海上自衛隊のイージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故の海難審判の裁決で、横浜地方海難審判所は、事故原因についてあたごの監視不十分が主因と認定し、刑事裁判の被告に当たる「指定海難関係人」五者のうち、あたごの所属部隊の第三護衛隊(京都府舞鶴市)に安全運航の指導徹底を求める勧告を言い渡した。
裁決は、艦長や当直責任者らへの勧告は見送った。安全をないがしろにしたずさんな運航を行ってきた海自の組織的責任を、個人責任よりも重く見たものといえよう。海自組織への勧告は、三十人の命を奪った一九八八年の潜水艦「なだしお」衝突事故の海難審判での一審裁決以来、二例目となる。
航海については専門家集団であるはずの海自が、安全運航で二度も勧告を受けること自体がそもそも異例というほかない。過去の教訓が全く生かされてなかったとは、情けない限りで、海自は深く反省すべきだ。
裁決で織戸孝治審判長は、事故原因について、衝突時に操船を担当していた当直責任者の見張り不十分と認定。「艦橋とCIC(戦闘指揮所)の連絡態勢や見張り態勢を十分に構築していなかった」と、安全を軽視する航行管理を続けてきた海自組織の体質を指弾した。
見張りを徹底せず、レーダーでの継続監視を怠るなど、海の交通ルールの基本を欠いた重大ミスが連鎖した原因を、監視・連絡態勢の不備という構造的欠陥にあるとした。「総合的に改善し、実効ある取り組みをしなければ再発防止は図れない」と第三護衛隊組織全体への勧告とした理由を強調している。
今後は横浜地検の刑事責任追及が焦点となる。今回の裁決では、衝突直前の当直責任者の引き継ぎミスなど、艦長を含めほかの四人の行為については衝突との因果関係を否定している。
海難審判は原因究明と再発防止が目的で、刑事責任追及を行う刑事裁判とは目的が違う。複数の当事者の「過失の競合」を適用し、衝突前と衝突時の当直責任者二人の立件を目指している横浜地検の捜査方針とは異なる結論となった。
審判では、あたご側は事故原因は清徳丸の右転にあると主張。一部の判断ミスや気の緩みは認めたものの「再発防止に努めており、勧告は不要」としてきたが、今回の裁決でその主張は崩れたと言うべきだ。海自は勧告を厳粛に受け止め、安全運航徹底や再発防止に組織を挙げて取り組む必要がある。
大気中の温室効果ガス濃度を宇宙から観測する人工衛星「いぶき」を載せたH2Aロケットが二十三日、鹿児島県の宇宙航空研究開発機構種子島宇宙センターから打ち上げられる。天候の都合で当初予定の二十一日から延期されていた。
衛星いぶきは、宇宙機構と環境省、国立環境研究所の共同プロジェクトだ。二酸化炭素やメタンが特定の波長の赤外線を吸収する性質を利用してはるかな軌道上から観測、海陸を問わず地球上五万六千カ所のデータを三日ごとに取得する。
温暖化対策を進めるには温室効果ガスの状況を把握しなければならないが、地上の観測点は欧米や日本を中心に約二百八十カ所しかない。いぶきにより観測の空白が埋まり、合理的な排出削減計画の策定やその実施に結びつくことが期待される。各国が公表する温室効果ガス排出量も検証できるという。
今回のH2Aにはもう一つ、重要な任務がある。余剰能力を活用、公募により学生や中小企業が開発した小型衛星六個を相乗りさせる。話題を集めてきた東大阪宇宙開発協同組合の「まいど1号」もその一つだ。雷から出る電波を観測し、雷予報実現に向けたデータを集める。
香川大の「KUKAI(空海)」は、ひもでつながった母衛星と子衛星で構成され、軌道上でひもを伸縮して姿勢を制御する実験に取り組む。
小型衛星は最大で一辺五十センチにすぎないが、携わってきた人たちの熱意や創意が詰まっている。宇宙に届き、順調に機能すれば、ものづくりにかかわる人々全体の励みになろう。
一九九〇年代末に失敗が続いた先代H2の後継機H2Aにも失敗例はある。確実な打ち上げ成功へ、関係者は慎重の上にも慎重を期してもらいたい。
(2009年1月23日掲載)