◇「やむを得ぬ」北大、事実上黙認
ホームレスにとって最もつらい厳寒期。札幌市では地下街や駅施設が昼間の「寝床」として利用されているが、雇用情勢が悪化する中、北海道大の学生用施設「クラーク会館」で寒さをしのぐ人も現れた。大学側は「これまで特にトラブルや運営に支障をきたすようなことはなく、やむを得ない」と事実上黙認。支援団体からは、国や自治体に冬季用宿泊設備の整備を求める声があがっている。【吉井理記】
1月、札幌の名所として観光客も訪れるクラーク会館は、期末試験や就職活動の情報交換などで語り合う学生たちの熱気に包まれる。そんな喧騒(けんそう)に耐えるように、ロビーの片隅で長いすに座ったまま寝息を立てる数人の男性。寒さから逃れてきたホームレスの人たちだ。
会館は平日は午前8時半から午後9時まで開放される。昨秋以降、ロビーで過ごすホームレスが増え、多い時は10人近くになる。
最近、関東地方から札幌市に来た道内出身の男性は元建設作業員。会社倒産後、消費者金融の借金がかさんで夜逃げ同然にホームレスになった。土木作業などのアルバイトで生計を立てるが、景気が悪化した秋以降、仕事が減り「貯金ができず食べるので精いっぱい」。
昼は会館で眠り、会館や地下街が閉鎖される夜間は凍死しないように繁華街やアーケードを歩き続ける。「大学は迷惑だろうが落ち着ける。寝ないと体がもたず、仕事ができない」と訴える。
札幌市が確認している市内のホームレスは109人。夜間の避難先になっていたJR札幌駅前の札幌駅バスターミナルは昨年6月から立ち入りが事実上禁止され、深夜営業のファストフード店には「居眠り禁止」の張り紙を出す店もある。
その一方で、市が運営する4カ所の無料宿泊施設の収容数は12人だけ。ホームレス自立支援法に基づく市の事業費は05年度以降減り続け、昨年は約1100万円だった。ホームレス支援団体「なんもさサポート」(札幌市北区)の中塚忠康代表は「自治体の施策には限界がある。こんな時代だからこそ、国が音頭を取って経済的困窮者を支援しなければならない」と指摘する。
夜間の安眠先が減った分、落ち着いて眠れる昼間の「寝床」を求めるホームレスが増えているようだ。会館を管理する北大の職員は「当面は静観する。不況、解雇……。『明日は我が身』という気持ちもある」とつぶやいた。
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