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外交の重視を掲げるオバマ米大統領にとって、イランの核開発問題は最も重要な試金石のひとつとなる。
オバマ氏は就任演説のなかで、イスラム世界に向けて「共通の利益と相互の尊敬に基づいて、新たな道を模索する」と宣言した。また「歴史の誤った側にいる」権力者に「こぶしを開くのなら、私たちは手を差し伸べる」とも語った。これらの言葉はイランにも向けられたものだろう。
対するイラン。モッタキ外相は「米国の新しいアプローチに対応する用意がある」と語った。しかし、別の高官は、30年近く国交の途絶えた対米関係を改善する条件に、核開発の容認をあげており、いぜん強硬だ。米国のイスラエル支持政策をめぐる溝も深い。
イランは国連安保理のたび重なる制裁決議を無視し、核兵器製造につながりかねないウラン濃縮を続けている。「平和利用」というイランの主張には無理がある。
だが、交渉を拒否して敵視政策をとった米国のブッシュ前政権の圧力も、イランをかたくなにさせただけで何ら成果をあげられなかった。事態は深刻さを増す一方だ。
オバマ氏は、イランを世界の脅威であるとしながらも、直接対話も含めたあらゆる外交手段を使って、その脅威を終わらせると主張している。
核をめぐる問題だけではない。イランは、イラク、アフガニスタンの安定、パレスチナ和平にも大きな影響力を持つ。イランと米国の関係が改善されることは、中東全体の緊張をやわらげることにつながるだろう。
米新政権は早くイランとの対話に乗り出し、ウラン濃縮をやめさせる条件をねばり強く探ってほしい。
同時に、国連で必ずしも立場が合わなかった中国やロシアを巻き込んだ国際連携の再構築にも力を入れてもらいたい。
イランは来月初めにイスラム革命30周年を迎える。聖職者を最高指導者とする強固な政教一致体制の下で、体制を批判する人々が弾圧され、選挙への参加資格を奪われる事例も絶えない。
だが、政治の世界が一枚岩というわけではない。対米強硬派のアフマディネジャド大統領の激しい言動が強調される一方で、ハタミ前大統領に代表される穏健な改革派や、柔軟な対外政策を掲げる現実派もいる。そんななか、今年6月には大統領選挙がある。
女性にも選挙権があり、選挙を通じて国民の意思がそれなりに政治に反映する、中東では珍しい国でもある。
米国の新政権がどう臨むか。それによってイラン国内の政治的な力関係も変わるかもしれない。原油価格の下落や政策の失敗で経済状況は悪い。米国が柔軟に出れば、イランでも穏健派が影響力を強める可能性がある。
スポーツの世界は、女性に対する人権意識が薄い。そう思わざるを得ないセクハラ問題の発覚が続いている。
大阪府内の中学校で男性教諭が、顧問を務める部活動の女子生徒19人にわいせつな行為を繰り返し、今月、懲戒免職処分を受けた。
2年前から女子生徒を校長室などに呼び入れては、マッサージなどを口実に下着の中に手を入れるなどの行為を重ねていたという。これは犯罪に等しい行為ではないか。
昨年は熊本でも、部活動の女子中学生十数人にマッサージと称して服を脱がせ、胸にさわるなどの行為を繰り返した男性教師が免職になっている。
フィギュアスケートのコーチが指導する女子中学生に性的暴行を加え、逮捕された名古屋の事件もあった。被害者の心と体に残る傷の深さを思うと、いたたまれない。
熊本の教師は「度胸をつけさせるためだった」と話し、「酒に酔っていた」とフィギュアのコーチは言い訳した。こんな人物が指導者として放置されてきたこと自体、恐ろしいことだ。
こうした問題は日本だけではない。ノルウェーでは同国トップクラスの選手約550人のうち、3割がスポーツでのセクハラを体験していた。
カナダでは五輪経験者約230人のうち、2割が競技団体の幹部らと肉体関係を持ち、1割近くはそれが強制されたものだったと打ち明けた。日本でも本格的な実態調査が急務だ。
背景にあるのは、指導者の暴力を容認する雰囲気がいまだに根強いことだろう。ある体育系女子大学では、約600人のうち4割が部活動で指導者から殴られた経験があった。
マッサージなど体への接触も多い。個室で1対1の個人指導も日常的な光景だ。どちらも指導者と選手に信頼関係があれば許容されるケースもありうるのだろうが、セクハラの温床になっている面は否めない。
熊本では県教委が部活動での教員によるマッサージ禁止を打ち出した。当然のことであり、本来、資格をもった専門家に任せるべきものだ。暴力的指導の禁止とあわせて徹底すべきだ。
一般企業では90年代後半にセクハラ防止の整備が進んだ。出遅れたスポーツ界では、陸上競技で著名指導者によるセクハラ事件が相次ぎ、7年前にやっと防止ガイドラインができた。同様の倫理規定を作る競技団体は続いたが、機能していないのが実態だ。
そもそもコーチに女性が少なく、組織や団体の幹部にはさらにまれだ。女性を積極的に登用する仕組みづくりが必要だろう。
これでは、2度目の夏季五輪招致を目指すスポーツ先進国と胸は張りにくい。遅れを一気に取り戻す意気込みで取り組んで欲しい。