〈主文〉
本件衝突はあたごが動静監視不十分で、前路を左方に横切る清徳丸の進路を避けなかったことによって発生したが、清徳丸が、衝突を避けるための協力動作を取らなかったことも一因をなす。
海上自衛隊第3護衛隊(旧第63護衛隊)が、あたごの艦橋とCIC(戦闘指揮所)間の連絡・報告体制、見張り体制を十分に構築していなかったことは、本件発生の原因となる。
第3護衛隊に対して勧告する。
〈理由〉
本件は、千葉・野島崎沖で北上中のあたごと西行中の清徳丸が衝突した。両船が互いに他の船舶の視野のなかにあり、両船の方位に明確な変化が認められず、互いに進路を横切り、衝突の恐れがある態勢で接近していたから、海上衝突予防法15条(横切り船)の規定を適用するのが相当である。両船は2船間の航法を順守して衝突を回避しなければならなかった。
前水雷長は艦橋当直引き継ぎ時、前航海長から漁船群についての予断を与えられたとしても、漁船群をレーダーで確認していたから、当直士官として、自艦周辺で何が起こるか予測するのが基本で、清徳丸を含む漁船群に対して十分な注意を払うことが要求される状況にあった。
前水雷長が、清徳丸に対する動静監視を十分に行っていれば、明確な方位変化がなく、前路を左側に横切り衝突の恐れがある態勢で接近する同船に気付くことができ、要求される避航動作をとる時間的、距離的余裕があったものと認められる。前水雷長が動静監視を十分に行わず、清徳丸の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
前航海長は当直引き継ぎに際し、漁船群の動向を再度確認すればその接近に気付くことができ、漁船群の動静について正確な引き継ぎを行うことにより、前水雷長のその後の操艦に余裕を持たせることができた。前艦長は航海当直要領や当直士官の留意事項等を艦橋命令として周知していたものの、艦内に徹底させていなかった。前船務長は、CICにおける当直体制を適切に維持するよう監督していなかった。しかし、いずれも当直士官が避航船としての措置を十分余裕ある時期にとることによって衝突の発生を回避できたことから、本件と相当な因果関係があるとは認められない。
こうしてみると、本件は、艦橋当直の基本が励行されておらず、見張りにかかわる各部署間の連絡・報告体制が十分に構築されていなかったことが、漁船群に対する動静監視が不十分となったことの背景として認められる。各人が航行指針を順守し、たとえ1人がミスやエラーを犯したとしても、これらが拡大されることなく局限されるよう、自らの役割を認識して最大限に果たし、相互にチェック・カバーしあう意識を持って業務に当たらなければならない。
あたごの艦橋とCIC間に緊密な連絡・報告体制並びに艦橋及びCICにおける見張り体制に背景的要因があって本件は発生したものであり、これを総合的に改善する施策を整備して実効ある取り組みを行わなければ事故再発防止は図れない。従って、個人の指定海難関係人には勧告しないが、第3護衛隊全体に対して勧告するのが相当である。
一方、清徳丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも、本件発生の原因となる。
補佐人は前艦長が作成した清徳丸の航跡図を基に、清徳丸の右転がなければ、同船があたごの艦尾を通過していたと主張したが、合理性に欠け認めることはできない。
清徳丸の右転は近距離に接近してしまった、あたごに対するとっさの衝突回避動作と解するのが相当である。
毎日新聞 2009年1月23日 東京朝刊