
食品にガンマ線、エックス線、電子線などの電離放射線をあて、殺菌、殺虫、発芽抑制などを行う物理的処理技術を食品照射(Food Irradiation)といい、この目的で処理された食品を照射食品(Irradiated Foods)と呼びます。
Codex規格(国際食品規格委員会)では、食品照射に利用できる放射線源を、コバルト60およびセシウム137から発生するガンマ線、エックス線(5MeV未満)および電子線(10MeV未満)に限定しています。これらの放射線を、適正な量だけ照射された食品には、放射線のエネルギーが残留せず、食品が有意なレベルの放射能を帯びることはないとされています。
世界保健機関(WHO)をはじめとする国際機関や、EU、米国、カナダなどの多くの政府機関では、照射した食品の動物投与実験を含む多くの毒性学的研究の結果や、食品の照射による化学的および栄養学的な実験結果を科学的に評価し、照射食品は安全で、食品としての適性を備えていると結論しています。
食品照射技術には次のような特徴があります。
放射線は食品の中を透過するので、食品を均一に処理することが可能であり、効果の信頼性が高い。
放射線照射による温度上昇はわずかで、生鮮物や冷凍品の処理にも利用できる。
物理的処理であり、殺菌や殺虫に薬剤を使う化学的処理に比べ、薬剤による汚染や残留の問題がない。
包装後の食品を処理することが可能で、照射した食品の微生物や害虫による再汚染を防ぐことができる。
ただし、いったん照射された食品でも、包装を開封し適切な管理を怠れば、微生物や害虫の汚染を受けますので、照射食品であっても、食品としての適正な取り扱いが必要です。
日本では、1967年から、バレイショ、玉ネギ、米、小麦、ウインナーソーセージ、水産練り製品、ミカンの7品目について、照射効果や安全性、健全性についての総合的な研究が実施されました。その結果、これらの照射食品についての安全性(健全性)には問題がなく、放射線照射によって貯蔵期間の延長や品質保持が可能であるとの結論が出されました。
1972年には、バレイショの芽止めのためのガンマ線照射が許可され、1974年1月から、北海道の士幌町農業協同組合のアイソトープ照射センターにて、バレイショの実用照射が始まりました。
|
FAO/IAEA(国際原子力機関)の2006年1月のリストによると、世界の食品照射許可国は57カ国に上り、許可品目は球根、新鮮果物・野菜、穀類、豆類、乾燥果物・野菜、魚介類、生の家禽肉・畜肉、香辛料、ハチミツ、宇宙食など、さまざまな食品です。また、世界各国の食品照射施設として、43カ国、105の施設(2007年7月のリストより)が登録されています。
世界的にみて最も実用化が進んでいる食品は、香辛料や乾燥野菜類です。これは、放射線が香辛料類特有の香りや色といった品質に影響を与えず、カビや耐熱性芽胞菌などの微生物を殺滅するのに適しているためです。
フランス、ベルギー、オランダなどのEU諸国をはじめ、米国、カナダ、韓国、中国、インドネシア、インド、メキシコ、ブラジル、南アフリカなど多くの国で、香辛料や乾燥野菜類の照射が実施されています。
米国内ではサルモネラや病原性大腸菌O157:H7などの食中毒対策として、肉類の照射が許可・実施されています。
最近海外で注目されている食品照射の用途として、殺虫や検疫処理に利用されている臭化メチルくん蒸の代替技術としての利用が挙げられます。臭化メチルは、オゾン層を破壊する恐れがあるとして、国際的にその使用の削減が進められています。
放射線照射技術は、果実や野菜類の植物検疫措置としての有効性が認められ、国際基準(国際植物防疫条約)にも取り上げられています。
|
|