社説

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

社説:オバマ外交 「公平さ」が不信解消のカギだ

 米国の新政権が活発に動き始めた。オバマ大統領は就任から2日後に、ブッシュ前政権の「負の遺産」ともいえるグアンタナモ収容所の1年以内の閉鎖を命じた。クリントン国務長官のもとで中東とアフガニスタンを担当する2人の特使(代表)も決まった。

 まずは素早い対応を評価したい。閉鎖される収容所はキューバ・グアンタナモ米海軍基地にあり、拷問や長期拘束などが問題になっていた。オバマ大統領の決断は、中央情報局(CIA)の秘密収容所の閉鎖や「水責め」の拷問禁止と並んで米国の暗いイメージの一掃に役立つだろう。

 グアンタナモには現在240人余りが拘束されている。01年10月からのアフガン攻撃などで米軍に拘束された者たちだ。彼らは国際条約に基づく「捕虜」とはみなされないまま「敵の戦闘員」などのあいまいな名前で呼ばれてきたが、06年6月の米連邦最高裁の判断が大きな転機となった。

 グアンタナモ基地内の軍事法廷は、戦時捕虜の保護などを定めたジュネーブ条約に違反しているというのだ。それでもブッシュ政権は閉鎖に踏み切ることができず、グアンタナモは「法のブラックホール」とか「イスラム軽視の象徴」と言われ続けた。

 設置から7年になる収容所の完全閉鎖は、口で言うほど簡単ではなかろう。だが、イスラム世界との「互いの利益と敬意」を重視するオバマ政権としては、ブッシュ政権の対テロ戦争の「お荷物」を清算するのが信頼回復の早道だ。

 中東特使には北アイルランド紛争の和平合意に努めたミッチェル元民主党上院議員、アフガン・パキスタン担当特別代表にはボスニア・ヘルツェゴビナ内戦の仲介をしたホルブルック元国連大使が任命された。2人ともクリントン政権時に活躍した人物だ。

 任命についてオバマ大統領は、問題解決への「米国の真剣さ」を強調した。その意欲は買うが、75歳のミッチェル氏には高齢不安もつきまとう。果たしてイスラエルが特使の仲介を尊重するかという別の懸念もある。近年、イスラエルは米大統領との直接交渉でしか動かない傾向がある。

 オバマ大統領はパレスチナ側の被害に配慮しつつ、ハマス(イスラム原理主義組織)の再武装を阻止する密輸防止に協力する意向を表明し、同盟国イスラエルへの厚い支持をのぞかせた。アフガンとパキスタンの情勢安定に力を注ぐ方針も確認した。

 しかし、ブッシュ政権下で中東には米・イスラエルへの怨念(おんねん)が募り、誤爆の相次ぐアフガンでは親米のカルザイ大統領でさえ「米軍機をたたき落としたい」と語ったという。そんな対米不信を解消するには、イスラム世界にも公平と映る姿勢をオバマ政権が取り続けることが必要だ。

毎日新聞 2009年1月26日 東京朝刊

社説 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報