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社説

災害時医療/患者思いやる心を忘れず 

 困っている人を思いやる心は、阪神・淡路大震災で一層、膨らんだ。

 例えば神戸市では、市民救命士は三十五万人を数える。多くの市民ががれきの下から被災者を救い出した経験を持ち、その意味や重要性を肌で感じている。

 だから災害が起きれば、すぐに救援物資が集まり、ボランティアが駆けつける。

 震災以降、災害や事件・事故を経て、救急医療の重要な手順として定着したのが「トリアージ」だ。治療や搬送の優先順位を判断するための負傷者選別のことである。

 しかし、被災地での「思いやる心」から見れば、どうだろう。災害現場でルール化が強まるあまり、かえって臨機応変の対応を妨げている。医療現場からそんな疑問が出ていることに注目したい。

 トリアージはテレビドラマにもなる。助かる見込みのない負傷者を後回しにした医師の判断を、肯定する場面があった。

 実際の現場では、心肺停止の被害者が人目につく路上に放置されたり、トリアージを経ずに病院へ搬送されたことがルール違反として問題になったことがある。

 どうもトリアージに振り回されていないか。兵庫医大の丸川征四郎教授(救急・災害医学)は、そんな指摘をする。

 四年前の尼崎JR脱線事故で、兵庫医大は百十三人もの負傷者を受け入れた。

 教授はそのとき、テレビが映し出す現場の状況から負傷者は数百人に上ると判断。どんな負傷者でも受け入れると決め、発生から約三十分で、緊急の診療態勢を確立した。脱線現場でのトリアージをあてにせず、大学内ですべての患者を振り分けた。

 病院の能力の限界まで負傷者を受け入れる発想は、震災当時、十分な医療を提供できなかった悔しさからきている。「大切なのは他人を思いやる心」と言う。

 トリアージは戦地の発想で、限られた医療資源を有効に使う考え方が基本にある。よほどのへき地ならともかく、医療資源が整う都市部で常に選別する必要があるだろうか。トリアージのためのトリアージになってはならないと、丸川教授は考える。

 この考えは少数派だが、医療が見落としているものはないか、もう一度振り返る上で大切にしたい視点だ。

 災害などに駆けつける医療チーム(DMAT)の整備が全国で進む。震災が生んだ財産だ。それだけに、現場が混乱していても患者を慈しむ心を忘れてはならない。

(1/18 08:56)

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