中国が2008年の国防白書を発表した。改革開放政策が始まった1978年から30年間の国防予算の推移をまとめている。急激な増加にあらためて目を見張らざるを得ない。
最初の10年間は平均3・5%の伸びだった。だが次の10年は平均14・5%、その次の10年は平均15・9%と連続2ケタの伸びを続けた。08年は4177億元(約5兆8490億円)で、最近では日本の防衛費総額を上回る額である。
欧米の軍事専門家によれば、これ以外に宇宙開発や対外援助など別の費目に分散した軍事関係予算があり、実質は2倍とも3倍ともいわれている。
なぜこれほどのペースで軍備拡張を続けるのか。「中国は、現在も将来も、国家がどれほど発展しても、永遠に覇権を唱えず軍拡しない」と白書は書くが、合理的な説明にはなっていない。周辺国に脅威を感じるなといっても無理だ。
かつては軍人の待遇改善に伴う人件費増と説明してきた。だがこの数年の伸びは軍事戦略の転換に伴う質的変化と見るべきだろう。
白書には、海軍の遠洋作戦能力、宇宙空間における対応能力などの記述がある。それを裏付けるように、中国当局は航空母艦の建造を検討していると認めた。有人宇宙船を打ち上げたほかに、軌道上の衛星を攻撃するミサイル技術を確立した。ミサイルの誘導に欠かせない中国独自の測位衛星も打ち上げを続けている。ここに中国軍の目指す方向が透けて見える。
領土、領海、領空の防衛から、地球規模に広がった中国の国益の防衛への転換である。白書ではないが、軍機関紙では「領土線防衛」に代わる「国益線防衛」の議論が出ている。もしこれが軍拡の目的なら、覇権主義とどう違っているのか。白書は、そこを明らかにしていない。
中国はいまや世界第3位の経済力を備える大国となった。その成長を支える石油、天然ガスは長大なパイプラインで中央アジアやミャンマー、ロシアから引き込んでいる。
アフリカ、中東の油田開発に参加し、原油を積んだタンカーがインド洋を列をなして動いている。南シナ海、東シナ海では海底資源開発を目指している。
中国の経済権益が地球規模で広がった。ソマリア沖に中国海軍が最新鋭のミサイル駆逐艦を派遣したのも、短期的な海賊対策だけではなく、海軍がアフリカ沖までシーレーン防衛を担う能力を持とうとしているのだ。
だが、経済成長が急速に鈍化した今年、軍拡はどのような影響をうけるだろうか。これまでの中国なら経済建設に予算を集中させただろう。だが一度動き出した軍拡を急に減速することは難しい。政府と軍部の力関係に変化が起きるかにも注目したい。
毎日新聞 2009年1月26日 東京朝刊