ブリザードのような風で半円筒のコースに雪煙が舞う。空中に高く飛び出せば、より風の影響を受ける悪条件でも、青野は動じなかった。
圧倒的な高さのエアが得点を押し上げる。決勝1回目の45.5点で、2回目を滑る前に優勝は確定。ウイニングランで軽く流してもよかった状況で、さらに挑戦を続けた。
「どんな状況でも試すつもりだったので」。難易度の高い横3回転スピンを2回続ける通称「バック・トゥー・バック1080」を決め、47.3点と、この日の最高得点で初優勝に花を添えた。
「自分の今の限界を十分出せた」。現時点のベストを披露できた充足感の一方で、「まだ成長できると感じてなかったら終わり。今のままじゃダメ」。感情の抑揚をあまり出さない話しぶりは、18歳とは思えない落ち着きがある。
HPはほかのスキー種目と違い、W杯や世界選手権のメダルが、そのまま五輪への期待にはつながりにくい。有力プロは五輪以外はほとんど参戦せず、高額賞金大会Xゲームなどを優先する。今大会もトリノ五輪金のショーン・ホワイト(米)は不参加。日本男子チームにはトリノの苦い残像もある。メダル確実とメディアに前景気をあおられながら全員が予選落ちした。
「真の世界一」を決めるバンクーバー五輪を最大の目標に掲げる青野は、今大会前に言っていた。「米国勢が来ていないここで負けたら、五輪では勝てない」。世界選手権王者の勲章は、一つの目安に過ぎない。(稲垣康介)