中国製冷凍ギョーザ中毒事件の発覚から30日で1年。千葉、兵庫両県の被害3家族のうち千葉市稲毛区の主婦(37)は「家族が体調を崩しただけで『あの時の影響では……』と不安になる。この気持ちが晴れることは一生ない」と振り返った。「中国産」におびえ、冷凍食品を避ける生活、進まぬ事件の真相解明−−。「私たちの苦しみは世間に伝わっているのか」と主婦は憤りを新たにした。
【写真特集】中国製ギョーザ 自主回収商品
「あたし一度ここで死んだんだ」。次女(4)は当時搬送された病院を見る度にこうつぶやく。主婦は「怖かったんでしょう。あの記憶は消えないのではないか」と心配する。
07年12月28日。夫を除く4人のいつもの夕げだった。みんなが好物のギョーザ。主婦が一つ食べると強烈な苦みと薬品臭が口内と鼻腔(びこう)に広がり味覚が消えた。続いて食べた次女も顔をしかめた。すぐに吐かせ、自分も吐き出した。遅れて食卓に来た幼い長女と長男は食べなかった。
約30分後、急激な体温低下と吐き気が食べた2人を襲う。帰宅した夫が目の当たりにしたのは、口から泡を吹きのたうち回る主婦とぐったりした愛娘の姿。2人は救急車で病院に運ばれた。
あれ以来、不安は消えない。食品の産地確認を欠かさず中国産は絶対に避ける。冷凍食品も買わない。食費は約1.5倍になったが「何かあってからでは遅い。子供たちは私が守る」。
食卓からギョーザは消えた。一度だけ長男らが食べたがったので手作りしたが、次女は「やっぱりいらない」と手をつけなかった。
風化も進む。昨年暮れ、主婦は事件を扱ったテレビ番組を見てがく然とした。出演者の一人が「安心安全なら中国産は安くていい」と発言したのだ。「世間はそんなものなの?」と主婦はいぶかる。
捜査状況も伝わらない。「あとは中国政府に任せるしかない」。昨年5月ごろ、千葉県警担当者からそう聞いたのが最後。「だれもがうやむやにしようとしているのではないか」。不信は消えない。【駒木智一】
【ことば】中国製冷凍ギョーザ中毒事件
07年12月〜08年1月、冷凍ギョーザを食べた千葉県と兵庫県の3家族計10人がおう吐や下痢などの症状を訴え9人が入院、うち千葉県の5歳の女児が一時重体となった。ギョーザは中国河北省石家荘市の「天洋食品」の製造で、有機リン系殺虫剤メタミドホスが検出された。日中の警察当局が捜査を始めたが、国内での混入の可能性を日中双方が否定して対立。その後、回収分のギョーザを購入した河北省の企業で健康被害が発覚した。中国側は従業員数人から事情聴取しているが、捜査は難航している。
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