「リンゴジュースが売れない」−。日本一の生産量を誇る青森県のリンゴ加工業者が悲鳴を上げ始めている。昨年は豊作に加えてひょう害が発生。さらに今月、生食用の値崩れを防ぐために8500トンのリンゴが加工用に回されることが決まり、加工用リンゴの処理量は7年ぶりの10万トン超えの可能性も出てきた。その一方、飲料メーカーの注文は上向かないまま。板挟みにあう加工業者のリンゴジュースは、このまま冷凍庫で“冬眠”を迎えかねない状況だ。(荒船清太)
県りんご果樹課によると、昨年12月末時点での加工用リンゴの累計集荷量は6万6347トンで前年同期比で124%。平成17年産リンゴの全加工量をすでに上回っている。一方、需給調整分を除いたリンゴ全体の在庫量は25万4839トン。例年通りならその約2割が加工用に回る。今年は、さらに需給調整用の8500トンが加わる見込みだ。
リンゴを売買する移出商で作る県りんご商業協同組合連合会によると、昨年は20キロあたり1000円を超えていた加工用リンゴの価格は、同300円前後に下落。それでも弘前市の加工業者「日本果実加工」は昨年12月に一端、仕入れを停止した。同課によると、ほかにも仕入れを止めた業者があるという。
だが、りんご商協連によると、これまで加工用リンゴを業者が仕入れ切れなかった例はない。日本果汁協会の土谷三之助専務理事は「加工業者は今回もすべてのリンゴを仕入れざるを得ないだろう」と分析する。「農協と商協連で9割のリンゴを販売するため、業者は断れない」からだという。
そうなると、「加工業者は搾った果汁用に新たにドラム缶を買って貯蔵庫を借りざるを得ない」(土谷専務理事)。土谷専務理事によれば、県内の貯蔵庫は魚用が主体で魚臭がつく。臭いのつかない貯蔵庫を求めて物価の高い関東地方に貯蔵する業者も出てくるとみている。
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一方、「仕入れ量は商品展開で決まる。在庫を抱えるリスクを考えると、安いからといって仕入れを増やす必要はない」と話すのは、キリン・トロピカーナの古園篤マーケティング部長。
同協会の統計では、果汁100%ジュースが清涼飲料に占める生産量は16〜19年まで一貫して3.1%。「ゼロサム(富の総量は一定)の世界に入っている」ともいわれる。
特に量販店用に冷蔵輸送される「チルド飲料」の市場では近年、量販店が自前のプライベートブランドの投入を強化している。価格競争が進み、ほとんどは輸入果汁。古園部長は「安定した質を保てる大手以外は淘(とう)汰(た)が進む」と指摘する。
自動販売機やコンビニ用の缶・ペットボトル飲料で常温保存可能な「ドライ飲料」の市場も事情は同じ。アサヒ飲料の広報担当者は「ジュースはコストが高くて利幅が少ない。メーカーも構成比が大きく利幅が大きい缶コーヒーや茶系飲料に経営資源を集中せざるを得ない」と明かす。
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そんな中、国産果汁で市場開拓する動きが出てきている。
相次いだ中国製食品の健康問題や偽装表示事件の影響もあり、伊藤園では産地に関する問い合わせが19年夏ごろから急増。昨年11月に県産リンゴジュースを含む国産原料のみで作った野菜・果実飲料「国産100」シリーズを発売した。
アサヒ飲料からも人気商品「三ツ矢サイダー」に県産リンゴジュースを2割混ぜた商品が昨年8月から販売されている。
ただ、原料の供給量より消費動向を見て生産量が決まるのは国産果汁飲料も同じ。県内の加工業者は「メーカーとは値段の交渉はできても、量はなかなかできない」とあきらめ顔だ。
「生食用の出荷量を一定にして生食用リンゴ価格の値崩れを防ぐ方が、加工用リンゴの値崩れを防ぐより農業全体のためになる」。農林水産省生産流通振興課では加工業者にしわ寄せが及ぶ構図をこう説明する。
県りんご果樹課の塩谷彰課長は「果実飲料市場が成長市場でなくなった以上、新たな調整弁が必要になっている」と指摘する。加工業者の悩みは当分続きそうだ。
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■加工用リンゴの流通経路 青森県内の加工業者や日本果汁協会によると、加工用リンゴの流通経路の概要はこうだ。
加工業者の仕入れ先は、契約農家▽一般農家▽農協▽仲買人や移出商▽卸売市場−の5つ。農協と移出商自身もリンゴジュースの販売をしている。
加工業者が仕入れたリンゴのほとんどはジュースに加工。6割強は、量販店のプライベートブランドを含む大手メーカーの相手先ブランドによる生産や原料用の濃縮果汁に。残りが加工業者の産地直送ジュースなどになって直接消費者に販売される。売れ残りはドラム缶で冷凍保管して翌年に回る。
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