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アフリカ・ソマリア沖のアデン湾で急増する海賊から日本の商船を守るため、海上自衛隊の護衛艦を派遣する方向が固まった。政府は来週、方針を正式に決め、早ければ3月中にも護衛艦が現場海域へ向かう。
ソマリア沖には、すでに欧米や中国など約20カ国が軍艦を派遣し、貨物船やタンカーの護衛にあたっている。だが、海賊行為は増え続け、最近では未遂も含めて2日に1件のペースだ。
アデン湾はアジアと欧州をつなぐ要路だ。そこに無政府状態のソマリアを拠点とする海賊が横行するというのは全く予期せぬ事態だけに、どの国も対応に苦慮している。1日平均6隻もの商船が航行している日本も何もしないではすまされない。
海賊行為は犯罪であり、本来は海上保安庁の仕事だ。しかし、日本をはるかに離れたアデン湾で長期間、活動するのは、海上保安庁の装備や態勢では実質的に難しい。また海賊行為からの護衛は、憲法が禁じる海外での武力行使にはあたらない。国際社会に協力を呼びかけた国連安保理決議もある。事態の深刻さを考えれば、護衛艦の派遣はやむを得ない判断だろう。
ただし、派遣の法的根拠となる自衛隊法の「海上警備行動」は、そもそも日本の領海や周辺を想定したものだ。今回は極めて例外的な措置であることを忘れてはならない。
数隻の日本商船で船団を組み、護衛艦が伴走する方式で海賊の襲撃を予防する計画のようだ。海域をパトロールするといった積極的な取り締まりはしない方針だという。海賊を逮捕した場合に備えて、取り調べなどの司法手続きができる海上保安官を同行させる。
海上警備行動だと、対象は日本人の生命、財産の保護に限られ、他国の船の護衛や救援はできない。海賊が攻撃してきた場合、どこまで応戦できるか。こうした課題が残ったままの見切り発車である。
本来なら、海賊を取り締まることを目的とした法律をつくり、自衛隊のできること、できないことをきちんと規定したうえで派遣すべきだ。
政府は法案を通常国会に提出すべく準備している。課題は多いが、たとえば武器使用は正当防衛と緊急避難に限った警察官職務執行法を原則とし、かつ効率的な海賊取り締まりができるよう工夫をしてもらいたい。
艦艇による護衛は対症療法でしかない。根絶するには、ソマリアに政府がつくられ、民生を安定させ、自らの手で海賊を取り締まれるようにすることだ。イエメンなど周辺国に沿岸警備を強化してもらうための支援も大事だ。
こちらの面でも国際的な取り組みが必要だろう。「21世紀の海賊」という一見奇妙な現実とのいたちごっこを早く終わらせなければならない。
大学生や高専の学生たちがつくった小さな人工衛星が七つ、H2Aロケットに乗って宇宙に旅立った。
温室効果ガスの発生を地球全体でくまなく観測する世界初の衛星「いぶき」の打ち上げにあわせ、ロケットの空きスペースに相乗りした。いわば宇宙のヒッチハイカーである。
七つ合わせても、重さは約1.7トンの「いぶき」の1割程度しかない。
この小ささに大きな可能性が秘められている。これほど小さい衛星は世界でもまだ実用化への途上にある。日本の得意技である小型化の技術を生かして、宇宙開発の新たな分野を切り開けるか。期待を持って見守りたい。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は今回初めて、相乗りする衛星を公募し、選ばれた衛星に無料で打ち上げの機会を与えた。今後もロケットに場所があれば、小型衛星を乗せる。
従来のJAXAの衛星は大型で多機能なうえ、確実に長期間働く宇宙用の部品でつくられている。だからとても高くつく。「いぶき」の開発には打ち上げを含めて約350億円かかった。
これまで世界で小型衛星といえば、重さ300キロ以下で、英国のサリー大学がリードしてきた。マレーシアなどのアジア諸国やアフリカ、アラブ諸国と協力して通信衛星や地球観測衛星などを打ち上げてきた。
今回の日本の衛星はさらに小さく、いわば超小型だ。それだけ安く、早く作れる。目的を絞って数多く打ち上げる、という使い方ができる。
東大の「プリズム」は重さ8キロの小ささながら、解像度30メートルで地球の画像が撮れる本格派だ。約30年前の米国の地球観測衛星ランドサット並みの性能だが、市販の部品を使って手作りし、1千万円ほどですんだ。
手頃な値段になれば、地方自治体や企業にも手が届く。いろいろな使い方が出てくるはず、と東大の衛星プロジェクトのリーダー、中須賀真一教授は意気込む。
パソコンで簡単に地球の画像が見られるグーグル・アースのようなアイデアは、利用者の側から出てきた。知恵を広く求め、宇宙利用のすそ野を広げていきたい。
小型衛星づくりを、ものづくりの人材育成や教育にも役立てたい。「まいど1号」は、東大阪の中小企業の技術者らが衛星づくりの基礎技術習得を目指してつくった。雷の観測もする。
東京都立産業技術高専の「KKS―1」は重さ3キロと最も小さいながら、エンジンや衛星の姿勢制御の実験に挑む。衛星は、いったん打ち上げたら修理はできない。技術の厳しさを学ぶ格好の場となる。
来年は、約20大学が共同で相乗り衛星を打ち上げ、金星をめざす。若者らしい挑戦の成果が楽しみだ。