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Hi121ゲイレルル |
ゲイレルルの開発経緯
Hi121ゲイレルルの開発は、U.G.側が使用する西暦で2700年代後半より行われた。
既に幾度となく名前の挙がっている総統(オーラ・ガル・セリック 正しくは「大にして多の権威を持つ政務官」)と呼ばれる人物は、"The New Space Order War(新宇宙秩序戦争)"以前に行われた軍事帝國母星統一戦争、すなわち
『総統惑星統一戦争』
(オーラ・ガル・セリック・ゾ・ア・ウス・スクィーラ・ピト・ウス・ベガナン・ストル
直訳は「惑星アの首長たる、大にして多の権威を持つ政務官による惑星内の合一を目指す戦い」)
によって、この頃に軍事帝國母星を統一した。
しかし総統は、惑星を統一した直後、側近に政務をまかせ突如として姿を消してしまったのである。
惑星統一から64年後、西暦2800年代に再び現れた総統は、新たな国土として「宇宙空間(シド)」の獲得と、まだ見ぬ「外敵(ダルガ)」の存在を予言し、軍事帝國惑星全土を挙げての宇宙軍編成と、それを用いた侵略戦争である
『総統宇宙統一戦争』
(オーラ・ガル・セリック・ゾ・ア・ウス・スクィーラ・シド・ガルゾ・ヴィン・ウス・ベガナン・ストル
直訳は「惑星アの首長たる、大にして多の権威を持つ政務官による空間と諸惑星の合一を目指す戦い」)
の将来的開戦の実行を含んだ宣言、総統令第47号(オーラ・ガル・セリック・アギネス・ゾ・シィオ・ソリタ)を発令した。これが
『再軍備宣言』
(グルゼーグ・ベガナン・レプケ 直訳すると「軍団再編成」)
と呼ばれる事件であった。
この宣言により、新たに宇宙を「海」あるいは「空」と定義し、そこで運用するための組織と兵器群が作られた。
この”組織”というのが航空宇宙総軍(アーパス・シド・ベガナン・グルゼーガ)であり、”兵器群”というのが宇宙用戦闘艦(ガル・グルゼーガ)と、宇宙用航空機(シド・ミク・グルゼーガ)である。
※なお後年、占領宙域を「国土」と置き換え、陸軍も宇宙に上がることとなる。
Hi121ゲイレルルは、この宇宙用航空機として開発が始まったのである。
甲板上繋止状態のHi121ゲイレルル 星雲32度方向外周軍管区 レティ・ウス・バルキン星系付近航行時 撮影:オイラート・ジェス・イアッパ報道少尉 |
この総統令第47号に従い、兵器群の開発のため総統直轄部署として設置されたのが、艦政本部(グルゼーグ・レカド・ハークテル)と、兵器設計本部(ターク・レカド・ハークテル)の両設計本部であった。
艦政本部は航空宇宙総軍の基幹となる、大型艦および大型艦兵装の設計を行い、兵器設計本部は、それ以外の航空機、航空兵装、惑星進攻兵器、基礎技術開発を行う部署とされた。
そして、その開発人員たる博士、工房職人、職人、徒弟は挙国体制として軍事帝國中より召集され、すべからくここに属することとなったのである。
既に軍事帝國では技術的には恒星間探査レベルまで達成していたが、総統の予言する「外敵」に邂逅することすらなく、一足飛びに恒星間戦争レベルの兵器を開発することとなったわけであるが、両設計本部に言わせれば「いかに総統令といえど、敵すら知らぬ状況では兵器なぞ作りようがない」というのが正直なところであった。
兵器とは本来、戦術や戦略が存在し、それを具現化するための手段であるが、総統の予言の意味すら理解できない設計職人には、いきなり宇宙戦争兵器の開発と言われても、どだい無理と言わざるを得なかった。
そういうこともあって、まず開発にあたっては総統の予言の解釈から行われ、その解釈を元に作られることとなったのである。
それでも大型戦闘艦(ガル・グルゼーガ)を担当する艦政本部に関しては、既に恒星間航行技術が確立し大型探査船が作られていた分、技術的アドバンテージがあった。
また設立当初から人材にも恵まれ、恒星間探査船の研究者で、後に戦列艦の推進・出力系を担当するフヴェルゲルミルを筆頭に、全員が恒星間船舶の造船経験者で構成される19工房職人(ア・シィオ・ティオ 工房職人といっているが大半は博士)も中核メンバーとして既に確立していたことから、後は戦術・戦略に応じた戦闘艦の設計のみという状態であった。
これだけの技術と人材に恵まれながら、さらにこの後にも
・工房職人第20位(ティオ・ゾ・ア・オリ)レイシーク・レノム・ウート(後の「大転換」事件で光線砲派盟主となるほどの辣腕)
・工房職人第21位(ティオ・ゾ・ア・ゼビ)スクィール・バック・グンスラー(名誉職「砲熕10工房」職人、後に実体弾砲派)
・工房職人第22位(ティオ・ゾ・ア・レフ)パナール・ヨルバ・ガストロプ(名誉職「砲熕10工房」職人、後に光線砲派)
・工房職人第23位(ティオ・ゾ・ア・ファー)ヒルドルフ・ユス・グェンドゥール(最若年工房職人記録保持者)
らが登場し、艦政本部に属することも考え合わせると、宇宙用戦闘艦の1号艦を完成させるのに、それほど時間が必要とは思われなかったのである。
事実、艦政本部による建艦は、再軍備宣言の数年後には、予言解釈のみにとどまらず、さらにそれを軸におき、軍事帝國惑星統一戦争時の戦略・戦術を宇宙上で展開可能とするほどにまで設計が進行していたのである。
(言い換えればこの余裕が軍事帝國の豊富な艦種を生み出したといっても過言ではない)
だがその一方で、兵器設計本部は「博士無し、工房職人無しの設計本部(ウ・クセル・ガルゾ・ウ・ティオ・レカド・ハークテル)」とまで揶揄されるほど人材、人員欠乏が目立っていた。
単純な比較は出来ないが、艦政本部が19人の博士ないし工房職人が5種の艦艇の建艦設計を行うのに対し、兵器設計本部はわずか6人の博士と工房職人で、航空機4種、地上進攻兵器32種、関連兵装64種もの設計を回している状態であり、必然、予言の解釈どころではなく、運用体系の見えやすい地上進行兵器から作り始め、その合間に航空機を試作するという状態であった。
NSOでの軍事帝國というと大型戦闘艦重視の戦略、戦術がイメージされるが、総統惑星統一戦争時も含めてそういうことはまったくなく、むしろU.G.S.F.の航宙機偏重と比べれば、陸・海・空・親衛隊四軍全てのバランスの良いというのが特徴であった。
ゆえに、これら戦略、戦術を宇宙で実現するには、艦艇以外にも、どうしても陸軍(惑星進攻および占領宙域防衛戦力)と空軍(機動戦力)が欠かせない。(この場合、独立した戦力である親衛隊は例外とする)
少なくとも陸軍の内、惑星進攻戦力はある程度、既存兵器群と進攻用艦艇(揚陸艦・突入用舟艇)の充実でカバーできなくもなかったが、特に機動を担う航空戦力だけは、大型艦艇群だけではどうにもならないという事実があり、航空宇宙総軍の再軍備には「小型戦闘機種群の確立」が最後の重要なピースとなっていたのである。
話を元に戻すと、航空機設計は再軍備発令後、兵器設計本部に所属し、設計の名門であったグェンドゥール宗主ラーグに一任されていた。
しかし、ラーグ出身の博士は再軍備の頃は、ラーグ34代当主、ラーグ・フェル・グェンドゥールの1名だけであり、しかもフェルが所属する兵器設計本部は、先述の通り、明らかな人材不足であったことから、肝心の航空機設計は遅々として進んでいなかった。
その結果、再軍備宣言から30年にわたり試作は繰り返されていたが、0番設計から4番設計までの5種11機は、ほとんど何の成果も見せず、作っては潰されるという状態であった。
この事態が発覚したのは、再軍備宣言より40年後の軍事帝國初の外宇宙戦闘艦「駆逐艦(バキュラ・グルゼーガ)」の1号艦が進宙した直後であった。再軍備宣言の遂行によって、「総統惑星統一戦争の戦略を宇宙で行う」ことを最優先目標としていた総統は、大いに怒り、ラーグに謹慎を言い渡すと、つづいてすぐさま総軍に対して厳命を下した。
これが総統令第102号(オーラ・ガル・セリック・アギネス・ゾ・ファー・レフ)であり、その内容は「全博士を動員してでも航空機の設計を迅速果敢にやり遂げよ」というものであった。
航空戦列艦 航戦指揮所より発艦訓練中の風景 この直後「閃光の鋒矢」作戦(ヴァリ・セド・デキサ)が実行された。 |
この厳命を受けて総軍と両設計本部は、上に下への大騒ぎとなった。
既に大型艦の方は、駆逐艦第1号艦の進宙をうけて、その生産準備とさらなる駆逐艦派生艦種の設計に移行しつつあり、艦政本部の全博士と全工房職人はこれに専任していたことから、総統令である「全博士を動員してでも」を行うことが出来ない。
また、数十年にわたり大型艦設計を主としてきた艦政本部の博士、工房職人を小型航空機の設計に転換させたとして、どの程度の結果が出せるのかさえも怪しかった。
総軍では、グェンドゥール宗主であるラーグの過失(これを過失というのかは疑わしいところであるが)は、「同じグェンドゥールの系譜の者にとらせるべき」という意見が大勢を占め、ラーグに代わる新たな責任者を充てることとなったのである。
グェンドゥールを始祖とし、その系譜に連なる家系は3家が存在した。
1つが既述の宗主ラーグであり、もう1つがザカリク、そして残る1つが傍系のヒルドルフである。
この3家の中で設計ができるもの、すなわち博士あるいは工房職人という限定がかかると、ラーグには博士が1名、ザカリクには職人や徒弟は多くいたが、工房職人あるいは博士はいない、という状態であり、必然残るヒルドルフに白羽の矢が立った。
再軍備宣言時のヒルドルフ当主は第26代、ヒルドルフ・ハル・グェンドゥール(工房職人)であった。
だが、ハルは工房職人であり、その設計能力は地上戦力に限定されていたことから、総統令の遂行に疑問符が生じた。
この後が当時の慌てぶりが非常にわかるエピソードだが、総統令の遂行と現実の板挟みとなった総軍と両設計本部は、軍事帝國史上最も稀有、かつ途方もない冒険ともとれる選択をした。
ハルの長男で弱冠20歳、博士院卒院間際のヒルドルフ・イラ・グェンドゥールに航空機の設計を一任したのである。
確かにイラは幼少より学術優秀な人物であった。
名門グェンドゥールに属しながらも傍系のヒルドルフとして、それほど期待を負わなかったのが良かったのか、ラーグやザカリクの後継子息が周囲の期待に応え切れず不遇な人生を送るのに対し、イラ自身はのびのびと好きなことをし、かつそれが学術方面であったことから、気づいてみると飛び級に飛び級を重ねて、通常26歳で入る博士院に18歳で入るという前代未聞の天才となっていた。
(なお弟のユスは、さらにこれを超える17歳で博士院に入っている)
さらに博士院に入ってからは、特に航空機設計の方面で多大な才能を発揮して多くの論文をおこし、これら学業の傍ら実習と称してはフェルの工房に入り浸って航空機開発を手伝い、イラ本人も卒院後の進路は、兵器設計本部設計局を希望していた。
一応これらの資質と経験、諸条件を備えていただけでも、総軍の選択にまったく理性が無かったわけでもない、とも言える。
しかし、軍事帝國では、博士院を卒院するともらえる博士号(ウォーソ)は、あくまで課程修了の号名でしかなかった。
その一方で、同じ「博士」と訳される設計本部の博士(クセル)は、工房の頂点に立ち、全工房職人、全職人、全徒弟を自在に使い、帝國の頂点たる総統の開発厳命を遵守し、かつ満足の行く結果を求められる、というまったく別の概念のものであった。
(詳述すると「権威ある博士」といった方が近い。ただ「権威ある人(セリック)」は総統に用いられる単語なので使われない)
博士院卒と言えど、設計本部に入れば徒弟から始め、どんなに優秀であっても最低徒弟6年、職人4年、工房職人6年というのが常識であり、しかもこれら過程を経て最後に(設計本部の)博士となるのはほんの一握り、というのが現実であった。
このあまりにも常識破りな総軍の選択に、艦政本部、兵器開発本部の両設計本部の一部の博士から、絶対命令である総統令の遵守は到底不可能であるとの反論が上がった。
が、これは程なくおさまった。というよりも収まらざるを得なかった。
なによりも、反論した本人たちにこれに優る代案が無かった。代替を立てようにも、グェンドゥールどころか両設計本部とも人員は払底しており、可能であろうがそうでなかろうが任せざるを得ずという状態であったのである。
また、仮に失敗して処断が下っても、ヒルドルフはグェンドゥール系譜では傍系であり、名門グェンドゥールを失うことはないだろう、といった総軍側の企図が含まれているのを反論していた者たちも理解したからであった。
かくして軍事帝國の戦略の最後のピースを埋める航空機の開発は、否応なくこの若者に委ねられることとなったのである。
しかし、それら周囲の思惑をよそに、イラは弱冠20歳とは思えぬ才能を発揮した。
まず、イラは主任設計担当の拝命にあたり、宗主ラーグ・フェル・グェンドゥールの謹慎の解除と、グェンドゥール系譜のラーグ、ザカリク、ヒルドルフ全3家に所属する全ての博士、工房職人、職人、徒弟の動員(ユスを除く)および、航空機設計への作業への専従化を願い出た。
さらに、設計者が払底して航空機設計に回す余剰人員がいないなか、イラが兄とも慕い、若年ながら、艦政本部では工房職人第21位(ティオ・ゾ・ア・ゼビ ※再軍備当時)、さらに小型兵装設計の名家、そして名誉職である砲熕10工房(パストー・ターク・ティオ)に属していたスクィール・バック・グンスラーの協力を要請し、かつこれが認められたのである。
これらの要請は全て、総統に直接かけあって承認されたものであり、総軍のみならず両設計本部とも舌を巻くほどの活躍を示したのである。
とりもなおさず、最も感心したのは誰あろう総統本人であった。
長く総軍にいる者でさえ、総統に意見することは稀であるのに、イラは若年ながらも総統の前で、臆することもなく堂々とラーグの弁護と、航空機設計の開発計画を述べ、あまつさえ総統自身が下した謹慎を「解除せよ」とまで口を出したのである。
総統はこの若き気鋭の博士を気に入るとともに、彼の上申のことごとくをかなえることを約束した。
総統のイラに対する気に入りようはかなり大きく、「あの若者はきっと余の望みを達成する」と言わしめ、設計ができていないうちから総統宇宙統一戦争を勃発させるほどであった。
総統宇宙統一戦争の構想を討議する総統 この時点で航空機は設計も完了していなかった |
これら一連の行動によって、イラはグェンドゥールの名誉を回復させただけでなく、総統に認められたことにより、名実共にラーグに代わって、グェンドゥールを率いる宗主ともなったのである。
イラに代わってからの航空機開発は尋常ならざる速度で運んだ。
下表は、試作開発の進行表である。設計4番と5番の間で、ラーグ・フェル・グェンドゥールからヒルドルフ・イラ・グェンドゥールに設計担当が変更となっている。
Hi121ゲイレルル開発進行表(試作期間中) | ||
設計番号 | 担当博士 | 開発状況 |
設計0番 | ラーグ・フェル・グェンドゥール |
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設計1番 | ラーグ・フェル・グェンドゥール |
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設計2番 | ラーグ・フェル・グェンドゥール |
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設計3番 | ラーグ・フェル・グェンドゥール |
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設計4番 | ラーグ・フェル・グェンドゥール |
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設計5番 | ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール ラーグ・フェル・グェンドゥール |
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設計6番 | ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール ラーグ・フェル・グェンドゥール スクィール・バック・グンスラー |
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設計7番 | ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール ラーグ・フェル・グェンドゥール |
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設計8番 | ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール ラーグ・フェル・グェンドゥール |
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設計9番 | ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール ラーグ・フェル・グェンドゥール スクィール・バック・グンスラー |
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設計10番 | ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール ラーグ・フェル・グェンドゥール スクィール・バック・グンスラー |
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設計11番 | ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール ラーグ・フェル・グェンドゥール スクィール・バック・グンスラー |
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実質、設計10番で完成を見ているが、その後の生産仕様の調整のため、設計11番までを試作とし、設計12番より生産を開始した。
この時点で正式にHi120(ヒルドルフ・クセル・ドゥ・ゾ・ヴィオ・ゾプ)の名称が付けられた。下表はHi120以降の開発進行表である。
Hi121ゲイレルル開発進行表(設計12番生産期間中) | ||
設計番号 | 担当博士 | 開発状況 |
Hi120 | ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール ラーグ・フェル・グェンドゥール スクィール・バック・グンスラー |
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Hi121 | ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール |
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Hi121ゲイレルル 前方図 |
Hi121ゲイレルル 後方図 |
最終的に、イラに設計担当を代えてからHi121の1号機が生産ラインを出るまで、実に15年の歳月を要している。
この後ゲイレルルは、母星近傍の航空基地に配備され実績を稼ぎつつ、最終的に航空戦列艦の艦載機として運用され、「閃光の鋒矢」作戦(ヴァリ・セド・デキサ U.G.側呼称:オペレーション・ドラゴンフライ)で、初めてU.G.S.F.のジオキャリバー2(ニューコム版)と戦火を交えることになるのである。
ゲイレルルのバリエーション
上にある開発表に記されているが、Hi121(Hi120ゲイル・スケグルも同じ)のバリエーションは大きく分けて3種が作られた。
単座と複座とを分けているのは操縦する航空士が保有する超能力(ドークト)のためで、軍事帝國の2つの超能力(シィオ・ドークト)、すなわち超視覚(ウル)、超演算(ギューフ)を1人で保有する場合は単座型となり、どちらか一方の超能力しか有しない場合、複座型となった。
機構および性能的に単座、複座とも大差はないが、単座型の航空士に限り、超能力のレベルが高い場合には、特殊型があてがわれた。特殊型は、戦闘ブースト機能(メテ・パライ・レストー)の能力向上や、編隊指揮機能を持つ拡張機能機体で、これだけは博士ないし工房職人、あるいは職人の手で直接作られた。
一部を除き部品に特殊なものを使うわけではないが、公差の少ない部品が選ばれ、かつ組立ても工廠ではなく工房で職人の手によって行われた。
また搭乗航空士にあわせたチューニングとして、出力の調整、特殊武器の搭載が行われるため、発揮される性能がとりわけ高く、それに比してエネルギー消費量が大きく、空戦性能がピーキーなのが特徴であった。
なお、特殊型は製作数量が少なく、グェンドゥール工房の職人によって組み立てられた227機と、グンスラー工房の職人によって組み立てられた301機のみとなっている。
そして、上記の3機種以外にワンオフ機として、博士自らが製作した『私製型』と呼ばれる機種があり、設計10番(Hi100 ~ Hi103)を流用し、ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール自らが組み立てたイラ特戦型(イラ・ブラグゾ・ドゥ)と呼ばれる4機と、設計11番(Hi110 ~ Hi115)を流用し、スクィール・バック・グンスラー自らが組み立てたバック特戦型(バック・ブラグゾ・ドゥ)と呼ばれる6機がこれに含まれる。
以下4機がイラ特戦型である。
イラ特戦型の特徴として、発動機がhrs419であり、Hi121のhrs422よりも出力が高いこと、戦闘ブースト機能の初期バージョンが搭載されており出力加算度が高いこと、そしてHi121では本来使用不可能な衝角戦用特殊兵器回路(グン・グニル・ターク・ローゼ・ノルケルの項を参照)の封印が最初から解除されていること、ワンオフ部品が多く大量生産機であるHi121よりも全ての能力において上回ることが挙げられる。
下図は、軍事帝國で親衛隊(ゾシー・ガルラ)に属し、機体のパーソナル・マークに蒼い「力の槍(グン・グニル)」を施し、「白の6(ファー・ム・マルフ)」と呼ばれたエース、トーン・リベロ・ヴァークレグ航空少佐機である。 細かく比較しないとHi121と判別がつきにくいが、発動機軸内砲がHi121よりも大口径のものとなっていること、発動機がhrs419を使っている関係で機種部分の形状が異なること、コクピット以降の尾部の形状が異なるといった点が挙げられる。
トーン・リベロ・ヴァークレグ航空少佐搭乗機 ゲイレルル・イラ特戦型「ザイド」
元は薄水色の機体であったが、リベロ航空少佐の要望で白色に塗装されている。 空戦に特化しているため、尾翼下部にあるブラストボムの懸架機構がない。 |
スクィール・ジュラス・グンスラー航空少佐搭乗機 ゲイレルル・イラ特戦型「オルラ」 リベロ航空少佐の無二の親友でもあるジュラス航空少佐も機体色は元の朱色から変更している。 |
なお、スクィール・バック・グンスラーの製作したバック特戦型(バック・ブラグゾ・ドゥ)は、砲熕職人のグンスラーらしく機体よりも搭載火砲に技術に注力され、特戦砲(ブラグゾ・ターク)と呼ばれる試作砲(11機すべてで形状が違う砲を積んだ)を搭載した機体であった。
航空機設計にそれほど長じていなかったバックは、機体に無理して搭載したものが多く、中には機体前後を貫くほど長い発動機軸内砲を持つ長槍(ラー・グニル)と呼ばれる機体もあった。
なお、バックは軍人となった四男ジュラスのためにこの機体をつくったが、ジュラスはイラ特戦型の赤(オルラ)を選んでいる。
諸元
Hi121 Geirolul ※Link of Life登場版 | |||||||
機体名 | Hi121(ヒルドルフ・クセル・ドゥ・ゾ・ヴィオ・ア・ゲイレルル) | ||||||
設計担当 | グェンドゥール工房設計(アク・パルセ・ゾ・グェンドゥール) | ||||||
生産工廠 | ゲイレルル大戦機工廠(ゲイレルル・ストル・シド・ミク・グルゼーグ・ハークテル) | ||||||
全長 | 32.8m | ||||||
全幅 | 34.9m | ||||||
全高 | 12.2m | ||||||
総員 | 2名 | ||||||
航宙性能 | 750km/sec | ||||||
反応炉 | キャパシタ型のため無搭載 | ||||||
稼動限界 | ブースト稼動(メテ・パライ・レストー使用時):20分 戦闘稼動:約8日 航行稼動:約16日 ※全て機内時間理論値 | ||||||
推進器 | 機力回転式空間剪断時斥力発生型収束流推進機 hrs422 (ウォーイル・リーブ・オル・ゾ・ヒルドルフ・ラーグ・スクィール・シド・アルセ・レストー・ドゥ・ゾ・シィオ・パストー・シィオ) |
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シールド |
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内部兵装 | 航空用兵装1(シィオ・シド・ターク) ブラストチューブ式高出力単射砲(ガル・ストレオ・ターク/アルセ・ピト・ターク) |
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外部装備 | 航空用兵装2(シィオ・シド・ターク) モーターカノン式低出力連射砲(ドウ・ウォーイル・スパリオ・ターク) 大型目標用兵装(バリセ・ターク) ブラストボム式誘導爆弾 |
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特殊兵器 | 衝角戦用特殊兵器回路(グン・グニル・ターク・ローゼ・ノルケル) ※封印されているため、常態では使用不可能。 |
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帝國語に よる表記 |
ヒルドルフ家
Hi121を設計、開発したのが上述のヒルドルフ・イラ・グェンドゥールである。
軍事帝國人の氏名は家姓(ミュニク・レゲエ)・名前(ボッツ・レゲエ)・始祖(フォルス・レゲエ)の順で表記されるので、我々の言語に直せば「始祖グェンドゥールを基とするヒルドルフ家、名はイラ」ということになる。
ヒルドルフ家第27代当主である。
血縁は、父親がヒルドルフ・ハル・グェンドゥール、母親はヒルドルフ・イーラン・ウェルカだが、イーランはイラの弟を生んだ後亡くなっている。
イラの弟は、軍事帝國建艦の功労者であり、後の総統暗殺未遂事件に関与されたと言われているヒルドルフ・ユス・グェンドゥール建艦少佐(軍事帝國戦列艦の項参照のこと)である。
イラ、ユス共に設計の名手で、イラの才は上述の通り航空機の設計に発揮された。
設計本部に入った20歳から死に至るまでの約100年にわたり、軍事帝國の航空機の製作に心血を注ぎ、The New Space Order Warでの軍事帝國の航空機の基本方針を決定付けるほどの影響力を残した。
赤~茶~黒色系髪色が多い軍事帝國民には珍しく金髪で、しかも緑眼である(弟のユスは金髪・碧眼)。これは彼の系譜であるグェンドゥールの特徴でもある。
生涯に2人の妻を持ち、17歳のときに結婚したスクィール・デッサ・グンスラー(スクィール・バック・グンスラーの従姉妹)との間に長女テスをもうけている。デッサとの死別後、しばらく妻帯することはなかったが、60歳(軍事帝國人の寿命は平均130歳程度)を過ぎて後妻となったデリージュ・テディス・エルメアとの間に、次女カロアと長男レイフの2人をもうけている。
しかし、長男レイフは16歳で附人(バッソ)として従軍中、U.G.S.F.との交戦で戦死、弟のユスは総統暗殺未遂事件の嫌疑をかけられ、それが元で帝國を離脱した結果、男系が絶えている。
さらに残る2人の娘のうち、長女テスは後に同じグェンドゥール系譜のザカリクに嫁ぎ、次女カロアは子をなさなかったため、ヒルドルフの家名は一時断絶している。
余談だが、長男レイフは軍事帝國名トーン・リベロ・ヴァークレグ捕虜少尉の附人であった。レイフの死を見届けた縁で、ヒルドルフ・イラ・グェンドゥールとリベロは知り合い、後にリベロが軍事帝國への帰属を承認した後、次女カロアはリベロの妻となっている。
なお、男系でのヒルドルフ家系は途絶えたが、ザカリクに嫁いだイラの長女テスがザカリク・バルギ・グェンドゥールを生み、さらにバルギの子で「イラの再来」といわれたバルトーがイラの死後、齢16歳でヒルドルフの名跡を継ぎ、ヒルドルフ・バルトー・グェンドゥールとして、航空機設計の名門ヒルドルフを継承、ヒルドルフ家は再興している。
そして、このバルトーの子であるヒルドルフ・バルフェス・グェンドゥールの代に軍事帝國での航空機設計は最盛期を迎えた。
バルフェスが設計した航空機は8機種、最も有名なものは、大戦末期に現れた軍事帝國版ソードスタイル、Hi145テ・インフ・ラッドと、その進化型であるHi152ファゾン・カラ・ユース、そして終戦間際に完成した帝國最強といわれた試製Hi255ヴァリ・ゲルマックの設計および開発をしている。
軍事帝國の航空機の特徴
軍事帝國の航空機は、U.G.S.F.の航宙機とは大きく異なる特徴を持っていた。その動力源がキャパシタ(バウボ・バーラ エネルギー備蓄槽のこと)だという点である。
これは、キャパシタの利点として、瞬間的な大出力発生すなわちエネルギー供給レスポンスが良いことが挙げられる。
反応炉型は最大出力確保の点で有利だが、エンジンやシールド、火砲への最大出力供給までに必ず供給遅延、すなわち”リアクション・ラグ”が発生してしまうのが欠点である。
U.G.S.F.でも航宙機は反応炉型を使っているが、このラグの解消のためエネルギー・ラインの中間にバッファ・キャパシタを挟むことで遅延を回避している。
結局、これが理由で出力と火力の向上といった「要求エネルギー量の増大」に比例して機体はどんどん大型化していき、The New Space Order War終戦間際では小型、高機動を売りにするソード・スタイルでも100mは優に超える機体が出現しており、航宙機母艦への搭載数減少や、要求エネルギー量の増大を回避するための高機能化を遠因とする稼働率低下に悩まされた。
Hi121ゲイレルルの整備風景 航空整備士の大きさと比較すると分かるが、U.G.の航宙機より小さいといえど、宇宙戦闘機なりの大きさがある。 |
ヒルドルフ・イラ・グェンドゥールは、このことを既に再軍備宣言当時(当時19歳)から予見していた。
イラは、所属していた博士院で「航空機概論(ゾ・シド・ミク・グルゼーガ・ガスト・パルセ)」を記しているが、この中で、総統の言う「外敵」が存在していたとして、同星雲の線対称位置、約25000光年に同戦力の敵がいたと仮定した場合、最低で約160年、最長で540年の長期戦になることを計算によって弾き出している。
さらに、この戦争に最適な航空機について触れ「動力源の項(パルパ・ム・ゾ・シカイ・レストー)」において、反応炉型は、初期の性能向上は著しいが、いずれ大型化が欠かせなくなり、この大型化による機動低下を食い止めるため、未完成かつ不安定な新技術を投入し、それが稼働率を落とし、さらに稼働率を上げるために信用性の高い部品を使うことでより高コストかつ大型化していく、という技術インフレスパイラル現象に陥ってしまうことを計算を以って証明しており、軍事帝國が宇宙で覇権を目指すならば、基礎技術的に安定しながら備蓄量においてなお今後の進展性の高いキャパシタ型で行くべき、と締めくくられている。
このことから、キャパシタ型の肝となるのは、
であり、要は軽い機体に、エネルギー備蓄量の大きいキャパシタを搭載することが重要である、としていた。 そうなると、発動機、火器、シールド発生器、管制システム、コクピットといった「キャパシタ以外」のスペースを少しでもキャパシタに回すためにあらゆる効率化が行われたのである。
上の構造配分を見る限りでは、機体のほとんどを エネルギー備蓄槽(バウボ・バーラ)と発動機(シド・アルセ・レストー)が占める |
この結果、キャパシタ以外のあらゆる機器が小型化ないし複数機能をまとめられる状態となった。
通常、兵器の考え方として、1つのユニットが複数の機能を兼ねるのはダメージコントロールの観点、それに連なる整備性の観点から良しとはされないが、キャパシタの搭載量が性能を決定づける理由から、積極的に行われた。
代表的なものは回転発動機(シド・アルセ・レストー)である。
この後の項で触れるが、これは設計、製作過程でいくつかの諸機能がまとめられ、キャパシタの搭載スペースを大きく稼ぎ出すことを可能にしている。
なお、Hi145テ・インフ・ラッドまで軍事帝國航空機は反応炉を積むことはなく、その間全ての航空機はキャパシタを使い続けた。
回転発動機(シド・アルセ・レストー)
ゲイレルルの機首・尾部に搭載されている回転発動機(シド・アルセ・レストー)が
「hrs422(ヒルドルフ・ラーグ・スクィール・シド・アルセ・レストー・ドゥ・シィオ・パストー・シィオ)」
である。型式名からわかるように、ヒルドルフ・イラ・グェンドゥール、ラーグ・フェル・グェンドゥール、スクィール・バック・グンスラーの三者共同設計作品である。
ゲイレルルの設計で最も難関であった部分でもある。
左側が第一発動機(リーファ・シド・アルセ・レストー)でHi121の機首部に搭載される 右側が第二発動機(ゼキ・シド・アルセ・レストー)で、尾部に搭載される |
先述の通り、回転発動機といっているが、このユニット中にいくつかの諸機能がまとめられている。大まかな機能だけでも以下の機能を有している。
実にこのユニット一つで推進器、エネルギーシールド、ブラストチューブ式エネルギー弾加速器と軸内砲、そして衝角兵器の機能を持つ。どれか一つの機能が故障しても他の機能に影響が出ないように、ハードは共有しているが内部の回路等は共有しない作りになっている。例として発動機軸内砲が故障しても発動機の旋回や推進機能は失われることはない。
また、多数の機能をこの1つにまとめるパワーパック化(ティン・シモ・ア・レストー)がされており、このパワーパックごと交換すれば、全機能が回復する作りになっており、稼働率の向上が図られている。
これをさらに出力を落として小型化、前後分割し、省スペース化と前後どちらかの回転発動機が破損ないし故障しても、残りの回転発動機があれば航空能力を失わないようになっている。
また回転発動機は、防御機能として三元防御幕発生器(後述)を持ちながら、それ自体が装甲よりも高強度な剛体であり、機体のフレームの一部を担うことで軽量化に寄与しつつ、ドッグファイト時にもっとも多い前後方向からの被弾には回転発動機が弾を受け止めることで航空士の生残率の向上を図っている。(そのかわり横方向は弱い)
機力回転式空間流推進器(ウォーイル・フェリ・オル・レストー)
ゲイレルルの推進を担うのが、機力回転式空間流推進器(ウォーイル・フェリ・オル・レストー)である。
構造的にはエンジン状の回転発動機(ウォーイル・レストー)と、プロペラー状の空間流推進器(フェリ・オル・レストー)からなる。
推進法は軍事帝國が「ウォーイル・リーブ・オル」と称する方式である。我々の言葉直すと「機力回転式空間剪断時斥力発生型収束流推進法」という長い名称となる。
陣形散開し、格闘戦へ移行中 第1248飛行戦闘集団小隊長 スクィール・ジュラス・グンスラー航空少佐機 後方カメラより撮影 |
動作原理的には、外観上の特徴でもあるプロペラー状のものから想像される推進法というよりも、光ロケット推進や、U.G.S.F.での旧世代型ドラグーンが使用していたパサード・ラム・ジェットの亜流といった方が近く、光や水素の代わりにディアスタシオン(空間粒子)を使うのが特徴である。
機構的には、ディアスタシオン技術の応用であるDフィールド発生極を回転翼(空間流推進器)に設け、この翼上にDフィールドを発生させ、発動機の機力で回転させている。
空間反発力であるDフィールドは、その発生方向に対して逆方向に力を与えると、乗数的に空間反発力が向上する特性を持つため、機力回転によって空間を剪断すると、これに対抗する強力な反発力を発生するわけである。
これをさらに回転翼先端方向に「流」す。回転翼先端は狭まっており、流された空間は先端に行くに連れ収束し、最終的には先端から空間ジェットともいえる強力な力を発生する。これを推進力に用いているのである。
機力回転式空間流推進器の前後計8翔の推進器は全て中折れ式になっており、上述の推進原理を利用して、速度の調整は、中折れ角とピッチ角の変更で行う。下図のとおり、中折れ角が最大のとき最も速度が高い状態となる。
巡航時(=中折れ角最小) 空間剪断量が大きいので、推進変換効率は 高いが、空間流加速が低く、速度が出ない。 |
最大速力時(=中折れ角最大) 空間剪断量が少ないが、根元から先端まで 空間流加速が可能なため、高速力がのぞめる。 |
減速時はこの機能を逆利用する。
中折れ角を最大展開にし、ピッチ角も最大、さらに回転発動機の回転を停止させて「空間ブレーキ機能(シド・ユフレーフ・レストー)」とする。この際、空間流推進器が「空間によって回される」状態となるため、これを利用して回転発動機からエネルギーを回生させてエネルギー備蓄槽に戻し、省エネルギー化している。
なお、さらなる急減速もしくは後退の場合は、ピッチ角をマイナス角にした上で、空間流推進器を機力回転させて制動をかけるが、こちらはエネルギー消費が激しいので、あまり使われることは無かった。
そもそもが超演算、超視覚をもつ軍事帝國の航空士は、視認速度と予測演算こそ技量の命脈であり、急減速もしくは後退といった操縦が必要になること自体「猪突航空士(ゲハフ・デフ・シド・スクィーラ)」といわれ、物笑いの種になることが多かった。
また、LoLでも再現されているが、真空中でありながら、音(次元振動音)が発生するのも特徴である。
通常、宇宙空間では真空中では振動伝達媒体が存在しないため、音が聞こえることはないが、ディアスタシオン利用型の推進器は、上述の通り、次元を構成するディアスタシオン粒子に直接力を加える使い方が多く、この粒子を振動伝達媒体として、真空中でも音が聞こえる。
※正しくは、次元振動が直接鼓膜や脳、皮膚を振動させて「音」としての感覚を結ぶ。超能力者の場合では、この振動を音ではなく直接感知する場合が多い(超聴力だけでなく超視覚などもこれに類する)。したがって、音波等の現象面では観測できない。
ゲイレルルの場合、回転発動機内の反発極(ラカ)から発生する断続音と、回転翼がDフィールドを発生させる際に低音を発するため、これらの音が重なる結果、LoLで再現されたような低周波的な次元振動音を発生させている。
余談だが、U.G.S.F.のジオキャリバー2の場合、推進器であるDFD(ディアスタシオン・フィールド・ドライブ)のプロパルジョン・フィンを高周波で切り替えているため、独特の高周波次元振動音が鳴るのが特徴である。
また、この空間反発力を応用したのが、この後につづく三元防御幕展開器(オリ・サート・レストー)である。
三元防御幕展開器(オリ・サート・レストー)
前述の通り、ゲイレルルは前後8翔の回転翼によって推進するが、この際発生する空間反発力の反発方向を外向きにすることで、敵の攻撃を受け流すエネルギーシールドとしている。
これにエネルギー幕、中和幕、空間粒子幕の3種を混合して、敵の攻撃を防御している。
これがゲイレルルの防御を担う機能、三元防御幕展開器(オリ・サート・レストー)である。
ジオキャリバー2の攻撃を弾くゲイレルル |
三元防御幕は前後各回転翼より展開され、前4枚、後ろ4枚の計8枚の防御幕が展開できるようになっている。
ただ、前方にそのまま傘状に展開してしまうと、攻撃ができなくなってしまうため、4翔のデバイス間にはおのおの隙間が開いており、このデバイスの回転速度と、モーターカノン、ブラストボムの射撃タイミングを同調させることで、シールドの隙間から攻撃を行うことが可能となっている。
またゲイレルルは、低速時は回転翼を展開し、高速時は回転翼を絞るため、低速時は広範囲を防ぐ防御幕となるが、高速時は狭い範囲に限られるという欠点を持つ。この速度と防御範囲のトレードオフと、状況最適な状態にする予測計算能力が航空士の技量となっている。
なお、先述の回転発動機と機力回転式空間流推進器、そしてこの三元防御幕展開器の3つを組み合わせた攻撃発動回路がこの後に続く衝角戦用特殊兵器回路(グン・グニル・ターク・ローゼ・ノルケル)となる。
衝角戦用特殊兵器回路(グン・グニル・ターク・ローゼ・ノルケル)
ゲイレルルの必殺兵器がグン・グニル・タークである。
正しくは「兵器(ターク)」ではなく、諸機能をオーバードライブさせるための「発動回路(ローゼ・ノルケル)」である。
回路そのものはHi121の一部の機体にも搭載されているが、総統令によって封印された隠し機能となっているため、表向きはHi120ゲイル・スケグルでしか使用が出来ないこととなっている。
「衝角戦用」の名が示すとおり、射撃兵器ではなく、体当たり用の兵器である。この回路は以下の効果を出すことを目的としている。
つまり回転発動機、機力回転式空間流推進器、三元防御幕展開器の3種をオーバードライブさせ、一時的に凄まじい推進力と強固なシールドに守られた「槍」として、敵艦に突撃する兵器である。稼働時間は3分。この間に敵機ないし敵艦へと突撃を行う。
設計10番を使った無人機のテストでは、三元防御幕18枚(U.G.S.F.でいうならば20レイヤー程度に相当)を貫通し、その攻撃力が確かなことを証明した。この攻撃力はU.G.S.F.の航宙機なら一部を除き一撃、戦艦クラスでもシールドレイヤーの一番薄いところを狙えれば、それなりの損害を与えることの出来る兵器であった。
グングニル・ターク・ローゼ・ノルケル発動時の写真 大戦機色を用いていることからHi102と思われる (※後のレクレト・ガド・パローク機「マルフ」) 翼の備蓄槽を切り離した瞬間をとらえたと思われる |
ただ、この兵器には1つの欠点があった。
キャパシタ式の限界でもあるわけだが、「一度使うとエネルギー切れを起こし戦闘不能となる」ことであり、これが封印機能となった最たる理由であった。
航空機の迅速な開発を命じた総統令第102号には以下の一文が添えられている。
「決戦にふさわしい攻撃力を持つ航空機、しかれども同等の生残性を確保すべし」
これが、後任人員の選択の混乱の際、前半部分の「決戦にふさわしい攻撃力を持つ航空機」が強調されたままヒルドルフ・イラ・グェンドゥールに通達され、その結果完成したのがHi120ゲイル・スケグルであった。
しかし、通達の事情が何であれ、総統にとって総統令の曲解は我慢しがたく、再度総統令第111号(オーラ・ガル・セリック・アギネス・ゾ・ファー・クルト)が発令され、Hi120ゲイル・スケグルは開発中止、再設計が指示された。
結局、兵器設計本部での検討の結果、もう一つの総統令「再軍備」を満たすためには、再設計は不可能と判断、先任設計・開発者であるラーグ・フェル・グェンドゥールが責任をとる形(イラが責任をとると、事実上グェンドゥールの系譜が途絶えるため、老齢のフェルが全責任をかぶる形で解決した)で早々に処分を決定すると、すぐにHi120ゲイル・スケグルに搭載されていた衝角戦用特殊兵器回路に封印を施しただけのHi121を再設計機体として生産を開始している。
(第12次生産分までの1428機までが暗号化封印で対応。以降、第13次生産分からは回路そのものが除去された)
なお、この封印はヒルドルフ・イラ・グェンドゥール自らが組んだ強力な暗号化によって使用不可能とされており、整備書その他にも一切その機能は明記されなかったが、機体の構造を知る上級航空整備士の間では公然の秘密であり、一部の航空整備士にはこの暗号を解除した者もいた。航空士にはこの事実は知らされることはなかったが、まれに航空整備士から飛行隊長にのみ封印解除方法が知らされることがあったようで、戦果が出せぬ時に自身を処する際や、時には挺身といった理由で用いていた例が見られた。
搭載火器
Hi120、Hi121の兵装であり、後の軍事帝國の航空機兵器の基本となったのが、航空用兵装(シィオ・シド・ターク)と、大型目標用兵装(バリセ・ターク)である。
モーターカノン式低出力連射砲 (ドウ・ウォーイル・スパリオ・ターク) |
航空兵装(シィオ・シド・ターク)は、Hi120、Hi121の機体を作る前から設計されており、初期設計はラーグ・フェル・グェンドゥールが行った。
後に砲熕工房であるスクィール・バック・グンスラーに設計を移管した。この際、キャパシタの搭載スペースを増やすため、フェルの設計した内装式から交換可能な吊り下げ式に設計の一部が変更されている。
これは、その名の通り2種(シィオ)の航空兵装(シド・ターク)から成り立つ。
すなわち
である。
使い方としては、低出力連射砲によって敵にダメージを与え、敵機が機動予測が可能になるレベルまで機動力が落ちると、強力な単射砲で仕留めるという形で、エネルギー消耗を抑えるつくりとなっている。もちろん、優れた計算能力をもち機動予測能力の高い航空士は、弱らせることも無く、これを同時斉射して撃墜することも可能であった。
なお、このうちモーターカノン式低出力連射砲は半内装式となっており、他兵器への交換が可能となっている。特に撃破目標が対艦・対施設といった大型のものであった場合、攻撃だけでキャパシタのエネルギーを使いきってしまうことから、別途ブラストボム式の誘導爆弾(バリセ・ターク)を搭載が可能となっている。
対艦攻撃兵装のゲイレルル。機体中央部下に吊り下げられているのが ブラストボム式誘導爆弾「バリセ・ターク」である。翼部備蓄槽下に吊り下げられているのは増槽である。 |
パイロット説明
軍事帝國の航空機パイロットは、パイロットにあたる者が「第一航空士(リーファ・シド・スクィーラ)」、ナビゲータにあたるものが「第二航路士(ゼキ・シド・スクィーラ)」と呼ばれる。
第一(リーファ)、第二(ゼキ)の区別をしているのは階級や上位関係を示すものではなく、操縦席、航法席の区別である。ゲイレルルは、緊急時に航路士と航空士が入れ替わる場合があるので、その場合、通信などでは「第一航路士」「第二航空士」と呼び、誤認を避けるようにしている。
複座型であるHi121ゲイレルルは、総軍規則上は前席に位置するパイロットを航空士、後席に位置するナビゲータを航路士と呼称するよう規定しているが、事実上2人で対を成すことから、現場では特に分類されず、共に航空士と呼ばれることが多かった。
搭乗資格は、帝國身分における第二級、第準一級、第一級帝國民の階層まで、超能力のレベルが超視覚(ウル)で第24級(ゾ・ア・ガウ・ダーラ)、超演算(ギューフ)で第32級(ゾ・シィオ・ゾプ・ダーラ)以上の超能力(ドークト)を有する者、性別は不問、年齢は徴兵年齢である16歳以上、となっている。
階級は初等航空士(練習生のこと シド・セラト・ヒアド)を経て、軍務は二等航空士(シィオ・ダール・シド・スクィール・ヒアド)から始まり、一等航空士(ア・ダール・シド・スクィール・ヒアド)、航空士長(ゾプ・ダール・シド・スクィール・ヒアド)、と続き、准(エルテ)、少(シィオ)、中(ア)、大(ゾプ)に各々航空尉官(アファル・シド・スクィール・ヒアド)および航空佐官(マイロ・シド・スクィール・ヒアド)がつく階級となっている。
なお階級は航空大佐(ゾプ・マイロ・シド・スクィール・ヒアド)までで、それより上の階級は存在しない。
またこの際、各帝國身分階層ごとになれる階級は異なる。
すでにいくつかの項で触れられている通り、航空士に求められる能力は、軍事帝國国民であれば誰でも有している超演算(ギューフ)と超視角(ウル)の2種類の超能力である。
艦艇士官と同様の能力を要求されているが、航空士のそれは質的に異なり、艦艇士官が複雑な計算をこなすことが技量というならば、航空士は単純だが連複して素早い計算を行えることが重視された。
その一方で、超視覚は、敵認識という観点から艦艇士官と同様のものが求められた。
というのも、Hi121のみならず軍事帝國航空機全般(Hi145テ・インフ・ラッド以降を除く)に言えることだが、航空士における技量は、キャパシタ型航空機だけが持つ特性、すなわちエネルギー切れに対応すべく、あらゆる行動を効率化させることにあるからであった。
具体的には、巡航速度と戦闘速度の最適配分計算、緊急時に使用するブースト機能(メテ・パライ・レストー)の使用時間の計算、三元防御幕展開器(オリ・サート・レストー)の速度と防御範囲のトレードオフとその計算、を常時おこなっており、さらに飛行隊長ともなると、所属全機の状況をある程度把握している必要もあり、最適な状態にするために尋常ならざる超演算能力(軍事帝國の超能力)が求められた。
また、航空戦においては、敵機動の先読みはすべからく航路士によって行われる。
Hi121は、U.G.S.F.のジオキャリバー2に対し最大速度で劣るが、操縦に対する反応速度の速さと、それによるドッグファイトで優位に立っていたが、この優位面を最大限に引き出すためには、どうしても敵行動の先読みを行い、敵機動より先んじて必中弾を当てる必要がある(そうでないと、最高速で振り切られる)ので、航路士の超演算は、その技量が航空戦の優位を決定付ける重要な能力であった。
航空士、航路士の両者の情報のやり取りは、まず航空士の超視覚による敵機の認識情報をヘルメット(タルケン・ログラム・エンディ もしくは タルケン・ログラメンディ)を通し、ディアスタシオン粒子動通信で航路士の座標投影台(シド・サイユ・トゥワク)に送信し、超視覚の超能力エネルギーをそのまま直接波形画像として表示させ(ディアスタシオン粒子動通信は、生体媒介顕現型ディアスタシオン粒子干渉波、すなわち最も原始的な超能力の直接送受信法である。U.G.に先行すること約300年、軍事帝國は既にこの技術を確立している。後年、この技術は兵器概念を変えるが、総統も軍事帝國もその重要性を予見ないし理解していない)、そこから航路士はそれを見て移動方向の予測を行い、演算結果を入力、その予測結果は航空士の照準器に投影され、それを見て航空士が操縦する。
また、銃後に女性を多く配する軍事帝國には珍しく、飛行隊は男女比がやや男性が多いだけでそれほど大差はなかった。特に女性の場合、多くは複座型の後席担当となることが多かった。
これは、後席担当が敵認識後の行動予測演算が主任務であり、それに必要な超演算の超能力を備えているのが女性の割合が多かったからである。
軍事帝國民の特徴として、その高すぎる超能力のレベルと、目的に対する最適手段の選択、すなわち行き過ぎた効率志向があいまって、ときに戦闘状態にあって演算に没入しすぎた結果、一種のマシーン状態にまで精神が高まってしまう場合が多く、複座におけるこの状態でも、機械を介しているが同じ目的に対する共同作業が一種の精神シンクロ状態にまで高めてしまう結果となり、往々にして我を失った一つの「部品」という状態になってしまうことが多かった。 この一読すると我々には不可解な現象は、E.S.P.を常用する国家ならではの危険性である。 具体的に、乱戦・多目標捕捉・高ランクパイロットとの戦闘といった予測情報が増大する「E.S.P.高レベル行使戦闘」に入った場合、「高いE.S.P.能力の発揮には、深い精神没入度が必要であり、それは行き過ぎれば精神死の危険性をはらむ」といったE.S.P.使用での最大の問題が顕在化するのである。 事実、情報高密度戦に入った場合の軍事帝國人の精神崩壊率はU.G.に比べればはるかに高かった。
なお、軍事帝國の電子技術はU.G.に劣らないが、精密な電子機器は、ECMや妨害により使用不能になる場合があるため、極力用いられず、むしろ超演算を用いた人間能力を優先し、それの補助や演算力の不足の場合だけ、これら電子機器を用いることが多かった。
その考えはまるまる航空機にも当てはめられ、通常の各種計算は航空士・航路士によって行われ、戦傷等で能力が発揮できない場合の緊急システムとして演算機が用意されている。