三井住友海上グループホールディングス(HD)、あいおい損害保険、ニッセイ同和損害保険の損保大手3社が23日、経営統合を発表し、大手6社がひしめいていた業界の勢力図は一変する。統合3社は「巨大損保」に生まれ変わり、規模を生かして、景気悪化や金融危機による苦境を乗り切りたい構え。01~02年に相次いだ業界再編に続く「第2幕」が切って落とされる可能性もある。【辻本貴洋、坂井隆之】
「業界を取り巻く環境は早期の改善が見込めない。事業の多角化やグローバル化が急務だ」。23日の統合発表会見で、3社の首脳から、国内最大の損保誕生に浮かれるムードを戒めるような、厳しい現状認識が相次いだ。
統合の背景は、国内損保市場の縮小に歯止めがかからないことへの強い危機感だ。業界全体の07年度の自動車保険の保険料収入は新車販売の不振などでピークの01年度から4・7%減少した。さらに昨秋以降の金融危機で景気は急速に悪化し、新車市場も大幅に落ち込んでいる。一方、保険金不払い問題で再発防止のためのシステム投資の費用が膨らみ、損保各社の業績は軒並み悪化している。
関係者によると、統合の推進役は業界4位のあいおい損保。トヨタ自動車グループだが、トヨタの営業基盤を十分生かせずに伸び悩んでおり、以前から水面下で複数の大手に統合を打診していた。なかでも業界2位の三井住友海上は「最大手の東京海上HDに奪われるのは避けたい」(幹部)と昨年夏過ぎから交渉を本格化した。
あいおいは、業界6位のニッセイ同和も交渉に誘った。規模で勝る三井住友海上にのみ込まれる事態を避けるためだ。ニッセイ同和も親会社の日本生命保険との相乗効果を発揮できずにいた。統合であいおいとニッセイ同和が合併するのは三井住友海上との「対等の統合」を印象づける狙い。三井住友海上も悲願の「業界首位」を実現するため、3社統合の持ち株会社から「三井住友」の名称を外す「配慮」を示した。
統合の効果について、3社は「トヨタと日本生命、三井住友グループという強力な基盤を持つ」(三井住友海上の江頭敏明社長)と強調。統合による合理化で生じた余力を独自の商品開発や海外でのM&A(企業の合併・買収)に注力。トヨタや日本生命の販売網で販売拡大を図る。
だが、統合合意を優先させた結果、当面は持ち株会社傘下に損保2社が併存する変則的な方式を採ることになり、「コスト削減や商品開発での相乗効果が乏しく、2社で客を奪い合う可能性もある」(大手損保)との見方がある。格安保険料を武器にインターネットなどの直接販売でシェアを伸ばす外資系損保にどう対抗するかも課題だ。市場からは「ただ規模が大きくなるだけの合併でなく、具体的な成長モデルを早期に示す必要がある」(スタンダード・アンド・プアーズの中島彩子氏)との指摘も出ている。
残る大手3社の東京海上HD、損害保険ジャパン、日本興亜損害保険も、国内市場縮小に対する危機感は共通している。業界では「早晩さらなる再編は避けられない」との見方が強い。
「私は落ち着いている」。3社統合が報じられた昨年末、東京海上は収録を終えていた全社員向けの隅修三社長の新年メッセージに急きょことばを追加し、社内に平静を呼びかけた。
同社は昨年、総額6000億円を投じて英米の保険2社を買収するなど海外展開を加速。「市場が縮小している国内で買収しても効果は乏しい」(首脳)と表向き再編に距離を置く。ただ、「業界トップのブランドが営業の最大の武器」(代理店)だっただけに、社長メッセージは動揺の裏返しとも言える。
統合3社と東京海上の2強から大きく水をあけられる損保ジャパン。残された選択肢は限られ、以前から取りざたされていた日本興亜に関心を寄せる。今春策定する中期経営計画には、他社を取り込みやすい持ち株会社化を盛る方針で、再編に向けた準備を着々と進めている。
一方、日本興亜は「非財閥系で小回りのきく存在も必要」(兵頭誠社長)と、今のところ独立路線を崩そうとはしていない。大手6社の08年9月中間決算で、唯一確保した増益が、強気の姿勢の背景となっている。
ただ、日本興亜に対しては、筆頭株主の米ファンド、サウスイースタンが昨年の株主総会で他社との統合を要求し、兵頭社長の再任に反対した。サウスは損保ジャパンの株式6・77%を保有する大株主。さらに圧力を強めることが予想され、日本興亜が再編第2幕のカギを握りそうだ。
毎日新聞 2009年1月24日 東京朝刊