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社説:小型衛星 利点生かし裾野を広げたい

 温暖化対策と宇宙利用の裾野(すその)の拡大。二つのねらいを乗せ、H2A15号機が鹿児島県・種子島宇宙センターから打ち上げられた。

 主衛星は全地球の温室効果ガスを測定する「いぶき」で、これに小型衛星7基が相乗りしている。

 H2Aは9機連続の成功、打ち上げが民間移管されてからは3機目の成功となる。今月、初めて韓国の衛星の商業打ち上げを受注したところでもあり、今後も信頼性の向上とコスト削減を進める必要がある。

 小型衛星は「早く」「安く」開発できるのが利点だ。開発に長い時間と多額の費用がかかる通常の衛星は、国の宇宙機関や大手メーカーでなくては手が出せない。時間がかかりすぎて国際競争に勝てないケースも出てくる。

 今回相乗りした小型衛星のうち6基は宇宙航空研究開発機構(JAXA)による公募だ。東大阪の中小企業が音頭をとって開発した「まいど1号」、都立高専の学生が参加した「輝汐(きせき)」、大気の発光現象を観測する東北大の衛星など、多彩な顔ぶれが集まった。

 開発期間は短いもので1年、開発費用も小さいものなら数千万円以下。これなら、若い技術者の育成につながるし、最先端科学にも挑戦できる。

 ただ、解決すべき問題はある。開発に携わった人々からは、手続きの煩雑さや安全基準の厳しさに苦労したという声が聞かれる。主衛星のリスクとなるようでは困るが、宇宙利用の裾野を広げるという目的を考えれば、柔軟性も必要だ。安いとは言っても資金集めも一筋縄ではいかない。打ち上げておしまいではなく、いかに有効利用できるものにするかも課題だ。

 公募は今後も続き、将来は産業界の衛星利用の拡大、ロケット打ち上げの増加にもつなげたいという。であればなおさら、小型衛星を一時のブームに終わらせず、今回の経験を生かし問題を解決していきたい。

 地球のほぼ全域にわたり温室効果ガスを観測する「いぶき」の役割にも期待したい。今年は、京都議定書以降の温室効果ガスの削減について国際的枠組みを決める重要な年だ。

 国際交渉は自国の利益を引き出そうとする駆け引きの場となるが、枠組み作りは科学的データに支えられていなくてはならない。「いぶき」のデータをその土台として有効に使いたい。

 今回の打ち上げは、日本のロケットの位置づけを改めて考えるきっかけでもある。H2Aは大型衛星の打ち上げ能力を持つが、相乗りが可能になるのは余剰が生じているからだ。官民共同で実施している中型の「GXロケット」の開発は難航し、コストが膨れ上がっている。潜在的な衛星需要とロケットの組み合わせを精査した上で、ロケットのラインアップも随時見直すべきだ。

毎日新聞 2009年1月24日 東京朝刊

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