プレミアリーグの実態
【海外通信員】2009年01月14日

 黒人監督の首が切られた。プレミアリーグ初の黒人監督として注目を浴びたブラックバーンのポール・インス氏(41)がクラブから「解任」された。17試合で白星が3つと、降格圏内の19位に低迷したことにより、成績不振での更迭された。一方で、インスの場合は黒人であることが理由の一つとして議論され、現代サッカー界に蔓延する差別問題が改めて浮き彫りとなった。
 彼は現役時代、マンチェスター・ユナイテッドで1999年の3冠に貢献する活躍をし、イングランド代表では黒人として初めて主将を務めた経験を持つ。そして今夏、下部リーグでの監督としての才能がブラックバーン幹部に認められ、プレミアリーグ初の黒人監督として、今夏マンチェスター・シティに移籍したマーク・ヒューズ氏の後任として電撃就任した。

 しかし、インスは就任当初から、監督としての経験の浅さが問題視されていた。現在の金満化したプレミアリーグでは、1試合で数億単位の金が動くため、連敗を喫するだけで解任の声が聞こえてくる。メディアやファンからのプレッシャーは、監督を窮地に追い込み、クラブ幹部をも動揺させるようになっているのだ。
 一方、92のプロクラブが存在するイングランドでは、黒人選手が全体の25%を占めている。しかし、黒人監督はというと、2年前にインスが監督デビューを果たし、1年間指揮した4部マクルスフィールド・タウンのキース・アレクサンダー氏だけだ。審判もプロリーグの審判として登録している黒人は約70人に上るが、実際に主審を任されているのは2人という状況だ。このような傾向は、黒人がトップクラブの監督や幹部、会長になれないという実態を浮き彫りにしている。
 今年度のUEFA・B級、A級コーチ資格受講者42人の中で、黒人はA級を受けている元イングランド代表DFクリス・パウウェルだけ。問題はクラブが黒人監督を選ばないというだけでなく、選べないという点にもある。黒人がコーチ資格を受講しない理由の一つには、黒人監督の成功例が過去に少ないということと、取得して志願してもクラブに断られるという前例が数多くあるためだ。悲しいことに、イングランドのプロリーグでは、現役を引退した黒人選手はサッカー界から自然と離れている。
 米国で最大の人気を誇るアメリカン・フットボールのNFLでは、32チーム中7人が黒人監督に指揮されており、同国のスポーツ界においての黒人の立場は平等となっている。一方、近年の金満化によりビジネスを優先させているプレミアリーグでは、資金運営以外の面で革新的な事があまり行われていないのが現状だ。そういった意味で、イングランドのサッカー界はスポーツ先進国のアメリカに大きく遅れを取っていることになる。
 最近の黒人をめぐる差別問題を挙げてみよう。9月28日に行われたポーツマス対トッテナムの試合で、元イングランド代表DFソル・キャンベルに対し、トッテナムのファンが飛ばした悪質な差別的やじが事件となった。キャンベルは以前、トッテナムからクラブの宿敵であるアーセナルに移籍したことでファンと遺恨を残したが、それが今なお人種差別という形で続いている。同件では、警察が調査した結果、ビデオの証拠をもとに16人が逮捕され、罰金やスタジアム立ち入り禁止などの処分が科された。
 「Let’s  Kick Racism Out Of Football=サッカーから差別をなくそう」
 これはイングランドサッカー協会(FA)が後援する団体が掲げるスローガンであり、過去11年間にわたり続いている。FAは同団体に資金を投資する形で建前を取ってはいるものの、同問題に関しての具体的な改善案などに協力するまでには至っていない。
 インスの解任をめぐっては賛否両論が絶えないが、一つ確かなのは、彼の解任が監督の道を歩もうとしている未来の黒人監督をさらに苦しい立場に追い込んだということだろう。しかし一方で、プレミアリーグが現在の体制を改革しなければ、米国のスポーツ界で活躍するような黒人監督や幹部が生まれることはない。白人以外の監督を無理やり就任させるのではなく、他の人種にもチャンスを与える環境を作ることにもっと目を向ける必要があるのだ。そういった背景が改善される時、アフリカやアジアの血をひく選手や監督がプレミアリーグで切磋琢磨する日が来るかもしれない。(藤井重隆=ロンドン通信員)

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