現行の衆議院議員の選挙制度は民意を歪曲し「上げ底政権」を作ってきた。
だから、民意を正確、公正に反映する選挙制度に改革すべきである。
これについて少し詳しく論じることにしよう。

1.1994年の「政治改革」(政治改悪)強行

(1)1988年に、いわゆるリクルート事件が発覚し、国民の間に政治腐敗を防止して欲しいという要求が出てきた。
マスコミもこの点は同様であった。

(2)しかし、財界はそれ以前から”財界政治”を実現するために「政治改革」を目論んでいた。
財界は、リクルート事件の発覚と国民の政治腐敗防止の機運に乗じて開会政治を進めるための手段として「政治改革」を推進した。

(3)その結果として、政治資金も衆議院議員の選挙制度も政党本位になった。
(政治資金については、また別の機会に紹介し、論じることにする。)

(4)衆議院議員の選挙制度は、いわゆる中選挙区制から小選挙区本位の選挙制度に「改革」された。
 中選挙区制は、小政党でも都市部では議席を獲得できたこともあって準比例代表制的に機能していた。

(5)これに比して、1994年に強行されたのは、小選挙区比例代表並立制とよばれるもので、総定数500で小選挙区300、比例代表200の定数であることからも明らかなように比例代表制を付加した小選挙区制であった。
 比例代表選挙は全国を11ブロックに分けられたものである。

(6)2000年の総選挙から、小選挙区の定数300は維持されたままで、比例代表の定数が20削減され180になったため、総定数は480になった。

2.小選挙区制についてのデマゴーグ

(1)小選挙区制が政治腐敗を予防できないことは自明のことであった。
いわゆる首長選挙は、一人だけを選出するから事実上の小選挙区制であるが、「政治とカネ」の問題は以前から発覚し続けていたからである。

(2)それなのに、小選挙区制にすれば、自民党同士の対決がなくなり政策中心の選挙になるから政治腐敗は予防できるなどととして宣伝され、中選挙区制から小選挙区本位の選挙制度に「改革」された。

(3)これがデマゴーグであったことは、未だに「政治とカネ」の問題が絶えないことからも明らかであろう。
 政治腐敗は、企業献金を許容してきたこと、自民党そのものの体質、自民党が政権政党であったこと等が大きな原因であったとしか思えない。

3.民意を歪曲し大政党の過剰代表を生み出す小選挙区選挙

(1)小選挙区制は、一人区であるから、各選挙区で一人しか当選者(代表者)を選出できない選挙制度である。

(2)それゆえ、当選した候補者以外への投票は、全て無駄になる。
 これが、いわゆる死票である。

(3)死票は全国300の選挙区で生じることになる。
つまり、各政党の実際の得票率と実際の議席占有率の間で乖離が生じるのである。

(4)このことは、言い換えれば、全国的に民意が正確・公正に衆議院に反映されずないろことか、大政党は過剰代表になり、小政党は過少代表になることを意味している。

(5)以下は、過去の衆議院議員選挙での小選挙区選挙における各政党の獲得議席、その全国集計得票率、議席占有率をまとめたものである。
小選挙区選挙結果









































 1996年衆議院議員総選挙において、例えば、自民党は、小選挙区選挙で169議席を獲得していた。
 これは小選挙区の定数300議席に対して56.5%の議席を占めている計算になる。
 しかし自民党の小選挙区選挙の得票数を全国集計し、得票率に換算すると、それは38.6%に過ぎない。
 つまり、40%足らずの得票率で56%強の議席占有率を獲得していたのである。
明らかな過剰代表である。

 この結果は、2000年総選挙でも同様であった。
 具体的に紹介すると、自民党は177議席獲得したが、これは、59%の議席占有率だった。
 しかし、得票率は41%にすぎなかった。
 40%強の得票率で60%弱の議席占有率を獲得していた。

 2003年総選挙でも同様で、自民党は168議席で議席占有率は56%だが、得票率は43.9%。
 小泉首相が郵政民営化関連法案をめぐって解散したときの2005年総選挙で、自民党は219議席で73%もの議席占有率を獲得した。
 だが、得票率は47.8%、つまり半分の得票率も獲得していなのに、4分の3近くの議席を獲得したのだ。

4.比例代表を含めても「上げ底政権」を生み出す現行選挙制度

(1)小選挙区制に比べると比例代表制は民意を正確・公正に国会(衆議院)に反映する。(不十分だが、ここでは取り上げない。)

(2)しかし、前述のように小選挙区選挙のお陰で大政党は過剰代表され、その結果、「上げ底政権」がつくられてきたのである。

(3)以下は、過去の衆議院選挙における各政党の小選挙区選挙及び比例代表選挙の合計獲得議席、比例代表選挙の得票率、それに基づき比例配分試算した各政党の予想議席数をまとめたものである。
衆議院議員選挙結果






































 1996年総選挙で、例えば、自民党は500議席中299議席を獲得した。これは6割近くの議席である。
 しかし、比例代表選挙での得票率は32.8%にすぎなかった。この得票率で比例配分すると、自民党は500議席中164議席しか獲得できなかったと試算される(もちろん、実際に小選挙区選挙が実施される比例代表選挙だけが実施されれば、各政党の候補者擁立も有権者の投票行動も変化するだろうが、ここではそれを考慮しないこととする)。
 そうなると、他党を巻き込んで多数派工作が行われたであろうが、自民党は与党でいられたかどうか?
 
 2000年総選挙でも、自民党は480議席中233議席、つまり半分近くの議席を獲得していた。
 しかし、比例代表選挙での得票率は28.3%で、比例試算すると480議席中136議席しか獲得できなかった計算になる。
 31議席獲得した公明党の比例代表選挙での得票率は13%で比例試算すると62議席で、7議席獲得した保守党は得票率0.4%で比例試算では2議席になる。
 つまり、自民党・公明党・保守党は480議席中271議席獲得していたが、試算議席の合計は200議席しかなかったことになる。ここでも他党を巻き込んで多数派工作が行われたであろうが、自民党中心の政権が維持されたかどうか?

 2003年総選挙でも、自民党は480議席中237議席獲得しているが、比例代表選挙の得票率は35%、比例試算すると168議席にすぎない。
 34議席獲得した公明党は得票率14.8%で比例試算すると71議席。
 自公両党で合計239議席。過半数を獲得していなかった計算だ。

 2005年総選挙で、自公両党は480議席中327議席を獲得した。つまり、3分の2以上の議席を獲得した。
 自民党は296議席も獲得したが、比例代表選挙の得票率は38.2%で、比例試算すると184議席。
 31議席獲得した公明党の得票率は13.3%で比例試算すると64議席。
 自公両党で合計248議席。
 つまり、「3分の2」以上は獲得できず、過半数をやっと獲得した程度であった。

(4)以上の試算から明らかなように、1994年の「政治改革」により、衆議院議員の選挙制度が小選挙区本位のものに「改革」されたことによって、大政党の過剰代表、与党の過剰代表、つまり「上げ底政権」が人工的に生み出されてきたのである。
 これは民意からかけ離れた政権を生み出す仕組みだ。

(5)民意が正確・公正に衆議院に反映されていれば、政権交代が起こった可能性があるが、小選挙区本位の選挙制度によって、政権交代が阻まれた可能性がある。

(6)衆議院で再可決が2度ほど強行されたが、比例代表選挙だけで総選挙が行われていれば再可決が行われていたのかどうか?

5.現行衆議院選挙のうち小選挙区選挙は廃止するしかない!

(1)小選挙区選挙は政治腐敗を予防するものではない。

(2)小選挙区選挙は、前述したように民意を正確・公正に反映しないどころか、民意を大きく歪曲している。

(3)憲法は、国民主権主義・普通選挙を採用しているから民意を正確・公正に反映することを要請している。
 これは社会学的代表と表現されている。議会制民主主義は、当然、社会学的代表を要請している。
 そうでなければ、国民の一部しか反映しない制限選挙の下での議会主義とほとんど変わらなくなってしまう。

(4)小選挙区選挙は、社会学的代表の要請に応えないどころか、その要請に逆行する選挙制度である。
 議会制民主主義にとって相応しくない選挙制度である。

(5)小選挙区選挙は衆議院で与党に「3分の2以上」の議席を獲得させる可能性があり、現に2005年の総選挙ではそれを実現した。
 しかし、これは、参議院の意義、したがって二院制の意義を奪ってしまうから、二院制にとっても相応しくない選挙制度である。

(6)したがって、小選挙区制は憲法違反だから(あるいは憲政上不適切であるから)廃止するしかない。
 小選挙区制が普遍的に違憲であるとはいけないとしても、民意が多様化している日本で小選挙区制を採用し実施することは「適用違憲」と判断できるだろう。
 一たん「適用違憲」と判断されれば、その後も「適用違憲」になると推定されるので、「適用違憲」後は小選挙区制そのものが違憲と結論づけられることになるだろう。

(7)衆議院議員の総定数480を維持した上で(あるいは総定数500に戻した上で)、小選挙区選挙を廃止し、民意を正確・公正に国会(衆議院)に反映する比例代表制だけにすべきである。
 ただし、無所属や政党以外の政治団体の立候補を容易にするべきである。そうでなければ、被選挙権(立候補の自由)を侵害することになるからである。

(8)この小選挙区本位の選挙制度が日本社会をワーキングプアを内包した構造的な格差社会に、そして日本の国家を軍事的米国貢献国家にしてきた。
 それを改めるためにも、小選挙区選挙は廃止するしかない!