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【Re:社会部】無念の打ち切り
「六一〇ハップ」という入浴剤をご存じでしょうか? 「六一〇」は「ムトウ」と読みます。名古屋市の「武藤鉦製薬」が昭和2年から製造してきた入浴剤で、赤茶けた透明の液体をお湯に溶かせば、硫黄臭漂う白濁した“家庭温泉”を気軽に楽しむことができます。
この老舗入浴剤が昨年10月、製造打ち切りに追い込まれました。「とばっちりで…」と同社の担当者が語る打ち切りの理由は、硫化水素自殺の激増です。インターネット上で硫化水素の発生に必要な「混ぜる商品の一方」として紹介され、薬局の業界団体が販売自粛を決定。全国の薬局が店頭から撤去し、売り上げが急速に落ち込んでしまったからです。
警察庁によると、昨年1年間の硫化水素による全国の自殺者は1056人に上り、前年の29人と比べて約36倍と爆発的に増加。警察庁は硫化水素による自殺を誘引する書き込みを「有害情報」に指定し、全国の警察本部などがサイト管理者らに削除を要請していますが、他の市販商品でも代用は可能でネット上には今も硫化水素に絡む情報があふれているのが実態です。
会社は存続させるものの一部従業員も解雇。「在庫もすでに卸してしまい、製造再開の予定もありません。申し訳ございません…」と語る担当者の言葉からは、80年余の歴史を誇ってきた商品の製造を突然断たれた無念さとやるせなさだけが漂ってきました。(創)