英ポンドは「英国病」時代以来の安値!?
2009年01月22日世界最強通貨=円、最弱通貨=英ポンド
円が昨年夏から明確な円高トレンドに転換したのと歩調をあわせ、英ポンドの下落が目立っています。結果として英ポンドは、一昨年夏の250円から半分の水準まで下がってしまいました。これは、英国人にとっては「日本の物価がこの1年半の間に倍になった」ことを意味しており、日本人にとっては「イギリスの物価が半分になった」ことを意味しています。通常はこんな短期間のうちに半分になったり、倍になったりすることはありません。当然ながら、主要通貨間の動きとしては前例のないような急激な変化です。
数ある下落通貨の中で異彩を放つ英ポンド
多くの賢明な読者の皆様は、円については昨年夏以来、強烈な「リスク回避」によって上昇していることをご存知だと思います。つまり、相場も経済も好調でイケイケだった2年前位までは、低金利かつ少子高齢化で競争力がどんどん下がることが確実視される円を借り、それで高金利の通貨の資産を買ういわゆる「キャリー・トレード」が大流行していましたが、相場の反転により多くの人々が損失を被るようになり、こうしたポジションは一気に巻き戻され、逆に急激な円高になっているという事実です。
こうした中で、いわゆる「高金利通貨」は全般的に下落幅が大きくなっており、特に人気だったNZ(ニュージーランド)ドルや豪ドル、中南米などの新興国、そして英ポンドもその例に漏れない動きとなっています。ただ、その中でも英ポンドはどうも異彩を放っているような気がします。
まず英国は、経済規模も通貨市場の規模もこれらの国々の中では際立って大きく、他の国のように少々の投機資金が入ってきただけで大きく値が跳ね上がるという通貨ではありません。また、ここ数年上昇した多くの国の通貨が「資源通貨」であったのに対し、英国は北海油田の石油が多少は寄与しているものの、それも国内消費で使ってしまう程度の量なので、資源ともほぼ無関係です。
確かに英ポンドは、「高金利通貨」ではもはや無くなりました。英国の政策金利は、現在1.5%とその面影はまったくありません。むしろ今回の「信用バブル崩壊」に当たっては、米国などに先駆けて、いち早く銀行の国有化や資本注入に踏み切るなど、政策対応のスピードの速さを感じさせます。
矢継ぎ早の対応が弱いイメージを増幅した?
主要国通貨の中で英ポンドが際立って弱い背景には、こうした矢継ぎ早の政策対応が、むしろイギリス経済の弱いイメージを増幅させているという可能性もあります。英国当局は昨年の春のまだ原油価格がどんどん上昇していて、世界中のほとんどの人がインフレ懸念を強烈に強めていた最中から「今後景気が悪くなるのでインフレは次第に落ち着く」と予想し、さらにリーマン・ブラザーズ破綻の少し前から「数十年来の厳しい経済環境となる」と見てきました。利下げも昨年11月には、4.5%から3.0%へと一日で一気に1.5%の引き下げを行うなど、かなり思い切った策を打っています。こうした当局の洞察力は評価されてよいところなのですが、今のところはどうも『イギリス経済が際立って悪いのではないか?』というイメージを膨らませるという結果になっているような感じです。
確かにイギリスの家の値段は米国や日本と比べても非常に高く、その値段が下げに転ずると暴落するのではないか?という懸念がありました。また、イギリスは歴史的に見て「金融業で復活した経済」ですから、金融システムがおかしくなればもっとも大きな影響を受けます。そうした懸念はある程度事実です。
英国不動産バブル崩壊に対する懸念は行きすぎか?
ただ、不動産の割高さはここ1年半のポンド暴落でほぼ解消されました。ロンドンの住宅と東京の住宅を比べると、現在の£=130円程度の為替水準では、ロンドンの方が安いように感じます。東京と比べると人口密度が少なく、広くて美しい公園があり、しかも世界有数の芸術や最先端の文化に気軽に触れられることを考えれば、筆者は個人的には割安感がかなりあります(食べ物だけはまだまだで、どうにもこうにも東京とは比較になりませんが)。
また、金融は確かに酷い状況で、ロンドンの金融街のシティでは人減らしがまだ止まりません。ただ、英国を含めたヨーロッパの失業保険は、日本人の想像をはるかに上回る充実振りで、実は日本や米国のようなセーフティ・ネットが貧弱な国に比べると影響はマイルドです。
銀行が弱体化したために、中央銀行が利下げをしてもなかなか銀行が貸出金利を下げないという問題も徐々に解消されつつあり、住宅ローン金利も変動であれば3%そこそこのものが出てきています。今後、利下げや公的資本注入、国有化といった動きがさらに進めば、金利はさらに下がり住宅市場の下支えとなるはずです。
さらに、英ポンドの水準は歴史的に見ても既に非常に安くなっています。物価変動の影響を排除した「実質実効レート」で見ると、英ポンドは1979年のサッチャー首相登場以前の「英国病」と言われた英国経済の最悪期以来の安値です。
世界中を旅する投資家として有名なジム・ロジャーズは、最近「英国は終わった、一銭ももう英国に投資などしない」といっていますが、果たしてどうでしょう?このまま英国病時代に戻り、英ポンドは今の水準でもまだ高い、ということになってしまうのでしょうか。それとも・・・?
円が昨年夏から明確な円高トレンドに転換したのと歩調をあわせ、英ポンドの下落が目立っています。結果として英ポンドは、一昨年夏の250円から半分の水準まで下がってしまいました。これは、英国人にとっては「日本の物価がこの1年半の間に倍になった」ことを意味しており、日本人にとっては「イギリスの物価が半分になった」ことを意味しています。通常はこんな短期間のうちに半分になったり、倍になったりすることはありません。当然ながら、主要通貨間の動きとしては前例のないような急激な変化です。
数ある下落通貨の中で異彩を放つ英ポンド
多くの賢明な読者の皆様は、円については昨年夏以来、強烈な「リスク回避」によって上昇していることをご存知だと思います。つまり、相場も経済も好調でイケイケだった2年前位までは、低金利かつ少子高齢化で競争力がどんどん下がることが確実視される円を借り、それで高金利の通貨の資産を買ういわゆる「キャリー・トレード」が大流行していましたが、相場の反転により多くの人々が損失を被るようになり、こうしたポジションは一気に巻き戻され、逆に急激な円高になっているという事実です。
こうした中で、いわゆる「高金利通貨」は全般的に下落幅が大きくなっており、特に人気だったNZ(ニュージーランド)ドルや豪ドル、中南米などの新興国、そして英ポンドもその例に漏れない動きとなっています。ただ、その中でも英ポンドはどうも異彩を放っているような気がします。
まず英国は、経済規模も通貨市場の規模もこれらの国々の中では際立って大きく、他の国のように少々の投機資金が入ってきただけで大きく値が跳ね上がるという通貨ではありません。また、ここ数年上昇した多くの国の通貨が「資源通貨」であったのに対し、英国は北海油田の石油が多少は寄与しているものの、それも国内消費で使ってしまう程度の量なので、資源ともほぼ無関係です。
確かに英ポンドは、「高金利通貨」ではもはや無くなりました。英国の政策金利は、現在1.5%とその面影はまったくありません。むしろ今回の「信用バブル崩壊」に当たっては、米国などに先駆けて、いち早く銀行の国有化や資本注入に踏み切るなど、政策対応のスピードの速さを感じさせます。
矢継ぎ早の対応が弱いイメージを増幅した?
主要国通貨の中で英ポンドが際立って弱い背景には、こうした矢継ぎ早の政策対応が、むしろイギリス経済の弱いイメージを増幅させているという可能性もあります。英国当局は昨年の春のまだ原油価格がどんどん上昇していて、世界中のほとんどの人がインフレ懸念を強烈に強めていた最中から「今後景気が悪くなるのでインフレは次第に落ち着く」と予想し、さらにリーマン・ブラザーズ破綻の少し前から「数十年来の厳しい経済環境となる」と見てきました。利下げも昨年11月には、4.5%から3.0%へと一日で一気に1.5%の引き下げを行うなど、かなり思い切った策を打っています。こうした当局の洞察力は評価されてよいところなのですが、今のところはどうも『イギリス経済が際立って悪いのではないか?』というイメージを膨らませるという結果になっているような感じです。
確かにイギリスの家の値段は米国や日本と比べても非常に高く、その値段が下げに転ずると暴落するのではないか?という懸念がありました。また、イギリスは歴史的に見て「金融業で復活した経済」ですから、金融システムがおかしくなればもっとも大きな影響を受けます。そうした懸念はある程度事実です。
英国不動産バブル崩壊に対する懸念は行きすぎか?
ただ、不動産の割高さはここ1年半のポンド暴落でほぼ解消されました。ロンドンの住宅と東京の住宅を比べると、現在の£=130円程度の為替水準では、ロンドンの方が安いように感じます。東京と比べると人口密度が少なく、広くて美しい公園があり、しかも世界有数の芸術や最先端の文化に気軽に触れられることを考えれば、筆者は個人的には割安感がかなりあります(食べ物だけはまだまだで、どうにもこうにも東京とは比較になりませんが)。
また、金融は確かに酷い状況で、ロンドンの金融街のシティでは人減らしがまだ止まりません。ただ、英国を含めたヨーロッパの失業保険は、日本人の想像をはるかに上回る充実振りで、実は日本や米国のようなセーフティ・ネットが貧弱な国に比べると影響はマイルドです。
銀行が弱体化したために、中央銀行が利下げをしてもなかなか銀行が貸出金利を下げないという問題も徐々に解消されつつあり、住宅ローン金利も変動であれば3%そこそこのものが出てきています。今後、利下げや公的資本注入、国有化といった動きがさらに進めば、金利はさらに下がり住宅市場の下支えとなるはずです。
さらに、英ポンドの水準は歴史的に見ても既に非常に安くなっています。物価変動の影響を排除した「実質実効レート」で見ると、英ポンドは1979年のサッチャー首相登場以前の「英国病」と言われた英国経済の最悪期以来の安値です。
世界中を旅する投資家として有名なジム・ロジャーズは、最近「英国は終わった、一銭ももう英国に投資などしない」といっていますが、果たしてどうでしょう?このまま英国病時代に戻り、英ポンドは今の水準でもまだ高い、ということになってしまうのでしょうか。それとも・・・?
グローバル債券ファンドマネージャー 鈴木 英寿
提供:株式会社FP総研
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