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会計監査「現状では受けるほど損」

 医療機関による資金調達の現状などを話し合う「医療機関の資金調達セミナー」(日本格付研究所主催)が1月24日に開かれ、パネルディスカッションでは、病院や金融機関の担当者、公認会計士らが意見交換した。席上、公認会計士は、会計監査に伴う退職給与引当金の計上により、会計上の負債が大幅に増加する点を指摘。会計監査で透明性を担保しようとすればするほど資金繰りが苦しくなるなど、損をするとして問題視した。これに対し銀行の担当者は、「2期連続で赤字が続いた場合は『正常債権』ではなく『要注意』にしたり、債務超過だとより低くしたりと、金融機関としての基準がベースにあるため、各金融機関がどうしても似たような見方になってしまう」と事情を明かした。

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■金融サイドの対応「明らかに変化」
 長期優先債務に対する「A(シングルエーフラット)」の格付けを昨年8月に取得した淀川キリスト教病院(大阪市)の福島公明常任理事は、金融機関との取引の状況について、「銀行側には『二次審査の際に、格付けを取っているかどうかで全然違う』と言われた。格付け(取得)の影響が出ている」と述べた。
 一方、世界規模での金融危機が表面化した後の銀行側の対応については、「明らかに今までと違う。当院への評価は『全然問題ない』と言うが、金利や担保条件などの話が細かくなっている」と明かした。また、「金融危機後に『大型案件では、審査が通常のラインでは済まされない。経営会議に掛ける』と言われた」とも述べた。

 公認会計士の長英一郎・東日本税理士法人副所長は、「債務超過に陥った医療法人をある都市銀行に紹介したが、損益計算書と貸借対照表を提出した段階で、『融資できない』と門前払いにされた。債務超過の原因と解消計画を一応、説明したが、聞く耳を持たない感じだった」と説明。その上で、「債務超過になった背景にはいろいろな原因がある」と述べ、画一的な対応を取らないよう金融サイドに要請した。
 長氏はまた、医療機関に対する会計監査の現状について、「監査を入れた初年度には、退職給与や賞与の引当金など多額の費用を計上するので、損益計算書も貸借対照表もかなり痛む。会計監査は任意だが、受けた方が損をするシステムになっている」と述べ、こうした状況を打開しなければ、会計監査の取り組みが医療界に広がらないとの懸念を示した。

 これに対し、福祉医療機構の土屋敬三経営支援室長は、「債務超過になっていると、確かに金融機関として融資しづらいだろう。われわれはそういう対応をしたくないと思っているが、それでも慎重になる」と述べた。一方、会計監査に伴う退職給与引当金の計上については、「経営自体には直接関係していない会計処理上の問題と考えれば、対応の仕方がある気がする」と語った。

 また、東京都民銀行の岩野雅哉医療・福祉事業部長は、一般論と断った上で、「銀行側の形式基準では、融資先を『正常債権』や『要注意債権』『要管理』『破綻(はたん)懸念先』などに分けて、例えば『要注意』なら3%といった形で引き当てを積まなければならない」などと述べ、こうした事情が金融サイドの画一的な対応につながっていると説明した。
 一方、「本来の形式基準なら『要注意』だとしても、一過性のものなら『正常債権』と判断するなど、徐々に変わりつつある」とも述べた。

■不動産流動化「譲渡先は慎重に」
 医療機関による資金調達手段の多様化もテーマになった。複数の金融機関が協力して融資する「シンジケートローン」について、福島氏は「一つのプロジェクトを立ち上げる際にばらばらで融資を受けると、全体の統一感が分かりにくい」と述べ、こうしたケースでは、複数の金融機関との相対取引で個別に融資を受けるよりも、条件が一定になるシンジケートローンの方が有効だとの見方を示した。一方で、シンジケートローンによる資金調達の留意点としては、「コベナンツ(制限条項)の内容が多岐にわたるので、どこまで譲歩していただけるかだ」と述べた。

 また、日本ヘルスケア・アセット・アドバイザーズの松澤裕代表取締役社長は、病院建物などの不動産を特定目的会社などに譲渡し、譲渡先に一定の賃料を支払う「不動産流動化」について、不動産による債務を切り離すことで、診療報酬や金利改定などの変動リスクの影響を受けにくくなり、資金繰りの安定化が期待できる点がメリットだと強調した。一方で、「譲渡先の背後にファンドがあれば、その考え方が色濃く出てくる。単純に不動産を長期的に預かるだけという方も居れば、場合によっては経営に介入したいと考える人も居るかもしれない」と述べ、譲渡先は慎重に選ぶよう訴えた。
 福島氏も、この点で不安を払しょくし切れずに不動産流動化を断念した経緯を明らかにし、こうした手法に慎重な姿勢を示した。

 一方、診療報酬債権を担保に融資を受ける診療報酬債権の流動化については、日本格付研究所の坪井清取締役が、「いったん手を付けるとずっと続けなければならなくなる点で、消極的な受け止め方がある」と指摘。こうした手法を検討する際には、メーンバンクと事前に相談する必要があると強調した。一方で、坪井氏は「優良な病院がかなり前からコンスタントに診療報酬債権の流動化を行っている。トータルコストとしても、低位で実施できているようだ」とも述べた。
 また、長氏は「譲渡した診療報酬債権がノンバンクに転売された結果、経営介入され、廃院に追い込まれる事件が起きている」と述べ、安易にこうした手法を取ることのないよう注意喚起した。

■社会医療法人債は「コスト倒れ」
 このほか、「社会医療法人債」をはじめとする医療提供者による公募債の発行については、実現性は低いとする見方が多かった。
 松澤氏は、「公募債市場で償還するには発行体の規模が小さ過ぎて、コスト倒れになってしまうのではないかという議論がある」としたほか、複数の社会医療法人が共同で公募債を発行するケースについては、「各医療機関の資金需要のタイミングを、どうシンクロさせるかだ。いろいろな問題点がある」と述べた。実効性を伴う公募債が今後、医療界で普及するかどうかについては、「正直言って分からないというのが実感だ」とした。

 長氏は、社会医療法人債を発行するためには、会計監査が義務付けられる点を指摘。「医療機関では、財務の観点から内部統制が未整備であるケースが多く、本気で監査しようとすれば多額の費用が掛かる。果たして(監査を)引き受ける監査法人があるのか、非常に疑問だ」と述べ、社会医療法人債発行へのハードルは高いとの見方を示した。


更新:2009/01/26 18:29   キャリアブレイン

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