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個人より組織責任重視 あたごに海難審勧告

2009年01月23日

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 海上自衛隊の組織としての「不備」が事故を招いた―。イージス艦「あたご」衝突事故で、主因はあたご側にあると言及した22日の横浜地方海難審判所の裁決。遺族や漁協関係者は「いい判断だ」と評価する一方、あたご側は「主張が簡単に否定されるのは残念」と無念さをにじませた。

(長野佑介、杉村健)

 第3護衛隊に見張り体制の構築を徹底するよう勧告を出した今回の裁決は、事故の再発防止に向け、具体的な改善策を示したものだった。

 裁決はまず、当直士官が責任者として的確な判断をしなければならないのは当然だが、人的ミスは避けられないのも事実との立場を示した。その上で、その場合でも、当直士官に準じる責任者である副直士官が、当直士官の判断をもう一度確認する体制があれば、危険な状況を回避できると指摘した。

 また、あたごでは事故時、見張り員に他船の存在の有無のみを報告するよう求めていた。だが、今後は見張り員は担当範囲を厳格にした上で、範囲内の船舶で動きに変化があれば、たとえその船舶をすでに報告済みであっても改めて報告すべきだとした。

 これらの提言を踏まえ、「当直の基本が励行されていない」「見張りの報告体制が十分に構築されていない」といった組織の不備が監視不十分につながり、事故を招いたと、裁決は結論づけた。

 その一方で、あたごの航行指針をまとめた元艦長の舩渡(ふなと)健1佐(53)は勧告されなかった。裁決は舩渡1佐が適切な見張りを徹底させなかったことを「事故発生に至る過程で関与した事実」と位置づけたが、当直士官が十分余裕のある時期に避ける動作をとれば事故は回避できたと判断。「今後、当直士官の留意事項などを艦内に徹底させるべきだ」と説諭するにとどめた。

 裁決で勧告が出たのは所属部隊のみ。個人に勧告しなかった理由について、裁決は「事故は複雑な背景要因から発生しており、総合的に改善しなければ再発防止はできない」と説明。個人の過失より所属部隊の責任を重くみた結論であることを強調した。

◆書類送検の当直士官2人 過失認定に大きな差

 衝突時の当直士官だった長岩友久3佐(35)と衝突前の当直士官だった後瀉(うしろがた)桂太郎3佐(36)は、海難審判とは別に、業務上過失致死と業務上過失往来危険の疑いで書類送検されている。横浜地検はこれまで2人の起訴を視野に捜査を進めてきたが、この日の裁決では、後瀉3佐には「事故との相当因果関係がない」と判断されるなど、過失認定は大きく分かれた。

 裁決は、長岩3佐について「右に避ける回避義務がありながらも清徳丸への監視を十分にせず、進路を避けなかったのは発生原因になる」と指摘。勧告こそ見送ったが、厳しく過失を認定した。

 一方、後瀉3佐については、当直時に清徳丸を含む漁船群を確認したが、接近しないと判断して監視を怠った点、長岩3佐に誤った引き継ぎをした点は事実として認定された。ただ、裁決は「引き継ぎで予断を与えられたとしても、その後に監視を十分に行っていれば漁船に気付くことができた」として、後瀉3佐の過失は「事故との相当因果関係がない」と判断した。

 海難審判に詳しい田川俊一弁護士は「長岩3佐は裁決でも事故との因果関係を認定されており、当然起訴されるだろう。だが、問題は後瀉3佐。当直交代から事故まで10分近く時間が空いており、さらに長岩3佐がしっかり仕事をすれば事故は防げたと裁決も認定している。(起訴は)厳しいのではないか」と話した。

 ◆「見合い関係」絞った裁決に

 東京海洋大学の今津隼馬教授(航海学)は、「人数が多く、当直体制に連鎖的なミスがあった事故だが、通常の衝突事故どおり、事故当時の当直責任者のみの過失が認定された。清徳丸の航跡図がはっきりせず、互いに確実な証拠がない審判で、審判官は『見合い関係の発生』に絞り、裁決を下した。理事官側が主張していた事故9分前よりも後の、7分前と認めたことで、引き継ぎの前の当直士官を過失対象から外したという意味がある。個人は勧告されなかったが、組織に勧告したこと、過失認定で、再発防止としては十分な厳重な処分だと思う」と話した。

 ●写真=裁決を受けるため廷内に入る(前から)イージス艦「あたご」前艦長の舩渡健1佐、前水雷長の長岩友久3佐、前航海長の後瀉桂太郎3佐=22日午後、横浜地方海難審判所、越田省吾撮影

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