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地域差浮き彫り、医療局スケジュール堅持

2009年01月25日

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紫波地域の医療と福祉を守る連絡会の及川剛代表が、計画撤回を求める要請書を田村均次医療局長に手渡した=19日、紫波町のナックスホール

地域診療センターなどの無床化を盛り込んだ県立病院の新しい経営計画案は、住民の理解を得られないまま6会場の説明を終え、各地域ごとの懇談会に話し合いの場を移した。これまでに浮き彫りになったのは、医療体制をめぐる地域差。開業医らが連携してセンターを支えようとする動きも出る中、県は4月からの計画実施にこだわる姿勢を崩さず、住民側にはせっかくの提案が十分に検討されないまま「時間切れ」とされる懸念が広がる。

「県民が平等に医療を受ける権利を奪うのか」「公的医療が赤字になるのは当たり前だ」。満席の会場から次々と手が挙がり、計画案への反対論が噴きだした。
 今月9〜19日、地域診療センターと県立沼宮内病院の地元6市町村で行われた一連の住民説明会。昨年11月の計画案公表以来、住民から県医療局に直接意思表示できる初めての機会だ。
 患者数の減少、医師不足、収益悪化を「トリプルパンチ」と表現し、県立病院を取り巻く環境の厳しさを強調する医療局。しかし、住民らは県の「有無を言わせない強引な進め方」に反発。あくまで無床化撤回の原則論で応じ、議論がかみ合うことはなかった。達増拓也知事も結局どの会場にも姿を見せず、住民を失望させた。
     ◇
 計画案の公表から2カ月。地域によっては、診療所を自らの手で支えようとする動きも出始めた。一関市花泉町では、一部の住民がセンターに来てもらえる民間医師を捜している。岩手町では、開業医らが当直を肩代わりする考えを表明。紫波町ではセンターの外来を廃して入院専門の医療機関とし、地元医師会が交代で夜間当直や休日の診療を担う形を提案をした。
 紫波郡医師会の渡辺立夫副会長は「民間の医院が複数あり、外来の需要をおおむね賄える紫波地域では、むしろ入院施設が必要だ。センターが無床化されれば存在意味がなくなる」といい、医師会で協力を申し出た。
 田村均次医療局長は「詳しい提案を聞きたい」としながらも、「計画の2月策定、4月実施」のスケジュールは変えない方針だ。県が日程を改めない限り、医師からの提案も検討する時間はほとんどない。住民は「医療局は意見を聞いて反映する気があるのか」と不信感を募らせている。
 一方で民間の医療機関のない花巻市大迫町や九戸村、少ない住田町では、医療局に対案を示すことも難しい。交通条件なども悪く、状況の異なる施設を一律に同じ計画で無床化することにも問題がある。
 県保健福祉部の六本木義光・公的医療改革担当技監も20日の県議会環境福祉委員会で「各センターの役割や状況が地域ごとにかなり違う」と述べた。
     ◇
 「医療局は、行政というより病院事業の管理者の立場だった」。紫波町での説明会で田村医療局長は、強い反発の原因が住民不在の医療行政にあったことを認めた。今後は6市町村ごとに設けた「地域診療センター等懇談会」が話し合いの場になる。
 県は昨年11月、医師不足の深刻化を受け、医療の供給体制の縮小を進める一方、県民にも医療の担い手として節度ある受診を求め、「県民みんなで支える岩手の地域医療推進会議」を発足させた。
 紫波地域の医療と福祉を守る連絡会の及川剛代表は、医師不足は医療制度改革など国の政策ミスにあったとして、「国の体制を改めさせるということであれば、県民と県は一緒になって運動できる」と言う。
 紫波町の説明会で、渡辺副会長の提案を受けて住民から「4月実施を撤回し、皆でよりよい方向性を追求するのが医療局の仕事ではないか」と意見が出たときには、この日最大の拍手が沸いた。
 計画案の11月公表は、やはり遅すぎる。県のスケジュールが、本来協力すべき行政と住民側の対立を招くのは、住民にとっても現場の医師にとっても不幸だ。
 「4月に無床化に踏み切れば、(みんなで支える医療を模索する)今の動きも消えてしまうのではないか。医療局の計画案をたたき台に、時間をかけて検討するべきだ」(高橋博之県議)。

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