワ寄せが来る、社会の構図。派遣切りや雇い止めが相次ぐ今、多くの人がスクリーンの皆倉さんのように、もがき、苦しんでいます。

「正社員にも異常な長時間労働がありますが、最近の問題で言うと、非正規社員の中に長時間労働が急速に増えている。大きな問題があることを十分認識して、今日の映画を教訓にすべきだと思います」(関西大・森岡孝二教授)
「今こういう事態を巻き起こしているのは政治災害だと思っています」「働く人、人間をダンピングすることを法律を変えることで許してしまった」(社民党・辻元清美議員)
「派遣労働者には安心して働き、生きる権利はないのでしょうか?私はただ安心して毎日働き、人並みの生活をしたかっただけです」(派遣労働者)

組合のメンバーは、大元のセメント会社の前で、皆倉さんの闘いの記録を映し出しました。
「違法な雇用環境の下で働く労働者が増えています」「暴力はやめろ、暴力はやめろ」(上映された映像)
最初は取り合わなかったセメント会社の社員も、葬儀場のシーンになると、スクリーンに目を向け始めました。
「そんなとこでコソコソ見んと、もっと前行って見いな、しっかり。アンタとこの下請けや、あれやっとんの」(組合)

皆倉さんが退院してから、少しずつ事態は変わっていきました。問題の解決に向けて、関係する各社が話し合った末、半年後に新しい会社が設立されました。皆倉さんは仲間とともに、「フツー」の労働条件で新会社に雇用されたのです。
「普通に夕方まで働いて、残業代も出て、保険とかもちゃんとあってというのが普通の仕事だろうから、そういう会社にしたというのが成果の第一歩。俺みたいな働き方してるのは他にもいっぱいいるだろうし」(皆倉さん)
「まだまだ対岸の火事という方が多いかもしれないけど、明日は我が身だよと実感していただければ。そのときに何ができるのか、この映画が参考になればうれしい」(土屋監督)

ひとりのトラック運転手の闘いが、多くの労働者の物語のきっかけになってほしい――映画にこめられた願いは、全国各地で共感を呼んでいます。
「頑張るしかないです、もう」(皆倉さん)
2009年1月26日放送

戻る



Copyright(c)2006 Kansai Telecasting Corporation All Rights Reserved.関西テレビ