2009-01-05 去年
女の情念を描くことに定評があったのに、
全く浮かばなくなったからだ。
これは中絶のショックだ。
しかし、私はこれを乗り越えなくてはならない。
かつて「あなたがいない世界なら生きる意味はない」と自殺した恋人をも文章のネタにしたように、
エクリチュールこそ私の生なのだから。
だからこそ私は敢えて色恋の渦中に飛び込まねばならない。
女であることの業こそが私にテクストの快楽を与えているのだから。
だが私は死人葛の花を育て、その実を喰らおう。
全てがエクリチュールの源泉であるとすれば、
苦痛をも貴重な体験だったと捉えるより他はない。
■源泉
過去に考えたことがある。
実際にそうである。
最初は違った。
幼子の頃の私は同年代の子供が嫌いで、
それは他人に読ませることが前提であった。
何をどう書けば他人の心を掴むのか。
初めからそれを意識して書いていたのだから、
私はもう20年ちょっと、書くことによるテクストの快楽に耽溺しているのだ。
まだブログがないころ。
ヤフーの登録サイトになるにはクオリティを求められていた時代。
二十歳だった私は、個人サイトの掲示板に気取った書き込みをしてみた。
それが見知らぬ誰かに誉められた。
私はその見知らぬ彼の「もっと作品を読んでみたい」という書き込み一つのために、ソフトも使わず、HTMLからサイトを作り、
また訪れた私の熱心な読者のために書き続け…
私は熱狂的なファンを得た。
私は私のテクストを愛してくれる人と付き合うようになった。
彼に喜んでもらうために書き続けた。
また次の恋人ができると同じことをした。
いつしか私は書き続けるために恋愛をするようになった。
私は私の文学よりも私自身を欲されると、恋人から去るようになった。
私は人間であることよりもエクリチュールであることを選んだのだ。
だから良いのだ。
2008-12-17
雨音がした。
これは柵だ。
超えようと思えば超えられるものを、
何故か私はそこに留まり、まるで檻。
長い腕に包まっていた。
高い鼻から寝息が聞こえる。
電車の走る音。雨の音。隣室から漏れるテレビの音。
買ったばかりのサシェから香る、男の匂いと混ざってムスク。
背中に爪あとを残したいのに、短く切ってしまった爪をそれでも立てる。
ラベンダーだったはずなのに。
幾度となく射精する男に、私はもう、「好き」という言葉は使わないつもりだった。
雨音が私を縛り付けて、私は帰れない。
男の背中が大きすぎて私には退ける力が足りない。
あまりにも自分に適合するペニスを私はまた握ってしまう。
私に来てもいいのよ。
でも私はあなたを束縛しようと思わない。
あなたはあなたで自由にしていいのよ。
それなのに、私が迂闊にも放った言葉が男を捕らえてしまうのだろう。
狭い部屋の中で雁字搦め。
お願いだから私をそんなふうに好きにならないで。
2008-12-16
子宮内膜症という病気にかかったおかげでピルを飲むはめになっていた。
9月からあれやこれやといろいろあり過ぎたせいで、
食欲は落ちていたのに体重が20キロも増えた。
そこから頑張って5キロ落としたところでピル。
何をしたところで痩せない。
漢方薬療法があるということで、そちらに切り替えたら
すぐに生理が来たのだが、不正出血よりも多目の出血なので
辛うじて生理であろうとわかるだけである。
洋服が夏にはSサイズだったのに、今ではLサイズである。
今日もジムで運動をしてきたが、どれほどのものだろうか。
コルセットが大好きで、締め上げては喜んでいたけれど、
今は怖くてそれが出来ずにいる。
外出を恐れては駄目だ。
他人の目に晒されることに脅えてはいけない。
そういうわけで、明日は昔は恋人だった人と映画を観に行く。
正直、自分にとっての彼の立場に名称がなくて困る。
明確に別れたわけでもなく、ただ私の気持ちが冷めてしまった。
けれども彼は今でも私を恋人として認識しており、
私の感情を再燃させようとしているらしいが、どうなのかなあ。
若いころは離れていても気持ちは保たれていたが、
今となるといつの間にか消えている。
かといってベッタリしたいわけではない(負担だ)。
嫌いになったわけでもなく、恋愛感情だけがすっぽりと抜け落ちてしまった。
今の自分が様々な出来事の副作用で太ってしまったことにより、
何だか私如きが彼に申し訳ないような気もする。
ずるずると続いている人、では非道過ぎる。
でも、本当にわからない。
人並み以上の外見を持っているのだから、
私以外の女性も知ってみれば良いと思う。
そうすれば私なんて取るに足りない存在で、
なぜ今まで拘っていたのかという気になるだろう。
本当に、私は取るに足らない。
特に今の私は残りかすのようなものだと思う。
2008-12-04 過去に縛り付けられる者
幾つものしがらみを常に身に纏って生きてきた。
駄目だよ、君の妄執から逃げられない私と、
私への妄執から逃げられない君でうまくいかないよ。
これ以上、君という人間をうんざりさせないでくれ。
後生だ。
---------------------------------
やたらと難しい言葉を使ってみることが詩的だと勘違いしている若い娘を見て、
奇をてらっただけのものに惹かれるその子を見て、
苦笑と共に、振り返り見る我が過去生。
仕事で韓国へ行っていた。
インサドンの路地裏は割りと楽しかった。
私はカオスの中に生じたい。
もはや私を啓発するものは混沌とした街並だけなのかもしれない。
幾つものしがらみが私を縛り付けるけれども、
私はその縄目を潜り抜けて、
ますますしがらみを見つけてくる。
墓穴を掘っては人間模様を楽しんでいるのかもしれない。
たとえ自分が傷ついても、もはや他人を傷つけても。
憶測ばかりの生。
退屈なのだろう。
自分であることに飽きが生じた。
2008-11-28
美しいと思ってしまった。
口付けを拒めなかった。
だからといって、これ以上関係を続けることが出来るのか。
あの顎から首にかけてのラインは美しかった。
黒いロングコートが180cmを超える身長に映えていた。
手すりから身を乗り出した彼を発見したとき、
何かファッション雑誌に掲載された写真の一枚かのように見えた。
拒めども食らいついてくる。
妄執の彼方に私がいる。
現実の私はこれほどまでに冷酷に彼をあしらうというのに、
妄執の理想郷の私は、どれだけ神々しく輝いて、
彼を高みへと導くのだろう。
それは私ではない、現実の私ではない、そう述べても無駄なのだ。
彼が私を見るとき、おそらく私には後光が差しているに違いない。
彫像のように立ち尽くす彼はミケランジェロの手によるものか。
ほんの少し離れたところから、気がつかれないように眺めてみる。
それから私はそっと歩き去る。