◎医療通訳者の養成 安心のインフラを育てたい
石川県国際交流協会が、ボランティアの医療通訳者の養成をめざし来月、二回にわたっ
て研修会を開催する。在住外国人や外国人観光客の増加に伴い、医師と外国人患者の間に立つ医療通訳の必要性が高まっているにもかかわらず、医療通訳に関する国の制度はなく、通訳者の育成も派遣システムの整備も全国的に遅れているのが実情である。
県は外国人観光客を現在の約三倍の年間五十万人に増やす計画であり、観光インフラの
一層の整備が必要になっているが、医療通訳者を地域に確保しておくことも忘れてはならない課題である。地域での外国人の暮らし、旅の安全・安心を支える、いわばソフト・インフラとして医療通訳者の養成と派遣の仕組みづくりに本腰を入れてもらいたい。
県内の外国人登録者は既に一万人を超えている。県が一昨年行った在住外国人のアンケ
ートでは、病気やけがをした時の悩み、要望で最も多かったのは「医師とのコミュニケーションがとれない」と「病院での通訳」である。実際、県国際交流協会には外国人、病院の双方から通訳サービスを求める声が多く寄せられている。
医療現場での通訳は現在、県国際交流員が行っている。しかし人数が少ない上、学校訪
問や翻訳など通常業務の合間を縫っての対応のため限界があるという。
国際交流協会によると、医療通訳は外国語の能力よりも「助けてあげよう」という意欲
の方がより大事であり、研修会では医療保険制度や医療の基礎的な用語を身に付けてもらい、人体の絵型なども使って通訳する方法を指導する。既に通訳ボランティアとして同協会に登録している人たちや医療関係者らの積極的な参加が望まれる。日本語が上達した在住外国人も可能であろう。
言葉が通じない外国で病気になった時の心細さは、経験したことがなくても、容易に想
像できる。困窮する外国人患者を意欲的に助けようという人が増えれば、そこから新しい交流が生まれ、ふるさとの優しさを感じてもらえるようにもなるはずだ。県民の努力分野と受け止めて協力したい。
◎米の北朝鮮政策 気になる拉致の温度差
クリントン米国務長官は、中曽根弘文外相との初めての電話会談で、北朝鮮の拉致問題
について、「重要性を理解している。被害者家族や日本国民に同情、強い思いを持っている」と述べた。ブッシュ政権末期には、功を焦って北朝鮮へのテロ支援国家指定解除に踏み切り、日本側に失望が広がっていた。クリントン国務長官の言葉に多少救われた思いもするが、民主党政権の誕生で、拉致問題への対応は具体的にどう変わるのか、ブッシュ政権との温度差が気になる。
昨年秋以降、健康悪化が伝えられていた金正日総書記は、平壌を訪問した中国共産党幹
部と会談し、回復ぶりをアピールした。中国からの報道だけでは、健康状態は判断し難いが、北朝鮮首脳が対話重視のオバマ政権をくみしやすいと踏んでいるのは間違いない。
北朝鮮はブッシュ前大統領の退任直前に、米国が敵対政策をやめ、国交を正常化しない
限り、核兵器保有を断念することはないと公表した。オバマ政権の対応次第で、北朝鮮は瀬戸際外交をさらに強め、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す設備を再稼動させる可能性がある。また、ミサイルを発射するなどして、緊張を高めようとするかもしれない。
最悪のシナリオは、オバマ政権がブッシュ政権末期の融和路線を継承するケースである
。その場合、拉致問題が交渉のテーブルに載る可能性は低くなり、棚上げされかねない。北朝鮮に妥協を重ね、たとえ核施設の無能力化や核拡散防止にこぎつけたとしても、開発された核兵器の存在がうやむやにされ、北朝鮮が「核兵器保有国」として事実上認知される事態を招くことも考えられる。
日本としては、オバマ政権が融和路線を見直し、対北朝鮮政策を再構築するよう、粘り
強く要求していくしかない。「対話と圧力」路線への理解を得て、北朝鮮に対してテロ支援国家の再指定を辞さぬ強い態度で臨むよう説得してほしい。日米韓が一枚岩で六カ国協議に臨まなければ、拉致問題や核拡散防止の根本的な解決にはつながらないだろう。