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2020年までに温室効果ガスをどのくらい減らすのか? この中期削減目標は、地球温暖化対策の13年以降の枠組み、いわゆる「ポスト京都」をめぐる国際交渉で大きな焦点になる。
「温暖化の悪影響を最も小さくするには、先進国全体で20年までに90年比25〜40%削減する必要がある」。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、科学的な知見を検討した結果、そう指摘している。
すでに、欧州連合(EU)は「90年比20%減」を打ち出した。温暖化問題に背を向けてきた米国でも、「90年と同水準にする」と公約に掲げたオバマ大統領が就任した。日本とロシアを除く主要国のほとんどが、何らかの数字を示している。
日本政府はといえば、「今年のしかるべき時期に明らかにする」として、まだ有識者の検討委員会が議論をしている段階だ。先週は「90年比6%増」から「同25%減」まで、大きく四つの選択肢を例示した。
国際交渉の場で、どんな数字を、どんな時期に出すか。これは、交渉の作戦にかかわる事項だ。早く大きめの数字を示せば有利になる、という単純なものではない。
だが、それにしても、麻生政権の取り組みは消極的にすぎないか。
次期枠組みは今年末に合意することになっている。あまり時間はない。説得力ある数字をなるべく早く示し、温暖化防止に取り組む日本の姿勢をアピールした方がいいのではないか。
また次期枠組みでは、中国やインドのような新興国や途上国を引き入れることが不可欠だ。こうした国々を説得するには、まず、先進国側が厳しい条件をのむ必要がある。世界第2位の経済大国が、ずるずると様子見を続けるのは好ましくなかろう。
打ち出す目標については、IPCCの厳しいシナリオにできるだけ沿う方向で検討するべきである。
ただし、現行の枠組みは省エネが進んでいた日本にとって不利になったとの不満もある。この意味で、四つの選択肢のうち「温室効果ガス1トン当たりの削減コストが平等になるよう、削減目標を先進各国へ割り振る」という方式を提案するのも一法だろう。これなら、先進国を「90年比25%減」としても、日本の削減は15%ですむ。
最大の問題は、温暖化に対し万事、政府の腰が引けている点だ。どんな目標を掲げるにせよ、実現するための策をできることから実行していかねばならない。排出量取引や環境税の検討、再生可能エネルギーの拡大など、課題は山ほどある。企業や国民が痛みを感じる政策も必要になるだろう。
厳しい不況を克服しつつ、産業や社会を低炭素型へ大胆に変えていく。それに全力で取り組むべきだ。
2期目をめざす現職と新顔の一騎打ちとなった山形県知事選挙は、1万票あまりの小差で現職が敗れた。
県内三つの衆院小選挙区すべてを自民党が占める「保守王国」だ。現職の斎藤弘氏(51)はその自民党の大半に支援されていた。2期目をめざす知事は最も選挙に強いとも言われる。敗北は意外な結果といえる。
勝利した新顔の吉村美栄子氏(57)は、民主や共産、社民の各党と自民党の一部の支援を受けた。両氏とも政党の正式な推薦はなかった。
自民が分裂していたとはいえ、支援した政党の枠組みは国政での与野党対立の構図とほぼ重なっていた。
斎藤氏の敗北は、小泉政権時代に進んだ自民党の地方組織の弱体化が根底にあったろう。そのうえに、麻生内閣の支持率低迷の逆風がもろに襲いかかった。今秋までに必ずある総選挙を控え、自民党には衝撃に違いない。
斎藤氏は、山形ではいわば「元祖・改革派」だ。前回の知事選で、自民党の多くの県議や首長、地元の民主党などが推していた4選をめざす現職に挑戦した。県財政の改革や行政の変革を無党派層にも訴え、4千票あまりの小差で当選した。
斎藤氏はこの4年間、公約に沿って県の財政改革に取り組んだ。県職員の人件費を累積で200億円削減し、借金である県債残高を初めて2年連続で減らしたと誇る。その一方で、公共事業や農業予算の削減という「痛み」を県民にもたらした。
農業や公共事業が経済と暮らしに持つ重さは、大都市圏とは比べものにはならない。そこを、農業予算の増額などを掲げて「温かい県政」を訴えた吉村氏につかれた形だ。
地方の疲弊は厳しい現実だ。そこに不況の波が押し寄せている。だれしも立て直しが必要だと考える。改革の痛みを人一倍感じている地方が政治に「温かさ」を求めるのは当然のことだろう。
その一方で、行財政の効率化を進め、税金のムダをなくす改革はぜひとも進めなければならない。この二つの要素を踏まえて、有権者の心をとらえ、また説得する力は、今の時代の政治指導者に求められる資質の一つだ。斎藤氏の場合、そうした言葉が有権者に届かなかった面はなかったか。
麻生内閣は、第2次補正予算などで景気対策を矢継ぎ早に打ち出している。だが、目玉の定額給付金をうまく説明できないことなどから、支持率は記録的な低さだ。財政規律を保つとして消費増税の可能性を語っても、与党内から激しく突き上げられた。
政策の中身も大事だが、同時に政治家はそれを訴える説得力が問われる。山形県知事選にはその重さと難しさが垣間見えた。