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経済

サバから純国産マグロ 東京海洋大、養殖技術の粋

1月23日12時0分配信 産経新聞


 限られた資源を生かして供給量を増やし、食料自給率の向上につなげるのが、日本の持つ高い技術力だ。その取り組みの一つとして、海とは無縁の八ケ岳のふもとで、稚魚からマグロの養殖につながる実験が行われている。

 ≪4年後の産卵目指す≫

 八ケ岳の山梨県側、標高1100メートルの北杜市大泉にある東京海洋大学(東京都品川区)の研究施設では、氷点下10度になるこの時期、ヤマメが産卵のピークを迎えている。

 このヤマメの卵から2〜3週間で孵化(ふか)する稚魚に、ニジマスの精子と卵子のもとになる精原幹(せいげんかん)細胞といわれる細胞を注入すると、2年後には、オスのヤマメにはニジマスの白子(しらこ)(精巣)が、メスにはニジマスの卵巣が育ち、ニジマスの卵を産む。

 夢のような話だが、東京海洋大学の吉崎悟朗准教授は2003年に、種の保存の観点から、種類の違う魚の腹で精子と卵子を育てる「異魚種間借り腹技術」を確立。現在では1匹のヤマメから約400個のニジマスの卵が生まれ、8〜9割が稚魚になるまでになった。

 昨年夏には、海水魚にも応用できることを確認し、理論的にはサバがマグロの卵を産むことも可能にした。まさに、「トンビがタカを生む」(吉崎准教授)技術で、4年後の産卵を目指して、千葉県館山市で基礎研究を進めている。

 マグロは1回に1万個以上の卵を産むが、卵や稚魚の段階で小魚に食べられてしまったりして、成魚に育つ確率は0.1%以下という狭き門だ。このため、敵に遭う危険性が低い養殖に期待が集まるが、マグロを卵から完全に養殖することは難しい。そこで白羽の矢が立ったのが簡単に養殖できるサバだ。借り腹技術により、将来マグロの卵を産むサバの稚魚をいけすで育てると、同じ大きさのいけすに入れたマグロを生育する場合の数百倍のサバを成魚に育てられるので、それだけ産卵数も増える。餌代も安くすむ。

 吉崎准教授は、借り腹で生まれた稚魚を養殖用に供給するだけでなく、絶滅の可能性もあるクロマグロの稚魚の放流も考えている。「黒い大きな魚体が、悠々と日本の近海を大群で回遊するシーンが今から思い浮かぶ」と熱い思いを語る。

 ≪自給率、40%割る≫

 日本は世界のマグロの4分の1を消費するが、自給率は40%を割り込んでいる。07年度は、買い負けによる輸入減という特殊要因で46%まで上がった。

 日本食ブームや巨大消費地、中国の食の高級化で、国際市場で日本がマグロを調達できない買い負けが起きた。昨年は、原油高による燃費高騰でマグロ漁船が一斉休漁し、品不足につながる事態になった。

 こうした中、養殖への期待は高まるが、実は養殖の歴史は古く、1980年代から日本でもクロマグロの養殖が行われている。30センチ程度の天然マグロの幼魚を捕まえ、2〜3年かけ50キロ程度まで大きくし出荷する。海外で「畜養」と呼ばれる手法だ。養殖には、総合商社や水産大手も参入し、政策研究大学院大学の小松正之教授は「企業の参入が、経営的には破綻(はたん)している日本の沿岸漁業を変える」と期待を寄せる。

 ■資源保護の波 研究に熱い視線

 養殖にも大きな問題が出てきた。養殖ビジネスの拡大で、クロマグロの幼魚の確保が難しくなってきたからだ。大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)が2008年11月、資源管理の対象外だったクロマグロの幼魚を管理対象にすることを決めるなど、世界的に保護の流れが強まっていることも逆風だ。

 クロマグロの完全養殖を実現した近畿大学の熊井英水教授は、今のままの畜養型養殖が続けば「クロマグロの天然資源は枯渇する」と警告する。自給率の問題の前に、食べることができなくなる事態に陥るという。

 熊井教授は02年、近大水産研究所(和歌山県串本町)所長として、いけすでクロマグロの受精卵を採取して孵化(ふか)。成魚に育てて受精卵をとり、また育てるという完全養殖技術を確立した。完全養殖は、天然の資源に頼らずクロマグロを供給できるため、天然資源に手を付けないですむ。今では、完全養殖のクロマグロを「近大マグロ」ブランドで販売するほか、養殖用の幼魚の試験的な出荷も始めた。

 熊井教授は、東京海洋大の借り腹技術について「川魚とクロマグロの違いは大きく、時間がかかるだろう。ただ、共に人工的にクロマグロをつくる技術で競っていきたい」とエールを送る。海洋大と近畿大のアプローチは異なるが、純国産マグロの研究は、水産関係者だけなく、国内の熱い視線を浴びている。(食糧問題取材班)

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最終更新:1月23日13時14分

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