首から胸にかけて損傷がひどいスフィンクス。将来は首が落ちるとの指摘もある=昨年11月、エジプト・ギザ、橋本弦撮影
カルナック神殿の壁画。吹き出した塩分が白い帯となって横向きに走っていた=昨年11月、エジプト・ルクソール、橋本弦撮影
エジプトの古代遺跡が崩壊の危機にさらされている。首都カイロ近郊にあるギザのスフィンクスは、胴体を分断するように大きな亀裂が走っていた。首から胸にかけて表面の岩がぼろぼろと崩れ、痛々しい。現地の研究者は「気候変動や人口増加によって、この10年で急激に悪化した塩害が原因だ」とみている。
「このままだと100年しないうちにスフィンクスの首が落ちる」。そう語るのは、昨年末に現地を訪れた大阪大の谷本親伯(ちかおさ)特任教授(岩盤工学)。95〜98年に修復保存調査を行っている。
調査によると、スフィンクスと同じ材質の岩と周辺の地下水に多くの塩分が含まれていた。岩にしみ込んだ地下水は塩分を溶かし、その後に蒸発する。岩の細かいすき間で再結晶化した塩が亀裂を広げ、岩を崩していくことがわかった。一帯は7千万〜8千万年前に海底でつくられた石灰岩が隆起した場所。その岩を削って4500年ほど前に造られたスフィンクスに、塩分がもともと含まれていた。
ピラミッドやスフィンクスは砂漠の真ん中にある印象が強いが、実態はすぐ近くまで住宅街が迫る。周辺は、人口増加による都市化が進み、食糧増産に向けて農地が拡大。その影響で地下水位の変動が激しくなり、塩分が溶け出して被害を拡大しているとの指摘がある。
強風が吹くと周囲の砂を巻き上げ、スフィンクスの表面の岩を削り取っていることもわかった。特に首から胸に強い風が当たり、被害が激しいという。
谷本特任教授は「首のあたりは、原形より最大で1メートルほど細くなった可能性がある。世界の研究者に呼びかけて早急な保存に向けた対策をとるべきだ」と語る。
カイロの南450キロのルクソール。ツタンカーメンの黄金マスクが見つかった王家の谷など多くの遺跡が集まり、エジプトの主要な観光地だ。ここでも、塩害による遺跡の破壊が進む。