Darkness

A dark change 1


…夢現なのか現実なのか
…毎夜訪れる黒い「闇」


…そして、私に囁きかける「悪」への誘惑を…




サガよ、いつになったら気付くのだ?自身の欲望に従え。 薄っぺらい忠誠や善意など捨ててしまえ! お前の中にある「正義」なぞ何の価値もない。さぁ私に従え! 私が誘う世界へ来るがいい!苦しいか?そろそろ、お前の精神も限界だろう?その身体、精神を私に預けてしまえ。解き放て!この地上において我等こそ神だ!絶対的存在なのだ!




「…はぁ、はぁ、またしても…。夢なのか?」





悪夢から目覚め一人動揺するサガ。




そんなサガの様子を、ドアの隙間から覗くカノン。 冷静な面持ちで、心なしか薄ら笑いを浮かべサガに近寄る。




「どうした、サガ?」

「カノン…起こしてしまったようだ、すまない」

「いや、起きていた」

「カノン、私は最近おかしいんだ…お前は何ともないのか?」

「俺がか?ククッ、アハハハハ!」

「何が可笑しい!私は真剣に考えているのだ!最近、私が私でなくなってゆく…。 急に激しい頭痛に苛まれ…それから…」

「…あぁ悪かった。それから?何なのだサガ?」

「時折、記憶が消えているようだ。得体の知れない者が私を支配してゆく…。今までは抑えられたのだが…最近は抑えきれない。その者の力が増大してくような…」

「気がついていたのか?で、夜はどうなんだ?」

「夜?夜は知らない。ただ、最近よく悪夢に魘される。ほぼ毎日だ。 …そんな事より、朝起きると何かが必ず変化している。…持ち出した筈のない物があったり、私の知らない所で何かが起っているような気がするんだ…。……定かではないが」

「…知らぬ方が良かろう」

「まさか、お前、知っているのか?答えてくれカノン!」

「断る…と、言ったら?」




…冷たい壁に映る二つのシルエット。
サガは、カノンの両手首を強く掴み、燭台の上にカノンを打ちつけると、黙ったままの状態で見据える。…その表情は苦く険しい。 カンテラの薄明かりが、その様を克明に映し出す。




…暫しの沈黙




「…答えるのだカノン」

「……」

「カノン!!」




黙秘するカノンに 煮えを切らせ、胸ぐらを掴み激しく揺さぶる。 静まり返った室内に荒々しく響き渡るサガの声と、 サガによって破かれた着衣の音が響き渡る。




ゆらゆらと光を灯す蝋燭。
薄明かりに曝され、着衣の隙間から覗くカノンの肢体。




サガはある異変に気付く。



カノンの上肢に生々しく残る刻印… サガは蝋燭を手に取ると、厳しい口調でカノンに問う。




「カノン、これは一体!?」

「……」




訓練によって出来たものでは無い。聖域でカノンの存在を知る者は、教皇シオンと射手座のアイオロス。何れにせよ、二人がカノンと接触する事は皆無に等しい。なぜなら、教皇指揮の元まだ幼い黄金達を、アイオロスと共に特訓しているからだ。特訓は昼夜問わず続けられる事もある。

夕刻に訓練を終えたとしても、サガ以外の人間が訪れる事は無い。此の場所で共に暮らすのは兄であるサガだけ。他の者が介入する余地など無い。ましてや、カノンは秘される存在。聖域より離れた場所で、ひっそりと暮らしているのだから。その存在を知る者は、他に居ないはず。一体誰がこのような事を?思考を巡らせていると、何かがサガの頭を過っていく。サガは、一旦離した自分の手を、再びカノンの刻印に重ね合わせる……。




「…まさか……」




サガは震えながら、カノンの上肢に手を伸ばす。
…まずは、強く絞められたであろうと思われる首の痣。……それから手首に残る痛々しい痕跡。

…サガはゆっくりとカノンの痕跡に、自分の手指を重ね合わせてみる。…何かの間違いであって欲しい。自分であろうはずが無い。

…縋るような思いで痕跡を辿る。

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