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クローン牛・豚 本当に安全、安心なのか

1月24日(土)

 体細胞クローン技術でつくられた牛と豚について、政府機関の専門家作業部会が「食品として安全」との報告書をまとめた。

 この結果、今後クローン食品が食卓にのぼる可能性が出てきたものの、消費者には抵抗感が強い。国は性急に流通を認めるのではなく、本当に安全、安心な食品と言えるのか、論議を尽くすべきだ。

 動物の皮膚や筋肉などの体細胞を、核を取り除いた未受精卵に融合させ、雌の子宮に入れ出産させるのが体細胞クローン技術だ。同じ遺伝子を持つ動物を生み出すことになり、肉質の高い牛や豚を大量に複製して生産できるとの期待がある。

 国内の畜産試験場などで生まれた体細胞クローン牛は、食品としての出荷は自粛されている。この技術による牛や豚は、死産や出産直後の死亡率が高く、食品としての安全性に疑問の声がある。

 国は、体細胞クローン牛やその牛から生まれた「次世代牛」について既に、一般牛と比べ肉質や乳の成分に生物的な差異はない−との見方を発表している。

 今回、内閣府食品安全委員会の専門家作業部会は多くの文献などを調査した結果、6カ月以降まで成長すれば通常の牛と同様に健全に発育すると説明。安全、との認識を前進させた。

 今後、新開発食品調査会、食品安全委員会の審議を経て厚労省に評価結果が報告される。その上で、農水省が体細胞クローン牛や豚の食用としての流通を認めるかどうか検討する。

 だが消費者団体からは、食べて本当に安全なのかと、疑問の声が依然として消えない。

 検討手続きの中で、国は安全性について丁寧に説明し、消費者らの声を判断材料にしてほしい。

 流通を認めるとした場合の表示の在り方についても、論議をしておく必要がある。日本産より米国などからの輸入が早くなる可能性もある。出荷後にクローン家畜やその子孫のものか科学的に調べるのは難しい。信頼できる表示システムが要る。

 クローン家畜に取り組んでいるのは、多くが国や自治体の研究機関で、企業が積極的に事業化する動きはまだ少ない。技術が改良され大量に得られるようにならなければ、流通の可能性は薄いとの見方もある。

 より深い問題として、動物に細胞レベルで手を加えることの是非論がある。畜産業のあり方を含めて問われている。

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